第17話

「カズくん!ママとも結婚して!」

「は?」

「じゃなかった!ママとも結婚式して!」

「は?」

「結婚式!」


「ママに、ウェディングドレスを着てもらいたいの!」

「そんなの香織がOKするかなぁ。」

「大丈夫!私が絶対に説得してみせる!」

「だからカズくんは手配をよろしく!」


もちろん、形だけの結婚式だ。

さすがに日本では無理だろうという事で、

アメリカに旅行に行った際にする事にして

旅行を6泊8日で行くことにした。


「美来もケジメを付ける!」

「ママを見つけた探偵を貸して!」

「何するの?」

「本当の父親を捜す!会いに行く!」


「それはまず、香織に相談しよう。ね。」

「そうだね。」


すっごい、嫌な顔された!

「止めときなよ。」

頭ごなしに駄目だしされた!

「どうせ、パチンコで借金作って、もう死んでるよ。」


「わかんないじゃん。」

「幻滅するだけだと思うけど。」

「まぁ、好きにしなさい。」

「でも1億円の事は絶対言わないで。たかられるから。」

いったい、どんな父親なのか。不安だ。


許可も下りたので、とりあえず探してもらうことになった。

意外に時間がかからなかった。

この探偵さん、優秀なのかな。


東京に住んでいて、当人と奥さん、

16歳の女の子と14歳の男の子の家族4人暮らしだという。

仕事は普通のサラリーマンだ。

危なそうな人じゃ無くて良かった。

でも不安なので、カズくんにも一緒に来てもらうことにした。


都心ではないが、東京に一軒家を持っているなら、十分すごいと思う。

探偵さんに、大まかに話をしてもらって、今日会う事になっている。


「初めまして。川西美来と言います。」

「初めまして。大友幸彦です。」

「探偵さんから話はお聞きしました。」

「香織さんに私の子供が出来ていたなんて。」

「全く知らなくて、ビックリしました。」


この人はママを“香織さん”て呼ぶんだ。

昔は知らないけど。

漏れちゃったらしいけどね。

とは言わないでおこう。

「ごめんなさい。急に連絡してしまって。」

「ただ挨拶したかっただけなんです。」

「私、この人と結婚したので、その報告だけしたかったんです。」

「ずいぶん年が離れているみたいですね。」

「えぇ。ママの元カレです。」

「はぁ?」


「一緒に、夕食を食べて行ってくれませんか?」

「家族に紹介したいので」

「わかりました。」


夕食はシチューだった。

なんかシチューって、ザ・家庭料理って感じ。

「食事前にパパから大切なお話があります。」

この人は自分をパパって言うんだぁ。


「まずは家族を紹介させてください。」

「こちらが妻の由紀子。そして娘の紀香、息子の優紀です。」


「こちらの女性は川西美来さん。」

「パパが昔、付き合っていた女性とパパの娘だ。」

「パパは昔、会社で嫌な事があって辞めて、ふてくされて。」

「パチンコばっかりして駄目な男でした。」

「その時、付き合っていて、助けてくれていたのが、美来さんのお母さんだ。」

「その人は突然いなくなり、パパは愛想をつかされたと思った。」

「その時には、美来さんがお腹にいたらしい。」

「パパは全く知らずに、この20年を過ごしてきた。」

「美来さんにも、みんなにも本当に申し訳ない。」


「えー。パパってヒモだったの?」

「最低!」

「ほんとに最低な男だったと思う。」


そんな全部言わなくても、良かったのになぁ。

悪い事しちゃったかな。


「口をはさんで申し訳ありません。」

「私たちは決して、お父さんを責めるために来たのではありません。」

「ただ、私たちが結婚をしたので、ご挨拶に来ただけなんです。」

「本当の事を話すのは、とても勇気のいる事です。」

「それをお父さんは果たしてくれました。」

「最低の人が出来る事ではありません。」

「どうか許してあげて下さい。」

「家族に正直でいられるというのはとても素敵な事だと思います。」

「私たちも、皆さんのような、素直でいられる家庭を作りたいと思います。」


「パパ、最低とか言っちゃって、ごめんなさい。」

「じゃあ、美来さんは私のお姉ちゃんになるんですね。」

「お姉ちゃんかぁ。初めて言われた!うれしい!」


「俺は、お父さんに、お礼を言いに来ました。」

「お礼?」

「はい。あなたがいたから、俺は美来さんに出会うことが出来ました。」

「ありがとうございました。」

カズくんはお辞儀をした。


「中田さん、ほんの少ししか話をしていませんが、あなたの誠実さはとてもわかりました。」

「私なんかが言える義理では無いのは重々、承知しています。」

「でも、どうか、美来さんと香織さんをお願いします。」

「わかりました。」

「あと、ひとつお願いがあります。」

「なんでしょうか。」


「“美来”と、呼んであげて頂けないでしょうか。」

「!」

「はい。」

カズくん。私が言えなかった事。

「美来、大丈夫?」

「うん。カズくん、ありがとう。」

「私は紀香ちゃんと一緒で、パパって呼んで良いですか?」

「ああ。」


「美来。」

「パパ。」

パパに抱きついてみた。

カズくんとは違う匂い。

これがパパの匂いかぁ。


帰りの車の中。

「今度ね、紀香ちゃんと一緒に、買い物デートするの!」

「仲良くできるかな。」

「大丈夫だよ。姉妹なんだから。」

「きっと、仲良くなれるよ。」

「お母さんが由紀子さんで、その1文字の紀と香って字で紀香ちゃんだって。」

「ママの香って1文字がはいってる。」

「ママことを思って、名前を付けたのかなぁ」

「どうだろうね。」

「そうだったらいいなぁ。」

「そうだね。」


ちゃんと私を見てくれているのがわかる。

ちゃんと、期待以上の答えを返してくれる。

「カズくんカッコよかったよ!」

「それと、すごく優しかった!」

「大好きだよ!」

「俺も美来が大好きだよ。」


ちゃんとケジメは付けられた気がする。

帰りの高速道路から見る夜景は、とてもキラキラして綺麗だった。


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