第14話

今日は私とママとカズくんの3人でおばあちゃんの家に行く。

私とカズくんの結婚の報告だ。

今日は車ではない。

電車とタクシーで来た。

違う街だけど、同じ県なので20キロ程度の距離だ。

車なら30分もかからない。

無事に帰れるかわからない。とカズくんが言うからだ。

「おばあちゃんは、すごく優しいから大丈夫だよ。」


目の前にはおばあちゃんがいる。

私たちは3人正座だ。

テーブルにはなぜか、包丁がある。

しかも普通の包丁じゃない。

板前さんが使うような分厚くて大きな包丁だ。


「あの、お義母さん。なぜ包丁が?」

「あんたにお義母さんと呼ばれる筋合いはないよ。」

「はい。その通りです。」

「これはね。話によっちゃ、あんたを刺して、私も死ぬ覚悟だよ」

「さあ、正直に話してみな!」


「宝くじで1億円が当たりまして、

そのお金を差し上げる代わりに、子供を産んで欲しいと

美来さんにお願いしたら、OKして頂きまして、

好きになって結婚して、今は香織さんと3人で暮らしております。」


「香織!こいつ殺していい?」

「お母さん、待って!」

「おばあちゃん、落ち着いて!」


「カズくんも、正直すぎ!」


「香織!こいつはお前を傷物にして苦しめたばかりか、」

「かわいい孫にまで手を出して汚すとか!」

「お前を殺して、私も死ぬよ!」


「私は傷物じゃないし!」

「美来だって汚れてない!」

「お母さん、ちゃんと聞いて。」


「おばあちゃん、まずは美来の話を聞いて下さい。」

「確かに、カズくんとの出会いは変な事だったかもしれないけど。」

「今はカズくんの優しい所が大好きなの。」

「年の差だってわかってる。」

「周りから見たら、普通の恋愛じゃないこともわかってる。」

「ママとの事も知ってるし、ママともいっぱい話した。」


「カズくんはママの代わりじゃなく、美来の事をちゃんと見てくれる。」

「いっぱい、いっぱい美来の名前を呼んでくれる。」

「心が繋がってるのがわかる、カズくんの優しさが伝わってくる。」

「だから私もカズくんを好きになった。」

「今はカズくんの事を好きな気持ちが止まらないの!」


おばあちゃんは何も言ってくれない。


「お母さん、もう事故の事は25年も前の事です。」

「私はもう、カズくんを許しています。」

「美来との事も許します。」

「私にはこの20年、美来がいて、寂しくなかった。」

「でも、カズくんは、あれから25年間、ずっと一人で苦しんでたんだよ。」

「もう許してあげようよ。」

「私は美来が大好き。」

「美来とカズくんが幸せそうにしているのを見てるだけで幸せなの。」

「香織、それじゃお前が可哀そう過ぎるじゃないか!」

「私はちっとも可哀そうなんかじゃない。今が、一番幸せなの!」

「カズくんと美来と私の3人で家族なの。」

「どうか許してください。お母さん。」


「・・・・・・」

おばあちゃんは両手で顔を隠してしまった。

傷つけてしまったかもしれない。


「お前たち、こっちにおいで。」

おばあちゃんは静かに立ち上がり、そう話した。

隣の部屋に連れていかれる。

仏壇がある。

おじいちゃんの写真がある。


おばあちゃんが一番前に座る。

私たち3人は、おばあちゃんの後ろに正座した。


「お父さん。」

静かに、いつもの優しい声で、おばあちゃんが話す。

「お父さんの代わりに、話を聞くつもりだったけど。」

「やっぱり、私には難しかったよ。」

「香織は、私たちの大切な、大切な娘だ。」

「美来は、とっても可愛い、私たちの孫だ。」

「この子たちが望んで、幸せだというなら。」

「望むようにして、あげようじゃないか。」

「お父さん、許してあげて下さい。」

おばあちゃんは深いお辞儀をした。


「ほら、お前もお父さんに約束しなさい。」

おばあちゃんが、カズくんにそう伝えて席を空ける。


「お父さん。挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。」

お辞儀をした。

カズくんは写真をまっすぐ見つめて話始める。

「俺は美来を愛しています。」

「俺の一生をかけて愛します。」

「俺は香織をずっとずっと大切に思っています。」

「俺の一生の真心を持って尽くします。」


「どうか、二人を俺に下さい。」

深く、長いお辞儀をした。


カズくんはおばあちゃんに向かい、座りなおした。

「お義母さん。」

「あんたにお義母さんと呼ばれる筋合いはないよ。」

「・・・・」

「今度から“おばあさま“とお呼び。」


「はい。おばあさま。」

「ありがとうございました。」

今日一番に長いお辞儀をした。


「そのかわり、二人のどちらかでも悲しませるようなことがあったら。」

「今度こそ、あんたを刺すからね。」


「お母さん。」

「おばあちゃん。」

「ありがとうございました。」

私たちも深く長い、お辞儀をした。


帰りのタクシーの中、後ろの席に3人で座っている。

カズくんが、もう疲れきってタクシーで帰りたいと言ったからだ。

私、カズくん、ママの順で座っている・

ママは大声で笑っている。


「ひゃひゃひゃ、二人を俺に下さい!だって!」

「お腹痛い!」

「親の挨拶に“二人を下さい”なんて聞いたこともないよ!」

ママのオーバーリアクションは大概、照れ隠しだ。


ママは結婚したことが無い。

だからあれは、ママの初めてのプロポーズと同じだ。


「カズくん、泣いてるの?」

「ちょっと、嬉しいのと、ホッとしたからかな。」

「やっと、お義父さんとお義母さんに挨拶できたから。」


「カズくん、かっこよかったよ!」

私はカズくんの腕に抱きつく。

「私も、くっついちゃお!」

ママは逆の腕に抱きつく。

「あーー。ママずるい!」

「今日だけは良いの!」

「だって、私も、もらわれちゃったもーん。」

「どうだ!両手に花だぞ、嬉しいだろ!」


タクシーの運転手さんは何も言わない。

変な家族としか見えないだろうな。

でもいいんだ!

これが私の家族なんだから!


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