第13話

年が明けてすぐ、1月4日。

今日はカズくんのお姉さんが来る日。

カズくん曰く、

「姉貴は昔から哀川翔さんのファンで、ヤクザ映画ばかり見てるから、姉御肌なんだ。」

だって。

ピンポーン。

「お姉ちゃんが来たぞぉ」

「姉貴、遅いよ。」

「“お姉ちゃん“て呼べよ。」

「やだよ。40過ぎて、お姉ちゃんなんて呼べるか。」


「かおちゃん!久しぶり!」

「お姉さん、お久しぶりです。」


「綺麗になったねぇ。」

「そんなことないですよ。もうおばちゃんですよ。」

「全然、可愛いし。いつまでも、かおちゃんは妹だよ。」


この人はママの事を“かおちゃん”と呼ぶんだ。

そんな風に呼ばれてるの、初めて見た。


「こちらが美来ちゃん?」

「はい、初めまして。美来って呼び捨てて結構です。」

「私も自分の事を美来って呼んじゃうので。」


「かわいい!しかも若っ!」

「色白で、肌も綺麗!」

「見たい!」

「は?」


「カズ!温泉宿を探せ!」

「今日はこれから温泉入って、ガールズトークする!」

「今から?もっと早く言っといてよ。」

「しょうがないじゃん。」

「美来とかおちゃんと、お風呂入りたくなったんだから!」

「ちゃんと2部屋とっとけよ。お前は別室だ。」

「今日は3人でパジャマパーティならぬ、ゆかたパーティだ!」


と急遽、温泉宿に来た。

さすがに夕食には間に合わないらしく、食事は済ませて、お酒だけを頂く。


カズくんは隣の部屋だ。

可哀そうだけど、このお姉さんには逆らえそうにない。

後で、会いに行ってあげよう。


で今は貸し切りの露天風呂に3人で入浴している。

「かおちゃん、ほんとにごめんね。」

「カズのせいで、こんな傷を残しちゃって。」

お姉さんはママの背中を洗いながら話す。

「つらい時期もありましたが、もう本当に大丈夫ですから。」

「気にしないでください。」


「しかも一人で子供産んで、育ててるだなんて、大変だっただろう?」

「なんでお姉ちゃんに言わないのさ。」

「カズと別れたって、かおちゃんは私の妹なのに。」

「すみません。昔の私は視野が狭かったと思います。」

「もっと頼れる人はたくさんいたはずなのに。」

「これからは、ちゃんと私を頼るんだよ。」

「カズが何か迷惑かけるようなら、ぶっ飛ばしに来るから。」

「はい。」


今度は美来、こっちおいで。

背中流してあげる。

「はい。」

「ほんと、肌が白くてきれいだね。」

「ありがとうございます。」

「カズから聞いたよ。25歳も年上とかほんとに大丈夫?」

「大丈夫です。私はカズくんが大好きです。」

「今はいいけどさ、美来が40歳になったらカズは65歳だよ。」

「セックスだって出来なくなっちゃうかもしれないよ。」

「大丈夫です。カズくんは優しいですから。」

「介護しなくちゃいけなくなるかもよ。」

「大丈夫です。」

「今、いっぱい幸せをもらってますから、恩返しをします。」

お姉さんが背中から抱き着いてくる。

「ごめんね。美来。試すようなことを言って。」

「大丈夫です。」

「カズくんと結婚するって決めたときから、いろんな人にいろんな事を言われる覚悟をしました。」

「もっとひどい事を言われる事も想像して、覚悟しました。」

「そっか。ありがとう。」

「美来さん」

「これは、他人行儀な意味じゃない。」

「大人と大人のお願いの話だから、礼節を持って美来さんと呼ばせてもらう。」

「わかってくれるかい?」

「はい。」

「私はバツ2で2回結婚して、2回離婚してる。」

「今は一人だけど、思い出がいっぱいあるから、全然寂しくない。」

「人は思い出がいっぱいあるほど、幸せな最後に向かっていけると思うんだ。」


「カズはね。グズで未練たらしくて、バカで間抜けでどうしようもない。」

「でも、優しい奴なんだよ。」

「はい。」


「あいつには、思い出が足らないんだ。」

「ずっと一緒なんていなくてもいい。」

「2年でも、1年でもいい、あいつに思い出を与えてやって欲しい。」

「あいつをよろしく頼む。」

お姉さんが頭を下げてくる。

「お姉さん。頭を上げて下さい。」

「私だけなら不安かもしれなかったけど、私にはママがいます。」

「任せて下さい!必ず、私とママとカズくんの3人で幸せになってみせます。」


「そうだな、相川翔さんも言っていた。」

「何かをしようとする奴は、何もしない奴よりすごいって。」

「ありがとう。」


「かおちゃん!すごい良い子だな!美来は!」

「そうなんですよ。私の宝物です。」

「これからは美来って呼ぶからな。」

「美来もかおちゃんと一緒に、私の妹な。」

「義姉妹の盃を交わすぞ!」


「お姉さんにはお礼を言いたかったんです。」

「なんでだい?」

「カズくんのセックスが上手なのは、お姉さんとママが教えてくれたって聞きまして。」


「はははっ。そうか、あいつがセックス下手だったら今は無いのか!」

「じゃあ、かおちゃんが仕込んだおかげじゃないか!」

「そこはいろいろ、すごく複雑なんですよね。」


「美来の父親とは連絡とってないのか?」

「あんなパチンカスは思い出したくもないです。」

「え!今、衝撃的な話が、さらっと聞こえたんだけど。」

「言った事なかったっけ?」

「仕事もしないで、私の給料でパチンコやってたクソ野郎だよ。」

「しかも外に出すから大丈夫。とか言ってたくせに。」

「漏らしやがって妊娠しちゃうし。」

「え!?私って漏れて出来ちゃった娘なの?」

「大丈夫よ。美来はタネはクソだったけど、卵が優秀だから。」

「全然フォローになってないよ。衝撃的すぎるよ。」

「私って望まれてなかった子なの?」

ママが抱き着いてくる。

「ごめんね!ママの言い方が悪かった!」

「望まれないで生まれてくる子なんていないよ。」

「だって、出産はほんとに怖いし、痛かったんだよ。」

「それでも、お腹の子のために為に女の人は頑張るんだよ。」

「私だって、美来が元気に生まれるようにいっぱい、いっぱい望んだよ。」

「ママ、わたしこそごめん。」

「ありがとう。」


「子供のころ、父親の事をママに聞いたら、すごい嫌そうな顔してたから。」

「なんか悲しい出来事があったのかと思ってた。」

「思い出したくなかっただけじゃないの?」

「父親がパチンカスなヒモ野郎だったなんて、ショックすぎるわ。」


「カズくん!来たよ!」

「姉貴は?」

「ママと一緒にお酒飲んで寝ちゃった。」

「カズくんの部屋行ってきますって置手紙書いてきた。」

「姉貴が何か、迷惑かけなかった?」

「ううん。すごい優しい人だった。」

「カズをお願いしますってお願いされちゃった。」

「それでなんて答えたの?」

「任せて下さい!って言ったら喜んでたと思うよ。」

「お姉さんが良い人で良かった!」

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