第11話

「カズく~ん。」

「今度は何?」

「結婚して~。」

「は?」


「今度はどんな映画を見たの?」

「子供がおもちゃを欲しがってるんじゃないよ。」

「似たような感じだよ。説明して。」


「来月、ママの誕生日でしょ。」

「私たちの結婚をプレゼントしようと思うの。」

「えー。そんなの喜ぶかな。」

「それだけじゃなくてね。」

「・・・・・」


「なるほど。」

「それはいい思い付きだね。美来は良い子だね。」

やさしく頭を撫でてくれる。


「じゃあ、その前にちゃんと言わせて。」

私の手を引いてベッドに連れていく。

隣に座って、でも上半身はまっすぐ私に向いている。

私の両手をカズくんの両手でやさしく包まれる。

まっすぐ目を合わせてくる。


「俺は美来が大好きだ。」

「美来を愛している。」


これは・・・


「俺の残りの一生、俺のすべてを差し上げます。」


これは・・・


「だから、どうか俺と結婚してください。」


プロポーズだ!


初めてだ!


「喜んで!」


嬉しい!

嬉しい!

嬉しい!

カズくんに思いっきり抱きついた。


「カズくん!大好き!」

「抱きしめて!」


やさしくキスが帰ってくる。

抱きしめてくれる。


ホテルにやってきた。

今日もお泊りコースだ。


カズくんのセックスは長い。

2時間で終わった事がない。

私はカズくんの前に2人しか付き合ったことがないので、

普通の人がどれくらいの時間するのかはよくわからない。

それでも普通でないことはわかる。

終わった後の時間がとっても長いのだ。

30分くらいはベッドでイチャイチャしてくれる。

高校のころ付き合った彼氏はすべてあわせても30分かからなかった。

時間がなかったのも大きいと思うが、


20分も我慢してれば終わった。。

あとは着替えて帰るので余韻も何もなかった。

ほんとはセックスなんてしたくなかった。

喫茶店で30分話をするほうがよっぽど楽しかった。

でも求められるから仕方なかった。



半年ぐらいでこんなに価値観が変わってしまった。

今はとってもこの時間が好き。

キスしたり、抱き合ったりもするけど、

ほとんどは大したことない会話をしてる。

学校でのことを話したり、友達のことを話したり、

好きな食べ物の事や、今度行ってみたい場所など

ゴロゴロして、話をしてるだけ。

ただそれだけだけ、それが心地いい。


「カズくん、愛してる。」

「俺も、愛してる。」

「美来は俺の大切なお嫁さんだ。」

やさしくキスして抱き寄せてくれる。

“お嫁さん“だって。

嬉しいな。


今日はママの誕生日。

ママとカズくんと3人でディズニーランドにやってきた。


「ディズニーランドきたぁあ!」

「ママは大喜びだ!」


「これが噂の、バースデーシール!」

身分証を見せてバースデーシールをもらう。

これを見える場所に付けておくと、気が付いたキャストさんからお祝いされる。

「お誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「ひゃぁ!嬉しい!」


時間は19時55分。

もうすぐ、花火の時間。


「ママ。大切な話があるの。」

「まず、内緒にしていてごめんなさい。」

「私たち、今日結婚しました。」


「は?」


「今日の朝、婚姻届けを出してきました。」

「婚姻届けは24時間受け付けてくれるから、朝、来る前に出してきた。」


「美来はカズくんを愛しています。」

「同じくらいママも愛しています。」


「俺は美来を愛しています。残りの一生をかけて美来を愛します。」

「同じくらい香織が大切だ。これは昔から変わらない。」

「これからもずっと、香織を大切にします。」


「「私たちは」」

「ママを」

「香織を」

「「一生をかけて幸せにすると誓います」」


今日はママの誕生日。

私たちの結婚記念日。

それだけじゃない。

私たち家族3人が幸せになると誓った記念日になった。


「美来・・・」

「カズくん・・・」


20時。

大きな花火が打ち上がる。

美来が考えた演出だろうか。


今まで、正直、辛い事もあった。苦しいときもあった。いっぱい悩んだ。

いっぱい後悔もした。

でも、全部が報われた気がした。

今日、今、この時のために、この25年があったんじゃないかとさえ思う。



「ふたりとも、ありがとう。」

「最高の誕生日だよ。」


「では、これが本当の誕生日プレゼント。」

「ママには私たちと一緒にハネムーンにご招待します!」


「ええぇ!さすがに嫌だよ!」

「娘のハネムーンについていく母親がどこにいるのさ!」


美来に封筒を渡される。

「フフフ。ママ、」

「行先は、フロリダだよ。」


「な!なんだと!」


「ママ、開けてみて」

「実際は日付も決まっていないので、約束状みたいなものだけど」


開けた封筒の中にはバースデーカードが入っていた。

大きくて、可愛い、美来の字だ。


“ママ!お誕生日おめでとう!”

“美来とママとカズくんの3人で行く”

“5泊7日のフロリダ“

“ディズニーリゾートご招待券”


と書いてあった。


「マジか!」

「本場のディズニーランド!」

「行く!絶対行く!教師が首になっても絶対行く!」

「テンションあがってきたぁあああ!」


「あのフレーズはママ譲りなの?」

「そうだよ。」

「美来もテンションあがってきたぁああ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る