第2話


「このお金はもう私の物だからな!」

「返さないぞ!」


「もちろん。それはすべて、君の物だ。」


「その代わり、お前の子供を産んでやる!!」


「ところで、あなた、名前は?」

「俺は、中田 和弘。45歳。」

「私は、川西 美来みく。20歳。」

「25歳も離れてるのぉ。」

「そうだね。」


美来みくは、」

「あぁ、あたしは自分の事を“美来みく”って呼ぶの、癖だから気にしないで。」

美来みくは、あなたをママのアルバムで見たことがある。」

「香織の娘さんでしょ。」

「ママの元カレなの?」

「そうだね。香織とは、25年も前に別れてるけど。」



今、私はこの男と一緒に、ママの前にいる。

「えー。私はこの男と契約して、

宝くじで当たったという1億円を頂き、この男の子供を産むことになりました。」

「つきましては、この家で私の世話をするために、一緒に暮らします。」


セックスした後、ホテルで契約をした。


「その代わり、お前の子供を産んでやる!!」


「私はお前の子供を産む。それだけでいいんだな!」

「結婚したりしないし、子供を産んでからは一切、他人だからな。」

「もちろん。それで良いよ。」


「でも、あんたに子種が無いかもしれないだろ。年も年だし。」

「いつまでもって訳にはいかない。」

「2年だ。2年で妊娠しなかったら、それ以降はしない。」

「そうだね。わかった。2年で無理だったら諦める。」


「妊娠しなくてもお金は返さないぞ。」

「もちろん。それで大丈夫。」

「そのお金はすべて、もう君のお金だ。」


「あと追加の条件を出す。」

「一つは私の気が乗らない時はセックスをしない。無理にするのは絶対に嫌だ。」

「わかった。」

「もう一つ、恋人ではないからセックスするとき以外は私に触れない。」

「なれなれしくしない事。」

「わかった。」

「最後に一つ、私の面倒を見る事。」

「食事、掃除はそっちがする。自分の洗濯は、自分でやるからいい。」

「ようするに、一緒に住んで私の世話をする事。」

「わかっ・・・え?」

「一緒に住むの?俺の家は1Kだから部屋無いよ。」

「住むのは私の家!」

「お母さんは?許してくれるの?」

「それはこれから話す!」



「はぁ??」

「この男って・・・“カズくん”じゃない!」

「なにやってんの?」


「25年ぶりだね。久しぶり。」

「今はシステムプログラマーをやってる。」


「いや、仕事の話じゃないよ。」

「なんでこんな話になってるのかを聞いてんの!」


「たまたま宝くじで1億円が当たったんだけど、使い道が思いつかなくて。」

「娘さんに会って、俺の子供を産んで欲しい!とお願いしてしまいました。」


「いやいや、おかしいから。」

「美来はまだ20歳で、カズくんは45歳でしょ。」

「親子ぐらい年が離れてるんだよ。」

「美来だって、初めて会った男にそんなこと言われてOKしてんじゃないわよ。」


「会ったのは初めてだけど、ママのアルバムで見たことあるよ。」

「アルバム?見たの?」

「ごめんなさい。昔、見た。元カレでしょ。」

「知ってるなら、なおさらじゃない!なんの嫌がらせなの!」


「美来、ちょっとこっちの部屋に来なさい!」

「あんたたち、もうしたの?」

「した?ああセックス?昨日したよ。」

「すっごく気持ちよかった!今までで一番!」


「はぁ。」

「で、なんで一緒に住むのよ。私の家なんだからね。」

「ママは大好き。感謝してる。尊敬もしてる。」

「ママとは離れたくない!」

「それに1億円だよ。」

「もう貰っちゃったし。返す気はないし。」

「そうしたら、一緒に住む方が良いじゃない?」

「どうせ期限も2年って決めてるし。」


「うーん。」

「確かに、美来がいなくなるのはママも嫌。」

「わかったわよ。誰に似たのか、言い出したら聞かない子だし。」

「じゃあ、条件はのんでもらうからね。」


「という事で、条件を追加します。」

「入浴順は、私かママが先、あなたは最後。」

「男の人の後にお風呂に入りたくない!とママが言ってます。」

「さらに、毎日、お風呂掃除をする事。」

「最後に、世間体があるから、私の事は美来、ママの事はママ。」

「私はあなたの事をパパと呼びます。」

「世間的には普通の家族に見えるように接する事。以上です。」


「・・・・・」

「わかった。」


こうして私たちの家族生活が始まった。


あの男、ママの元カレ。

私に1億円で子供を産んで欲しいと頼んできた男。

私がパパと呼んでいる男が引っ越してきて、1週間が経過した。


初めて会った日にセックスをしてからはしていない。

契約通り、体を求める素振りも、体に触れてくることもない。

契約のせいなのか、家にいるからか、ママを気にしてかはわからない。


料理はあの男が担当している。これも約束通り。

一人暮らしで自炊していたのか結構おいしい。

いや、ママよりも美味しい。

私は料理が全く出来ない。

しかも、私の好物がちゃんと出てくる。

私はピーマンとナスが好きだ。嫌いな人もいるはずなのに。

なぜか言ってもいないのに出てくるし、嫌いなものは出てこない。

なんなのだ。この男は。


もう3人で食事するのは慣れてきた。

「かーーーーー!」

「仕事の後のビールは最高だね!」

ママは毎日、ビールで晩酌をする。

20歳になって晩酌の相手は私だ。

私もお酒が好きらしい。

「2人ともすごく美味しそうにビール飲むね。」

この男は、あまりお酒が強くないらしい。

いつもコップ半分のビールをちびちび飲んでいる。

人生の半分は損してると思う。


2年で子供を作る!なんてとんでもない事を言った割には何もしてこない。

私が触るなと言ったのだけど、何の素振りも見せてこない。

昼間は自分の部屋で仕事をしている。

今は楽しそうに朝食を作っている。


生理前だからか?

「・・・・」

「なんかムラムラする!」


「今日するからな。」

「何を?」

「セックスだよ!子作り!」

「わかった。」


「その前に、あなたにはデートをしてもらいます。」

「私の気が乗らなかったらセックスしないから!」

「せいぜい満足するデートを考えなさい。」

「わかった。頑張ってみるよ。」

「あなたたち、朝食の時にそんな話しないでよ。」


「デートのコースは決まった?」

「ディズニーランドはどうかな?」

「ほうほう。いい選択じゃないか。」

私もママもディズニーランドが大好きだ。

年に2回は行っている。本当はもっと行きたい。

年パス欲しいけど。それは卒業したら叶える。

ってそうか。1億円あるなら買えるな。

今度、ママに聞いてみよう。


「おお!テンション上がってきたぁ。」

「じゃあ、どの服で行こうかな。なんか好きな恰好とかある?」

なんとなく聞いてみた。

「うーん・・・。ワンピースかな。」

「ふーん。」

そういえば、ママのアルバム、ワンピースが多かったような気がするな。

・・・この男の趣味か。


「これでどうよ!」

「すごく可愛いよ。」

奢ってくれるわけだし、これぐらいサービスしてやるか。

私はワンピースを選んだ。


今、私はラブホテルにいる。

ディズニーランドに行った後、食事をして少しお酒を飲み。

いい感じである。


私はこの男に興味を持っている。

今日はこの男を分析するつもりだ。

この男が何をしているのか。

なんでこの前は気持ち良かったのかを見極めたい。


「電気は一番小さい明かりにして。」

「わかった。」


手があったかいな。

体もあったかい。体温が高いのかな。

キスが多いな。

おでこ。瞼。頬。首筋。

脱がした服を丁寧にソファに置く。

なんだそれ。


なんか自分がされてることを上から見てるみたいでちょっと楽しいな。


抱きしめられた。

あったかいなぁ。この人。冬はこたつ代わりにできそうだ。

「美来。」

「・・・!!」

初めて名前で呼ばれた!!

反則だろ。それ。

お酒飲みすぎたかな。

頭がぼーっとしてきた。

この人の触り方は痛くない。

私は肌が敏感なので助かる。

セックスって痛いのを我慢するばっかりで、

何がいいのか、わからなかったからなぁ。


とっても優しかった。

とっても良かった。

とってもあったかかった。


頭をなでてくれる。キスしてくれる。


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