1億円積まれたので、ママの元カレの子供を産んでやろうと思う

三九ななな

第1話

目の前に1億円がある。

帯付きの1万円の束だ。リアルで初めて見た。

アタッシュケースに、それがいっぱい入っている。

その先には、名前も知らない男、恐らく、40過ぎの男が座っている。


「ごめん、多分、私の聞き間違いだと思うから、もう一回、言ってくれる?」


「ここにある1億円をすべて差し上げます。」

「これで俺の子供を産んで欲しい!」


この男は、いったい何を言っているのだろう?

1億円?

子供を産む?

子供を産んで欲しい?って言った?

訳が分からない。


名前は知らないが、私はこの男を知っている。

ママのアルバムで見たことがある。

若いときのママの隣にはいつもこの男がいた。

もちろん、年はとっているが、見分けがつかない変化ではない。

間違いないママの元カレだ。


本当の父親ではない。

私の本当の父親は顔も知らない。

私がママのお腹にいる時には、すでに父親とは別れていた。

昔、父親の話を聞いたとき、

ママはとても嫌そうな顔をしたので、それ以降聞いていない。


私はむしゃくしゃしていた。

虫の居所が悪かったのだ。

何かあったわけではない。

大学がつまらない。

バイトもつまらない。

男もつまらない。

これといった趣味もない。

将来の夢もない。

何がしたいのかもわからない。


私は今、ラブホテルにいる。

目の前には1億円がある。

「なんだ、この状況は・・・」

といっても、私の意思でラブホテルに来た。

むしろ、この男を引っ張って連れてきた。

「私は何をやっているのだろう。」


「わかりました。」

「あなたの子供を産めばいいのですね!」

「じゃあ、セックスしましょう!」

「今すぐに!」

といって、この男を引っ張って連れてきた。


セックスは経験済みだ。

私の経験人数は2人。

初体験は17歳。同じ年のクラスメイト。

付き合って3か月でセックスをした。

その後、半年ぐらい付き合ったが、別れた。

毎回毎回、体を求めてくるので面倒くさくなった。

二人目は大学に入った後、18歳の時。

同じ年には懲りたので2つ上の年上の先輩からの告白を受けた。

他の女と浮気したのですぐに別れた。

男はセックスが出来れば、誰でもいいのだろうか?

男は本当に面倒くさい。


この男もきっと同じ。ヤリたいだけだろう。

1億円というのも、バカバカしい。

絶対、嘘に決まっている。

でも、この男を連れてきたのは、ちょっと興味があったからだ。


私はむしゃくしゃしていた。

誰でもいいから、私を壊してほしかった。

何もない。何もできない。何もやりたいことが無い。

私なんか、滅茶苦茶になってしまえばいい。

その相手がママの元カレだという。

笑えてくる。


だからOKした。

好き勝手にすればいい。

OKしたと言っても、どうせ嘘に決まっている。

1回したら訴えて、1億円とはいかなくても1千万円ぐらい支払わせてやる!

さぁ!来てみろ!やってみろ!


「ライトは全部消して。」


私はセックスが嫌いだ。

性欲が無いわけではない。

痛いのだ。

気持ち良くないのだ。

スッキリしないのだ。

だから嫌い。


「・・・・・」


朝、ラブホテルで目を覚まして、呆けた。

手の平で口を押え、昨日の事を思い出す。


なんだ、あれ。

すげぇ。

すっごい、気持ち良かった。

ぶっちゃけ。

今までで一番、気持ち良かった。


なんで?

すごく優しくて、すごくあったかくて。

まるで壊れ物を扱うみたいに大切にしてくれた。

あったかい心が伝わってきた。


昨日まであった“むしゃくしゃ”した気持ちが無くなっていた。

あったかい気持ちだ。

今なら何でも許せる感じがする。


これが賢者タイムってやつなのか?


「あれ?もう起きてるの?」

「おはよう。」


「おはよう。」


良いじゃないか!

売ってやるよ!

私の体!

1億円で!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る