第13話 その敵は属性が渋滞しているようで

「俺、村から出たことないから知らなかったけど、貴族ってこんなに強かったのか……」

「私、こんな強い人見たことないです……」


 俺もリリスも目の前で起きた光景に呆然としてしまう。

 なぜなら、貴族と言えば金と権力を使って威張り、取り巻きが凄い凄いと持ち上げるから自分が強いと勘違いして、自分より強い平民を虐めて愉悦に浸ってるイメージだったからだ。

 それなのに今のフィオの姿は明らかに強者。しかも圧倒的な。


「ちょっとちょっと?お〜い! なんか勘違いしてるっぽいけど、貴族がみんなこんな事出来るわけじゃいかんね?」

「そ、そうなんですか?」


 ビクビクしながら聞くリリスがちょっと可愛い。


「当たり前じゃん! フィオはちょっと特別なの」

「特別?」

「まぁ色々あってね。それに……このくらい強くならないとマジでヤバかったから。じゃないとあのクソ女に殺されてたから……」


 何を思い出したのか、フィオは暗い表情になる。


「殺されるって何があったんだよ」

「ん〜? やっぱりそれはナ・イ・ショ♪」


 てっきり令嬢時代に何かあったのだろうかと思って聞いてたけどいつものノリで軽く流されてしまった。


「自分から気になるように言っておいてそれかよ」

「ふっふっふ。言葉に含みを持たせるのも良い女の魅力の一つだよ〜。ま、気が向いたら教えてあげる」

「わかったよ」


 まぁ、言いたくないならいいか。それよりも気になる事がある。それを聞こうとすると、俺より先にリリスが口を開いた。


「フィオさん! さっきの技ってなんなんですか? 私、全然見えなくて……。フィオさんの手が光ったと思ったらいつの間にか魔物があんなことになるなんて……」


 リリスはフィオに詰め寄りながらそこまで言うと、絶命した魔物にチラリと見るとすぐにフィオに視線を戻した。


「あれはねぇ……星を砕き天をも穿つ蒼き一撃」


 無駄にキリッとした顔で言うフィオ。

 ってなんか無駄にカッコイイんだが!? カッコイイけどリリスが聞きたいのはそういう事じゃないと思う。それじゃあ何もわからないだろ。


「なるほど……。つまりあの一瞬でフィオさんは空を抜けてその先の星ですら破壊する程の強さと速さで拳を突き出し、それによって発生した高熱を纏った衝撃波であの魔物を倒した。という訳ですね?」


 その謎理論、脳筋かな?


「あ、え? あ〜うん、多分そんな感じ?」


 あ、これは絶対嘘だ。だって目が泳いでいるから。


「なぁ、もしかして自分でも分かってないんだろ?」


 だから俺はフィオに近付いて小声で聞いてみた。するとフィオは気まずそうに答える。


「だ、だってフィオもわかんないんだってば。なんか強くなるために頑張ってたらいきなり覚えて、それからは名前叫べば出るんだもん」

「出るんだもんって……いや、まぁ俺の魔法も似たようなもんか。急に覚えたから魔術理論も何も無いからなぁ」

「そうそう! そんな感じ! レノっちもどうやって魔法撃ってるか聞かれても困るっしょ?」

「……困る」

「それじゃあお互いの力には触れないって事で……おけ?」

「おけ」


 そしてここに同盟が誕生した。


 ◇◇◇


 それから俺達は極めて順調に山を降りていく。

 近接戦闘はフィオ。中遠距離は俺の魔法。


 覚えたばかりでいきなり勇者と戦ったこともあってその時は闇雲に使っていたけど、今はちゃんと考えて使えている。

 そして思った。


(これ、チートだな)


 本などで知っていた魔法だけじゃなくて、今まで知らなかった魔法も使えるようになっていた。

 しかもいくら撃っても魔力が尽きる様子がない上に、威力も段違い。

 今までだったら、誰でも使える生活魔法を少し使うだけで魔力が尽きていたのに。

 それに頭の中になんかモヤがかかっているような感覚があって、それも何かの魔法の知識だという確信がある。おそらく何かきっかけが必要なんだろう。


「あ、レノ様。もしかしてアレ、街道じゃないですか?」


 俺の腕に絡みついてるリリスにそう言われて視線の先を追うと、そこにはたしかに人の手で整備された道があった。


「良かった……。飛ばされたのが未開の地だったらどうしようかと思ったけど、これなら道を辿っていけば人いる場所に行けるかもしれないな」


 そう安心した時だ。


『オホホホホホホ! あなた達は誰ですの〜!? ワタクシ、この辺一帯を管理している魔族が一人、ルンルンラーンと申しますの。さっきから山の中でワタクシの配下の魔物をぶっ殺してくれてとても怖いのでどっか行って下さいませんこと!?』


 空から声が聞こえて上を見上げるとそこには、腕に包帯を巻いた楽しそうな名前の顔を真っ青にした色白金髪縦ロールゴスロリ幼女が浮かんでいた。




━━━

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