第12話 思ったよりバランスの良いパーティのようで

「じゃあ行こうか」

「はい!」

「おっけ〜」


 俺達は山を降りる為に歩き出す。

 女神から力を貰った賢者と、ローブの下は半裸の剣を持ってない剣姫に、元悪役令嬢なギルドの元受付嬢で結成された逃亡者パーティが。


「いや、どんな集まりだよこれ。戦えるのが俺しかいないって……」

「すいませんレノ様。私、剣以外はほんとダメで……」


 そう、リリスは剣を持っていないとポンコツだったのだ。魔法も使えず、山の中で材料を集めて弓でも作ろうかと提案したけど、弓も使えないとのこと。


「いやいいんだ。あのままリリスの剣を持って歩くのは危ないからな。俺の剣があれば良かったけど、あの森に置いてきちまったし」

「レノっちにはもう一本剣があるじゃん。フィオは知ってる」

「ん? いや、持ってないぞ?」

「ほら、そ・こ・に♪」


 そう言いながら俺の腰の辺りを指さすフィオ。


「お前いきなりなにを──」

「レノ様そうなんですか!? ちょっとその剣握らせてください!」

「だ、ダメだ! つーか剣なんて無いから!」

「なんで隠すんですか!? 剣士として使う剣の握り心地は凄く大事なんです! ってあれ? ホントに無いですね。どこにあるんですか?」

「だから無いって言ってる! 見ればわかるだろ!?」

「嘘ついたんですか!?」

「嘘をついたのはフィオだから! 俺じゃない!」

「あははははっ! 超ウケる〜!」


 そんな俺とリリスのやり取りをみて大爆笑するフィオ。そして騙されたと知ったリリスは頬を膨らませてしまった。


「フィオさんはひどいです。剣士の私にあんな嘘をつくなんて」

「リリたんゴメンって。そうだ! いい事教えてあげる!」

「なんですか?」

「あのね……」


 今度は俺に聞こえないようにリリスに耳打ちするフィオ。


「……は、……の……で……その……」

「ふぇ!?」

「それで…………ってこと」

「はわ、はわわわ……!」


 そして何故か顔を真っ赤にして俺をチラチラ見てくるリリス。


(今度は何を吹き込んだんだ?)


 そんな事を考えていると、リリスが俺の横にピタリとくっついて小さな声でこう言った。


「あ、あの……私がレノ様の剣の鞘になります……よ?」

「なぁっ!? ちょっ、それどういう意味で……ってフィオか? フィオが言ったんだな?」

「だ、だってフィオさんがそういえば男性は喜ぶって……」

「お前、子供になんて事を!」

「だって仲間の恋は応援したくなるじゃん?」

「やり方!」

「まぁまぁ落ち着いてってば。ほら、お詫びにフィオがリリたんの代わりに戦ってあげるから。ね?」

「……は?」


 戦う? 何を言ってるんだ? だってフィオはただの受付嬢のはず……。


『ブルゥ……』


 と、その時、森の中から一匹の魔物が現れた。まるで角の生えたイノシシのような姿。こんな魔物はラウディア王国では見たことがない。

 そしてその魔物は明らかにこちらを狙っていた。


「二人とも俺の後ろに!」

「あ、だいじょぶだいじょぶ。ちょっとここはフィオに任せてみて?」


 そう言うと、どこからか出した指ぬきグローブを両手に装着するフィオ。拳の部分には鉄板らしきものが付いていた。


「任せてって……」

「まぁ見ててよ〜」


 フィオはそう言うと魔物から少し離れた場所に立つ。大きく息を吸うと、フィオの髪と右手が蒼く輝き出し、その手でかかってこいよとでも言いたそうに手招きをする。するとそれを見た魔物は怒り狂い、鼻息を鳴らしながら突進して来た。

 そして──


「【星天蒼撃せいてんそうげき】」


 フィオがそう言って拳を突き出した瞬間、魔物の胴体には大きな穴が空いた。傷口は焼き焦げていて、血も出ていない。そして魔物は自分が何をされたのかもわからないまま、ゆっくりと倒れて絶命した。


「何が起きたんだ……」

「どう? 凄いっしょ? 褒めて褒めて〜♪」

「い、今のは?」


 俺がそう聞くと、フィオはギルドでは見たことが無い笑顔でこう言った。


「ん? 今の? まぁいわゆる……元公爵令嬢の嗜み的な?」

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