第10話 どこまでもついて行きます

「大人なのでいつでも結婚出来ます。大人なのでもちろん子供だって産めます。だからレノ様、私はいつでもどこでも大丈夫で──」

「とりあえず話の続きを頼む」

「わかりました」


 訳の分からない大人アピールをスルーして話の続きを促すと、リリスは再び真剣な顔になって話を続ける。


「ある日、城にラウディア王国から書状が届いたんです。魔王討伐の為に剣姫の力を勇者に貸してほしいと。それを父はとても名誉な事だと喜びました。私も城での生活に窮屈さを感じていたのと、旅の中で剣の腕を磨けると思ってすぐに賛同の意志を伝えました」

「それで王都に来たってわけか」

「はい。そして勇者の元には、私の他に魔法使いのミリアさんと神官のガイレスさんが集まり、冒険に備えて息を合わせるという名目で、あの男が用意した屋敷で共同生活をしつつ訓練をしていたんです」


 ここまで聞くとまだまともだ。

 知り合ったばかりでいきなりクエストを受けると、息が合わずに怪我したりするからな。ましてや危険な魔王討伐の為の旅なら尚更だ。ただ、男女で組むと色恋沙汰でいろいろあるらしい。俺には無縁だったけど。


「最初はみんな仲良く楽しく過ごしていました。ですがそんな生活が徐々におかしくなっていったのです」

「なにがあったんだ?」

「あの男が私に執着するようになったんです。何をするにもどこに行くにも常に傍にいて、まるで他の二人がいないかのように振る舞い始めました」

「共同生活でそれはダメだろ……」

「その通りです。そのせいであの男に惚れていたミリアは不機嫌になり、食事中にいきなり勇者と体の関係があったことを叫び出したり、ミリアのことを想っていたガイレスはそれを聞いてあの男に掴みかかったりしたんです」


 それを聞いたフィオが立ち上がって叫ぶ。


「まじキショいんだけど!」


 俺もそう思う。


「フィオさんの言う通りです。そして、そんな嫌な雰囲気のまま過ごしていたある日、私の目の前であの男がミリアさんとガイレスさんの命を奪ったのです」

「は?」

「私は問い詰めました。なぜこんな事をしたのかと。すると彼は正気とは思えない目で私を見つめながらこう言ったのです。『この二人は僕とリリスの愛の巣には不要なんだよ』と」

「意味がわからない……」

「私は怖くて逃げました。逃げながら色んな人にあの男がした事を言っても、『勇者様がそんなことをするはずが無い』と、まるで王都全体が洗脳でもされているかのように同じ答えばかり。そして逃げた先にはいつもあの男がいて頭がおかしくなりそうでした」

「あいつが言ってた追跡用の魔石のせいか」

「良く考えれば分かったことかも知れませんが、あの時の私はそんな余裕が無かったんです」


 いや、そんな状況じゃ誰だって無理だろう。ましてやリリスは十五歳だ。


「だから私はあの転移石を使ったんです。どこでもいいからあの男から逃げたい。離れたい。あの狂った男に捕まるくらいなら、もうどうなってもいいと思って。でも、飛ばされた先で隠れる為に洞窟に入った時にレノ様、貴方に会ったんです」

「そういうことだったのか」

「そして一目惚れしました」

「ん?」


 ん?


「レノ様が全裸で慌ててる姿を見た瞬間に張り詰めていたものがスっと軽くなったんです。そして直感でわかりました。この人が私の運命の人だと。この人になら自分の全てを捧げられると。だからもう一気に抱かれてしまおうと!」

「待って。ちょっと待って。今ちょっと真面目な話をしてたよな? それがなんでそうなる!?」

「更にレノ様は会ったばかりの私をあの男から救ってくれました。そんなことされたらもっと好きになるに決まっています。大好きです。だからどこまでもついて行きます。子供の名前はレノ様が付けてくださいね?」


 俺は頭を抱えて項垂れる。嬉しいか嬉しくないかで答えるならば嬉しい。だけど色々追いつかない。

 するとフィオが俺の肩を叩き、親指を立てながら言った。


「ねぇねぇレノっち」

「なんだよ」

「初対面で全裸見せたってマジ? やるじゃん♪」

「やかましい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る