第7話 受付嬢は悪役令嬢
俺たちが飛ばされたのはゴロゴロとした岩場が広がるどこかの断崖絶壁。
見晴らしの良いそこから見える景色は山と森と川のみ。
町や村なんか全然見えない。
ときどき何か生き物の鳴き声が聞こえ、下を見下ろせば激流が土壁にぶつかる轟音が聞こえる。
そして俺の目の前には甲高い声で騒ぐ女の子が二人。
「え〜! やっばぁ〜い! マジでここどこ!?」
「ちょ、ちょっと待ってフィオちゃん?」
「つーかレノっちさ、なんでたった半日でそんなイケメンになってんの? まじウケる。めっちゃ好みなんだけど」
「ん〜〜! ん〜〜〜〜っ!!」
「あ、ゴメ〜ン! 担いだまんまだったじゃん。口塞いでるきったない布も取ったげる。にしても女の子の口塞ぐとか超ひどいよね。フィオだったら即破局案件だわ〜」
「ぷはっ! レノ様!? さっき私の事置いていこうとしましたよね!? 自分が犠牲になればいいって考えは良くないと思います! 結婚してください!」
「わぁお。え? 公開プロポーズ? こんな可愛い子いつの間に見つけてたの? ちょっとそこんとこ詳しく!」
「ちょっと二人とも静かにして……」
もうほんと頭痛い……。
◇
どうしてこうなったのか。
本当だったら一人でどこか遠くに飛び、リリスの鎧などを処分したあとは、どこかでひっそりと暮らしていこうと思っていた。上手く別の大陸に行ければ捜索の手も伸びてこないだろうし、リズフレイヤ様から貰った力もあるからなんとかなると思っていたからだ。
だけどそれは本当に一瞬の事だった。俺が転移する瞬間にリリスを抱えたフィオちゃんが魔法陣の中に入ってくると、そのまま三人一緒に飛ばされてしまい、今のこの状況だ。
「えっと……フィオちゃん? なんでこんなことを? それにその喋り方はいったい……」
近くのちょうどいい大きさの岩に三人で座る。そして一息ついたところで質問を投げかけた。リリスにかけた麻痺の魔法も既に解いてある。
ちなみにリリスの鎧や装飾品はすぐに砕いて土の中に埋めた。何かあってからじゃ遅いからな。
「え? あぁ理由? んとね、実はフィオさ? 少し前までは公爵令嬢だったの。んで、一応婚約者もいたんだけど、その婚約者がぽっと出の男爵令嬢にご執心でさ? ムカついてその子虐めてたら家から追い出されて、無理矢理あんな所の受付嬢にされてたって訳」
「ま、まじで?」
「マジマジ! それでいつかは逃げ出そうと思ってたらなんか事件が起きるじゃん? その騒ぎに紛れてどっか逃げようとしたら、ちょうどレノっちが無差別転移石使おうとしてるじゃん? しかもなんかワケありっぽいし。これはもう便乗しちゃえ! って感じ。ちなみに今の喋り方なんだけど、実はこっちの方が素なんだよね〜」
(レノっちって……)
「そ、そうなんだ……」
「あ……それともぉ、レノさんはこっちの方がいいですかぁ?」
今はもうその話し方には違和感しか感じない。
「いや、そのままでいいよ。にしてもよく俺だってわかったな」
「そりゃ毎日見てたらわかるっしょ。しかも朝見たのと同じ服だし、痩せれば今みたいな感じになるのにもったいないなぁ〜って前から思ってたし? それにしても自由ってさいこぉ〜!」
フィオちゃんはそう言うと、責務から解放された喜びでケラケラと笑い、その横に座るリリスは俺の事をじーっと見つめている。
そしてゆっくりとその口を開いた。
「あの……レノ様ちょっといいでしょうか?」
「ど、どうした?」
「私、このローブの中は下着だけなんですがどうすれば……」
「……あ」
俺は急いで山を降りて町か村を探そうと決めた。
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