第20話  屈服する主人公


 ー 百合リス スノーフレーク邸 黒雪の寝室 朝 ー


 百合リスに来て初めての朝です。どうやら黒雪様は起床済みのご様子。

 黒雪様が空を飛んでるのが見えます。ただこの窓は開きません。

 お布団を最高効率で干せないのは欠陥ですよ?


 ハボタン  「しかしこの寝室変わってますね。お手洗い付きですから。

      暗殺者に狙われないという点では完璧ですが。

      レンジ姉様は起きそうにありませんし、

      朝食のお手伝いでも。あれ?」ガチャガチャ


 扉が開きませんね。机の上のメモを見ます。


 ”脱出はできないです。専属メイドの電話番号です。

 朝食までには戻ります。    黒雪”


 やってくれましたね。逃げるだけなら可能ですが、お相手は貴族。

 最悪外交問題に発展してしまいます。

 姉様の安全を考えれば従うしかないですね。



 ー 黒雪の寝室 1時間後 朝 ー


 がちゃり。鍵を開ける音がして黒雪様と暴虐者様が入ってきました。

 ・・・暴虐者様はあちら側ですか。

 メイド服を纏っていますけどあなたは傲慢すぎて向いてませんよ?



 黒雪    「よく眠れたですか?さあ、朝食に行くです」

 財布    「あはははは、おはよう諸君!

      私はレンジ君とハボタン君のメイドだ!

      ちなみに鍵は黒雪君と私が持っているからな」

 ハボタン  「暴虐者様にメイドは務まらないですよ?チェンジっす」

 財布    「見知らぬ人間にレンジ君は任せられないだろ?

      よっと。レンジ君は意外と華奢だな」

 黒雪    「お姫様抱っこですね!!」


 窓に近づき日光を浴びせる暴虐者様。

 無理やり起こすより日光のほうが目覚めはいいですから。


 レンジ   「んん。ふぁーあ。おはようハボタ・・・誰?メイドさん!」

 財布    「おはようございます坊ちゃま。今日もお元気そうで」

 黒雪    「どうしました?普段通りの朝ですよ?」邪気眼きゅいいん

 ハボタン  「記憶操作系の敵っすか」げんなり

 黒雪    「よく考えてみてください。

      狭いニンジャ国の家より屋敷に住んだほうが快適です。

      それはレンジさんとあなたのためなんです。

      今は逃走される可能性があるので鍵付きですが」

 財布    「一夜にして大金持ちの仲間入りになるんだ。

      しかも命がけで戦わなくていい」

 ハボタン  「それは・・・」

 レンジ   「どうしてそこまでしてくれるの?」

 黒雪    「もうお友達ですから」

 レンジ   「そっかぁ」

 財布    「レンジ様が参ります。ハボタン様はいかがなさいますか?」

 ハボタン  「ええ、今行くっす。あと敬語がうざったいっす」

 財布    「あははは。それもそうだな」


 ー 黒雪の私室 昼 ー


 レンジ   「飽きた」

 財布    「早っ!黒雪君は学業の最中だ。

      メイドや執事の本なら山ほどあるぞ?」

 レンジ   「実技しないと覚えられないっすよ。

      この部屋も掃除は行き届いてるっすけど、

      俺の家より埃っぽいっし」

 ハボタン  「絨毯ですのでホコリは舞うっす」

 レンジ   「座学は終わりだ!掃除をするぞ!!」立ち上がりー

 財布    「ああ、そこのツボは3億5千ユーリで、

      窓の装飾は5億ユーリ。

      本棚も特注の木で出来ていて再生産不可能な代物だ」

 レンジ   「一身上の都合により黙秘!」着席ー

 ハボタン  「諦めたっす」ヘタレめー


 レンジ   「万が一ミスったら生涯年収吹っ飛ぶんだぞ!!

      メイドさんや執事ってありえないプレッシャーじゃん!」

 財布    「本来はそういう物だ。ワンミス即解雇で済めばマシさ」

 ハボタン  「レンジ姉様のメイドのイメージはあくまで理想。

      これにメイド間の対人関係がプラスで付くっす」

 レンジ   「メイドさんって仲良くないのか!!」

 財布    「誰かに雇われた時点でサラリーマンと同じ。

      年上とのコミュニケーションや、新人の教育。

      少しでも給料に格差があれば争いに発展するし」

 レンジ   「あ、ああ」引き気味

 ハボタン  「仕事だけできればいいという訳ではないっす。

      気に入られなければ雑務を押し付けて嫌がらせや

      給与査定も下がるっす」

 レンジ   「え?」絶望


 財布    「極論人間が2人いれば争いになるし。

      君たちでも喧嘩ぐらいするだろ?

      仲直り出来なければストレス塗れで働くことになる」

 ハボタン  「さらに上を目指すなら外国語もマスターするっす。

      しかも相手に失礼が無いようにスムーズな会話で」

 レンジ   「なんか起業したほうが楽じゃないか?」

 財布    「その通りだ。

      それだけ優秀なスペックの持ち主しかなれない狭き門。

      それがメイドであり執事なんだ。

      細かい分類で洗濯、掃除、教育、料理と限定しても

      即戦力を求められるからな」

 レンジ   「あの、もう俺のライフはゼロっす」

 ハボタン  「趣味を仕事にするのは結構ですが、

      他人と競う以上現状維持ではダメっす。

      自分にはこういった資格があり、他者より効率的に動けるとか、

      ○○とのコネクションで取引を優位に進められる等、

      仲良しこよしに見えても裏ではバチバチに殴り合ってるっす」


 レンジ   「こんな、こんな不条理な世界なのか」ガクブル

 財布    「多分どの本にも似たようなことが書いてあると思うぞ?

      私はもっと修羅場を潜り抜けてきたがな。あはははは」

 ハボタン  「もう”メイドへの道”も、”ヒーロー”も諦めろっす。

      ただ百合エネルギーを供給する機械になるっす。

      レンジ姉様。いえレンジ様にとってそれが最適解。

      黒雪様と仲良くするだけでいいんです。

      多分彼女もそれを望んでいる」

 レンジ   「口調変えたってことは本気マジなんだな?」

 ハボタン  「決してチョコケーキに目がくらんだ訳ではありません。

      黒雪様は孤独でしょうから。

      支えなければ第2のレンジ様になってしまいます!」

 レンジ   「さらっとダメ人間扱いしたな。ハボタン」引き気味




 財布    (やりすぎたかな?だがこれで百合リスは安泰。

      ここからどう動く?レンジ君、ハボタン君。

      君達は真の意味で黒雪君と友達になれるのかい?)

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