第16話 ホームセンター。


 日曜日。

 今日は清々しいほどの快晴だった。絶好のお散歩日和に瑞葉はホームセンターに行く事を決意する。


 今でも茶道部、というワードが頭にちらつくだけで憂鬱になる。


(あたしはずっと凛翔のそばにいたいだけなのに……)


 昔から人に合わせるのが苦手だった。だから、小学校の最初の頃は孤立していた。そんな瑞葉を変えてくれたのは、勿論あの人だった。


(変われたと思ったのに……)


 変えようとしても変わらない自分が嫌になる。


 凛翔とは違うクラスだから、会える時間は限られている。そんな時、会う頻度を高めてくれるのが部活だった。だから、嫌でも凛翔に合わせなきゃいけないのに。なのに、どうしても心と身体が悲鳴を上げていた。


(やっぱり嫌だ)


 ベッドにごろんする。

 そして再び、彼女は寝てしまった。


 目が覚めたのは10時過ぎ。


 出かけるのは午後でいっか。

 そう思った瑞葉は午前をのんびりと過ごす。


 今日は凛翔と会えない。

 だから瑞葉は不機嫌。


 会えなくても繋がっていられる、とスマホを開き、メールを見ても凛翔は連絡先に登録されていなかった。


(あたし、凛翔と連絡先交換してないじゃん! 信じられない)


 後日すると決めた瑞葉だった。


「死にたい、死にたい、死にたい、死にたい」


 ぶつぶつと瑞葉は呟く。会えないからだ。凛翔と会えない時間は瑞葉にとって、人生の無駄な時間。


「今頃、凛翔は何してるかな? あたしのこと、考えててくれてるかな? きっとあたしと会えなくてすっごい寂しがってるんだろうね、知ってる。けど他の女のこと、考えてたら許さないからね?」


「凛翔、凛翔、凛翔……会いたい」


 何度も彼の名前を呼ぶ。


 そして、壁に大量に貼られた凛翔の写真の中から一枚手に取り――写真にキスをした。


 これで少しは瑞葉の心が満たされた。


 昼食を食べ、瑞葉はホームセンターへ向かう。ちゃんとメモは持ってきた。メモには『発泡スチロール』『段ボール』『』と書かれている。ノコギリは護身用。やっぱり凛翔に近づく害虫はズタズタに切らないとね。包丁だけでは物足りない。


 ホームセンターへ行く道でも、瑞葉は多くの視線を浴びた。


 そんなこんなですぐにホームセンターには辿り着いた。


 まずは材料を探す。

 時間は掛かったけど、何とか自力で見つける事が出来た。発泡スチロールは、瑞葉にとっては嬉しい球体のものがあったので、それも購入した。

 段ボールは切りやすくて、一番小さいやつ。

 ノコギリは最後に手にとって、ズタズタに切れそうなものを選んだ。


 欲しいものも買えたし、さあ帰ろうと思ったその時――


「あれ? 瑞葉先輩じゃないですか。こんにちは」


「こんにちは」


 凛翔の妹――詩織しおりに遭遇した。


 妹といっても本当の妹ではない。そこには複雑な事情があるのだ。凛翔と詩織は血が繋がってない事をお互い把握している。


「凛翔先輩関連のもの買うんじゃないんですか?」


「もう買ったよ」


 コクリと詩織は頷く。


「何買ったんですか?」


「凛翔人形の材料」


「凛翔人形……?」


 頭にはてなを浮かべるが、彼女はすぐに理解する。これでも詩織はヤンデレへの理解が深い。詩織は瑞葉が唯一認めた女の子。敵意も無いし、凛翔を狙っているわけでもないから。それに凛翔と瑞葉が結ばれるのを手助けしてくれる。だから、友人でもあった。


「なるほどですね」


「凛翔先輩、元気ですか?」


「うん。元気だよ。会いたい」


「それなら会わせてあげます。いま、電話掛けますね」


 電話はすぐに繋がり、噴水前に集合となった。こういう所が瑞葉にとって有り難くて、心許せるのだ。


 そして、詩織は凛翔のことを何故かお兄ちゃんじゃなくて、先輩と呼ぶ。それは瑞葉も気になっていた事の一つだ。本人にとって複雑な気持ちがあるのだろう。ちなみに凛翔に対しても凛翔先輩、と呼ぶ。凛翔もそれに違和感を覚えていたが、今では慣れた。


 それから無事、噴水前で合流でき、瑞葉は彼に抱きついた。本当に詩織には感謝だ。


「二人はホームセンターに行ったんだよな? 良いもの買えたか?」


「「うん」」


(私は買い物してないけどね)


 じゃあ、詩織は何しにホームセンターに行ったのだろう。謎だ。


「それじゃあ、そろそろ解散にするか。短かったけど」


「あ! 待って。凛翔、あたしと連絡先交換して」


「連絡先交換? 分かった」


 ちゃちゃっと連絡先の交換を済ませた。

 この時の彼はこれから毎日、瑞葉から大量の愛のメールが届く未来が待ち受けているなんて、知る由もなかった。


 別れ際。

 詩織は瑞葉にこっそりと耳打ちした。


「くれぐれも私が凛翔先輩の妹という事は秘密にしておいて下さいね」


(何で?)と瑞葉は思う。


 けど、表面上では、


「分かった」


 と答えるのだった。


 これは学校の人たちには秘密にしておいて、という意味だ。


 やっぱり詩織は謎多き女だ。


 そうして、凛翔たちとは別れた。


 家に帰った瑞葉は発泡スチロールと段ボールを並べる。設計図を見ながら、完成のイメージをする。


(うふふ。カッコいい凛翔の出来上がりじゃん)


 妄想を膨らませる瑞葉だった。今日も寝れなくなりそう。


(そうだ! 連絡先交換したんだった!)


 早速メールを送る。なんて送ったかはこれからのお楽しみ。



凛翔人形制作進捗:39%



 

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