第14話 屋上でお弁当。
部活が決まって3日が経った。
瑞葉はあれ以来、気持ちがダウンしている。心配になった凛翔は彼女の教室に赴いた。
教室で瑞葉は一人で手を組んで、椅子に座っていた。瑞葉に友人はいるはずだが、今日は珍しく一人なのだろう。それか彼女自身が一人を選んでるのかもしれない。
「瑞葉! こんにちは」
「り、凛翔……?」
彼女は怪訝そうな顔をしている。
急に凛翔が来たから驚いている。彼が瑞葉の教室に自ら赴いたのは初めてだ。
「何の用?」
「まずは、調子大丈夫か?」
「うーん。先のことが不安だから、微妙」
「今からでも、入部届け取り下げても大丈夫だからな」
「……」
瑞葉的には今は優しい言葉を投げかけられるのもつらいらしい。我慢して茶道部に入部したのに、今更……って思ってしまうみたいだ。
「それでさ、今日の昼、一緒に屋上で食べないか?」
少しでも気が紛れれば、と彼は思った。
だけど突然の彼からの誘い。
瑞葉はびっくりしていた。だって、少しも好意があるとは思えなかったし、怖がってるようにも見えたのに。
(えっ!? 嘘! 凛翔があたしを誘ってくれた? マジで嬉しすぎるんですけど!!)
「食べる!」
「じゃあ昼、屋上集合な」
そう告げると、凛翔は踵を返して教室から去っていった。
(後ろ姿もカッコいいっ……!)
瑞葉は彼のおかげでいつもの調子を取り戻しつつあった。
昼休み。
瑞葉の教室にて。
「これとっ、お弁当持っていけばいいんだよねっ!」
瑞葉は弁当を持って、教室を出ようとして――
「――瑞葉、今日は一緒に食べないの?」
「えっ……それは……今日は好きな人と食べるの! だから、ごめんねっ」
「好きな人? それってまさか彼氏? キャー」
「お弁当を持って、教室出るってことは、屋上で食べるの? 何それ、青春っっ! うらやま」
みんなに凛翔を自慢したいって思った瑞葉だったが、急がないといけなかった為、彼女は小走りで走り去っていった。
屋上で凛翔は待っていた。
春風が気持ちよすぎて、眠ってしまいそうで。彼は睡魔と闘っていた。
凛翔は落ち着ける場所なら、何でもいいのだ。漫画研究部もいいけど、瑞葉に小説を見られるリスクを考慮すると、デメリットの方が大きかった。それにガヤガヤしている空間がなんか落ち着かない。
でも、(瑞葉も自分の好きな部に入ればいいのに……)と思ってしまう。相当、愛してくれているのは伝わるんだけど。
そんな中、瑞葉が現れた。
「お待たせ!」
ピンク色のチェックの風呂敷に包まれたお弁当を手にしている瑞葉。お弁当がとても可愛い。
「じゃあ、食べよっか」
「うん」
「屋上はツーショット以来だよね」
「ああ」
「それで少しは写真で笑えるようになった?」
(今、笑顔じゃないのは、瑞葉のほうだと思うけど……)
少し黙ってしまった。
黄昏る凛翔に瑞葉も気づいて。
「どうしたの?」
「ああ、わりぃ。まあ、少しは」
そこで会話は途切れ、しばらくの間、沈黙が流れた。
美味しいお弁当が凛翔と食べるともっと美味しくなるんだけど、感傷に浸ってしまうと味がしなくなるので、なるべく何も考えないようにしていた。
瑞葉は凛翔に少し寄る。
肩と肩がギリギリぶつからない距離だ。本当は頭を彼の肩に乗せたかったけど、瑞葉はぐっと我慢した。今はその時じゃない。
「どうした? 瑞葉」
「じー」
「?」
瑞葉は凛翔のお弁当の唐揚げ――しかも一番大きいの――をじっと見つめている。本当に食べたそうで、涎が今にも出そうだ。
「唐揚げ、もーらい」
「あ、おい!」
「わージューシーで噛めば噛むほど美味しくて、カリカリした所もあるー。何これーこんなの、家で作れるの!? プロじゃん」
「何、人の唐揚げ勝手に食べてるんだよ」
「これって、凛翔の手作り?」
「ううん、妹が作ってくれた。ちなみに俺は料理が出来ない」
「そうなんだー。今度、あたしが料理、教えてあげるね!」
凛翔はコクりと頷く。
「あたしのは、手作りだよー。玉子焼きでも食べてみる?」
「え、いいのk――あむっ」
(めっちゃ甘くて美味しい! 食感もいいし! 瑞葉って料理上手なんだな……って、何想像してるんだ、俺)
「どう?」
「瑞葉って結構、強引なところあるよな」
「どう??」
さっきより、語気を強めて瑞葉は言う。
「甘くて美味しいよ」
「良かったー嫁に欲しい、とか思った?」
「思わねえよ」
彼女はしゅん、とする。しおれた花みたいになってる。
「妹ちゃんって何歳だっけ?」
「今、中2」
「へー、思春期反抗期真っ只中、じゃん。あたしも凛翔の義妹になれたらなぁ……」
「なんか言ったか?」
「何も?」
気づけば、話してるうちにお弁当の半分を平らげていた。そして、箸がいつの間にかトレードされている。
「あれ、俺の箸は――?」
「あ!」
凛翔の箸は知らないうちに瑞葉の手に渡っていた。
仕方なく、凛翔は彼女の箸で残りのおかずを食べる事にした。でも、別に誰の箸で食べても、味は変わらなかった。これが、誰かに見られてたら嫌だったけど。女子の箸で食べてるのは。
「ふー」
「食べ終わったね! 帰ろっか」
「それより、箸返せって! 今、風呂敷の中に仕舞っただろ」
「いやだねー」
「返せっ――」
バタン。
二人とも転んでしまった。
凛翔が瑞葉に被さるようにして。
「大丈夫か?」
すぐに凛翔は彼女の手を掴み、立ち上がる。
「嬉しい! あはー、幸せ。ありがとう。サービスしてもらったから、箸、返すよ」
彼女から箸を受けとる凛翔。
彼女が何に喜んでいるのかは、分からなかった。
一先ず、落ち着いて帰ろうと、屋上の扉を開けたと同時に誰かとばったり、鉢合わせしてしまった。
――音原さんだ。
「あら、こんにちは」
「「こんにちは」」
「何? あたしに文句でも言いに来たの? それとも、あたしを茶道部から脱退させに来たの?」
「違います」
「じゃあ、何なのよ」
ふと瑞葉の視線が音原さんの手にいった。そこには水玉模様のピンク色のタオル。はじに猫の刺繍がされている。
「忘れ物です」
すっと、彼女から瑞葉に手渡される。
「あ! ずっと探してたやつ! ありがと。……い、いや、感謝なんかしてないし。ただの社交辞令だから」
「素直じゃないですね」
「何ですか、二人は仲良く屋上でお弁当を食べていたんですか? 仲良しさん♪」
「ま、まあ……」
「そうだよ? 羨ましいでしょ?」
「別に」
瑞葉の心の中でかああぁっと何かが燃えた。すごく苛立ちをあらわにしている。
「じゃあ、俺らはこれで」
「またね」
「ちょっと待って下さい、佐渡さん」
「ん?」
「自分の道は自分で決めてください。私から言える事はこれだけです」
「分かった、そうする」
そうして、三人は屋上を後にした。
廊下で凛翔と瑞葉が二人きりになった時、瑞葉は――。
「あの子、案外良い子なのかもしれない」
そう呟くのだった。
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