第12話 部活見学③漫画研究部。


 色々とあった後、凛翔一行は漫画研究部へと続く道を歩いていた。連絡通路からはスポーツ系の部活の子たちが、かけ声を上げて一生懸命部活に励んでいるのが窺えた。スポーツ系もいいけど、運動が苦手な凛翔にはちょっと入るのが躊躇われた。だから、文科系を片っ端から攻めている。


「文芸部には入らないのー?」


「うーん。あまり魅力を感じなかったなー。小説読むのは好きだけど……」


(本当は小説書くのが好きだから、入ろうかと思ったけど、パソコンじゃなくて原稿用紙に書くという点で萎えてしまった)


 今回は瑞葉もそんなにしつこくない。彼女もあまり文芸部に興味が無いのだろう。


「……そっか」


「そういえば瑞葉はさっきの男の子に川柳上手いって褒められてたけど、そこら辺はどうなのか?」


「んー、凛翔を題材にした川柳ならいくらでも詠めるよ? でも、そこまで川柳好きじゃないし、凛翔はわざわざうたにしなくても、光輝いてるから」


「光輝いてるのか……」


 よく分からない。


「あーでもでも、早く部活決めないとやばいよ?」


「そういう瑞葉は入りたい部活とかないのか?」


「んー、卓球部入りたいけど、そうすると邪魔者を全員排除ころすしなきゃいけなくなるから、部員があたしと凛翔だけになっちゃう。それでもいいの?」


「どういう事だよ。言ってる意味がよく分からねーよ」


 少し狂気に満ちてる瑞葉さんだった。


「そんな事より、着いたよ、漫画研究部」


 そこには漫画を広げて読んでいる人と漫画を広げて描いている人がいた。圧倒的に男子が多い。女子は3人しかいなかった。少女漫画が少ないのだろうか。

 部の教室も自分の教室から遠く、別館にある為、通うのが大変そう。


 それでも漫画研究部には惹かれる何かがある。


「おう。小鳥遊、佐渡。よろしくな。顧問の古田ふるただ。ここでは漫画を読んだり、アニメを見たりして、二次元文化について研究している。興味があったら、いつでも入っていいぞ」


 古田先生は男性の先生で、長身で黒ぶちメガネをかけている。シャキッとしているが、良い人そうだ。先生自身も漫画やアニメが好きらしい。


「「よろしくお願いします」」


 凛翔たちは漫画研究部のフロアを見てまわった。


 歩きながら瑞葉に話しかける。


「ここの部、俺はいいけど瑞葉はいいのか? 男が多すぎて女子少ないけど」


「大丈夫。これが逆だったら、嫌だったけど」


「……?」


 瑞葉は凛翔を占領したいのだ。男が多くても、彼を取られなければ何でもいいらしい。瑞葉は男兄弟はいないけど、男には慣れている。だから平気。


「瑞葉は好きな漫画とかあるのか?」


「トキメキ☆パラダイスとかかな」


「へー、トキパラか。俺、あんま見たことない」


「凛翔は?」


「デスノートとか東京グールーとか」


「ダーク系が好きなのね」


「そうそう」


「じゃあ、あたしもダークな女になる!」


「ならなくていいよ」


 彼は若干引いていた。



 まずは漫画を読んでいる人のそばに行った。


「何読んでるんですか?」


「ああ、これは――だよ。面白いからオススメ」


「……」


「……」


 そこで会話は途切れてしまった。なんか邪魔しちゃいけない、と思ったし、彼は彼で漫画に熱中しているから。


 漫画研究部には凛翔や瑞葉の知らない漫画が沢山あったし、オススメされた漫画も知らなかった。

 古田先生はアニメも見れる、と言っていたが、テレビらしき物は無い。


 この子は熱中してるから、別の子に聞きたい事を聞こうと凛翔は思った。


 丁度休憩中っぽく、伸びをしてる子がいた為、質問してみる。


「ここにある漫画って何でも読んでいいんですか? それとずっと漫画ばかり読んでいるんですか?」


「うん。ここにある漫画は全部自由に読んでいいし、家から自分の漫画を持ってきてもいい。あとはスマホでアニメ見たり、ネット小説・ネット漫画読んだりしてる。ずっと漫画だけを読んでる子もいるけどね」


(アニメってスマホで見てるのか……なるほど)


 聞けば、アニメや漫画の研究新聞書いたり、ポスター書いたりするのがこの部での有効活用術らしい。


 漫画棚を見て凛翔は適当に手に取ってみた。結構昭和時代の昔のやつから最新のやつまで幅広くあり、瑞葉の言う「トキメキ☆パラダイス」もあった。


「瑞葉、あった――ぞ。あれ、いない……」


 後ろを振り向くと、彼女はいなかった。


 個人的に気になる漫画があり、漫画は借りていいとの事だったので、許可を貰いに行った。


「古田先生、この漫画借りたいです。それと瑞葉、どこ行ったか知りませんか?」


「ああ、借りていいぞ。ここに名前と今日の日付書け。佐渡は漫画を描いてる子の方に行ったはずだ」


「ありがとうございます」


 貸し出し用紙を渡されたので、そこに記入する。


 急いで凛翔は瑞葉がいる方へ向かった。



 一方、その頃の瑞葉は――。


「初めまして。何描いているんですか?」


「これですか? オリジナルの漫画です。このロボットカッコいいでしょ?」


「カッコいい。リアルに動きだしそうですね」


「あたしも漫画描いてみたーい……んですけど、どうすれば……」


 ついタメ口が出そうになる瑞葉。そんな所も可愛らしい。


「ここにコマ割りされた紙があるので、好きなの選んで描いて下さい」


「分かりましたっ!」


 何故こんなにも彼女がテンション高いのか。それはおのずと分かってくる。


 10分後。


「出来たっ!」


 少女漫画を描く人はここには瑞葉しかいない。男に囲まれて描いた漫画だが、丁寧にちゃんと描かれていた。完成度は非常に高い。


「出来たんですか?」


「出来たのか? 俺にも見せて――」


「どういうの描いたんだ?」


 男子生徒は瑞葉の描いた漫画を見たがる。でも、それはまだ見せられない。


「ダメ。これは凛翔にしか見せたくないの。凛翔がOKって言ったら、見せてあげてもいいけど」


 そんな所に凛翔あらわる。


「瑞葉! こんな所にいたのか」


「あ! 凛翔! これ、読んで」


(……ん?)


 凛翔は紙を開く。漫画といってもこれは、ペラペラの紙だ。本のようにはなっていない。


 その漫画は少女漫画で、あらすじは高校の入学式で出会って、その当日に女の子が告白して、了承される。その次の日から男の子からのスキンシップが激しくなり、高校卒業まで溺愛され続け、卒業と同時に結婚して、子供が生まれるというヒューマンラブストーリー的なやつだ。でも、結構女の子が病んでる。ような気がする。


「感想どう?」


「あー。絵は上手いし、字も綺麗。ちゃんと丁寧に描かれてるし、物語の筋も通ってる。でも……」


「でも?」


「出会った初日に告白して了承されるって、あまりにも都合が良すぎないか?」


「そんな事ないよ」


「それにちょと待て。凛翔? 俺? 顔も特徴も似てるし……それにこのヒロイン、瑞葉と髪型も背丈も似てるな。気のせいか?」


「りんしょう。この子の名前は。それと気のせいだよ」


「り、りんしょう……そうか……りんしょう……」


 凛翔は唖然としてしまう。

 偶然にしては違和感がありすぎる。


「それと壁ドンか。古くね? 壁叩きすぎじゃね?」


「いいのー壁叩きすぎてるんじゃなくて、沢山壁ドンしてもらってるの。凛翔りんとからの壁ドン、良き」


「今、凛翔りんとって言ったよな? 聞こえたよ」


「何も?」


「怖いのが女の子が好きって言いまくってるとこ。好き好き好き好きーって」


「好きなんだから、しょーがないじゃん。何度好きって言ったって、愛が減るわけじゃないでしょ?」


「……そうか」


 なんか瑞葉の心情が分かってくる漫画だった。


 あとは、凛翔が漫画を小説にしたりしていた。あまりやっている人はいなかったが、彼は楽しそうだった。


「めっちゃ楽しい! 漫画をもっとラノベにしたい!」


 凛翔はここにある漫画を全て小説に書きかえる、という目標を密かに立てていた。


「何、やってるのっ?」


「何も?」


 すかさず原稿用紙を隠す。


 でも、瑞葉には何をやっているのか、完全に気づかれていた。


 時間になり、漫画研究部の見学が終わった。


「「お疲れ様でした。ありがとうございました」」


 瑞葉は漫画を描いた紙、凛翔は原稿用紙を二枚持って帰った。


「どうだ? 入部する気になったか?」と古田先生。


「ああ」


「ええ」


 かなり楽しい部だった。

 茶道部がそこまで楽しくなければ、この部にしよう、と思っていた。少なくともパソコン部、文芸部より全然良い。瑞葉も笑顔だし。


「漫画研究部に入るの?」


「うん。今のところ」


「良いよね! 楽しいし、ここにしよう」


「あ、でも茶道部がまだ残ってるから、そこ見てから決めよう」


「えー、足疲れたぁー」


 おんぶするか、迷ったが、歩かせる事にした凛翔だった。でも、手は貸してあげた。



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