第11話 部活見学②文芸部。


 彼は今、瑞葉と一緒に部活見学をしている最中だ。パソコン部の見学を終え、廊下を歩いている。だが、さっきから彼女の様子がおかしい。騒いでいるから、非常に厄介だ。


「ねーえー、パソコン部入ろうよぉー! おねーがいー」


「だから、何がそんなにお前を本気にさせるんだ」


「パソコン部入ってもそこまでメリットあるようには思えないよ。パソコン部入って、何がしたい?」


 凛翔もゲームに惹かれたが、さほどメリットを感じなかった。


「凛翔についての研究? 凛翔ポスター作るとか?」


(怖っ、キモ)


 思っても口には出さない。

 その言葉を聞いて、身震いする。


「凛翔もあたしの研究したいでしょ?」


「んー、したくない」


 むー。


 彼女は拗ねてしまった。頬を膨らませて、しょんぼりした顔を浮かべている。


「……」


「……次どこ行くの?」


「次は文芸部かな。その後、漫画研究部行って、最後に茶道部行こうと思うんだけど、それでいい?」


「いいよ! 凛翔が行く場所へなら、どこへでもついていく!」


「怖いような嬉しいような……」


 文芸部の部室の扉を開く。中には学年問わずの生徒たちが机に向かって何かを書いていた。他には四人一組で話し合い? 音読している生徒たちもいた。男女比は3:7くらい。別に凛翔が入部してもおかしくない部だし、瑞葉も騒がなければ入っても問題無いだろう。ただ、静かにじっとしてないといけないから、そこが苦になる人もいる。


 文芸部の部室は2階にある。

 凛翔たちの教室は1階だ。


「「お邪魔しまーす」」


 全生徒と先生の視線がこちらに集中する。何度味わっても慣れないし、緊張する。


「あら、ごきげんよう。小鳥遊くんと佐渡さん」


 おしとやかな若い女性の先生だ。

 物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気。先生の名前は金下かねした先生という。


「こんにちは、見学に来ました」


 部室内を取り敢えずうろついてみる。

 何やら、原稿用紙に文字を書いている生徒がいたので、覗き込むと――。


「ふ、ふぇっ、これ、ですか? 今、彼氏をモデルにした、恋愛小説書いているんです……まさか人に見られる機会が来るとは……恥ずかしい…………」


「ごめん、邪魔して」


(書きにくそうだなぁ……パソコンで書いちゃいけないのかなぁ……。原稿用紙で小説は書きたくない)


 そう思う凛翔だった。にしても、見ちゃいけないものを見た気がする、反省。


 見ても大丈夫そうな、他の子の方へ向かう。


「これも小説書いているんですか?」


「ああ。SFとホラーを同時に書いてる所だ」


 この少年は両利きで、原稿用紙を左右に置き、言葉通りSFとホラーを同時に書いているらしい。流石にそんな技、出来ない。


 どうやら、この部は小説が書ける、という事が分かった。


(……あっ! そういうことか)


 瑞葉はここで気がついたようだ。

 先日、彼がカフェで執筆しているのを目撃した瑞葉は当然知っている。凛翔が小説書くのが得意だということを。


「凛翔は小説書くの、好――、ううん、小説好きなの?」


 ここでいきなり、小説書くの好き? と言ったら、先日ストーカーした事がバレてしまうかもしれない。だから、言葉を改めた。


「小説や漫画を読むのは好きだけど、小説書くのは苦手かな。漫画も絵が描けないから描けない」


(何で嘘吐くの……?)


 それは凛翔の書く小説がWebでとても人気だからだ。ペンネームを聞いたら、瑞葉でも分かるだろう。

 瑞葉にだけ教えるなら、まだいいがそれが伝染してクラス中に広まったら、凛翔が一躍人気者になる。凛翔の近くに人が寄ってくる。それを彼は避けたい。極力静かに平穏に過ごしたい、というのが彼の願望だ。


「そうなんだ。あたしも小説も漫画も書けない。だけど――凛翔の書く小説、一度くらいは読んでみたいな♪ なんちゃって」


 それに瑞葉にずっと小説を見られてる(監視されてる)のも、良い気がしない。


「俺、全然小説なんて書けないよ」


「そうかなぁ?」


 今度は四人一組で音読をしているグループの方に向かった。教科書を広げて、集中して読んでいる。なんか、国語の授業みたい。


「金下先生、この子たちは何をしているんですか?」


「あのね、読書してるのよ。でも、普通に読書するだけじゃ、つまらないから、声に出して読んでるの」


「へー」

「ふーん」


「うわわっ。後輩くんたちも読んでみますか?」


 凛翔たちに気づいた女子生徒がこちらを振り返る。名前を知られてないので、後輩くんと呼ばれた。


「あー結構です」


 どうやら、伺ってると登場人物の役を演じてるみたいだ。演劇部と何ら変わりあるのか? よく分からなかった。


「なんか演劇みたいですね」


「そうです! 演劇なんです! 楽しいです!」


(否定しないのか……)


(声に出して読むとその本の内容、頭に入ってくるのかな)


 瑞葉も理解出来ず、首を傾げていた。


 一旦、音読読書グループから離れた。

 次は最後のグループになるであろう、短歌俳句川柳グループの方に行った。グループは小説と音読読書と短歌等の3グループに分かれているらしかった。短歌俳句川柳グループは教室の隅の机でかさこそと詠んでいた。何か白い帯のような紙に筆で句を書いている。


「いらっしゃいませ」


(いらっしゃいませ?)


 短歌等グループのリーダーらしき男の子にそう挨拶された。


「こんにちはー」


「あーここでは短歌、俳句、川柳なら何でも詠んでいいんですよ。何句でも作っていいです。紙はいっぱいあるんで」


 何も言ってないし、求めてないのに、いきなり説明をしだした男の子。少し変わっているのかもしれない。


(俳句とか川柳とか詠めないし、部員の子たちが作った句を聞いたら帰ろう)


 そう決心する凛翔だった。あまりこの部に魅力を感じなかった。でも、早く入る部を決めないといけないのは確かだった。


「なんかオススメの句ってありますか?」


「あー、この句とかどうですか? 川の音や――」


 まだ俳句や短歌の良さを理解出来ていない凛翔。ぱっとしない表情を浮かべている。


「うーん」


「俺の句も聞きたいですか?」


「いや、いい」


「桜舞う 彼女の横顔――」


「いいって言ってんだろ」


「えー、そんなー」


「帰ろ、瑞葉――」


 彼女を見やると、何やら小言をぼそぼそと呟いていた。


(何だろう……)


「愛情が 憎悪に変わる 瞬間に」


 凛翔は唾を呑み込む。

 川柳を詠んでいるのだろう、という予測は出来るが、瑞葉の言動は理解し難い。


 凛翔はただ黙るだけ。


「おお! 良いっす! 彼への憎しみが凄く伝わってきます! 神作です!!」


「……全然よく分からない」


 凛翔には彼女の句の良さも、何故この男の子が感心しているのかも分からなかった。


「大好きな ILOVE凛翔 愛してる」


(何なんだ、この句は……俺の名前……おいっ)


「おお! これも! まさにセンスが神がかってるぅーナイスだ! 凛翔って誰か分からないけど。凛翔って誰ですか……?」


「……へっ?」


 瑞葉はとぼけていたようだ。目をパチパチしている。


「凛翔って誰ですか?」


「凛翔は……その……、ふっ、架空のキャラです」


 彼女は一瞬、凛翔を見て頬を朱に染めた後、すぐに気を取り直して、「架空のキャラ」と言った。


「架空のキャラですか、そうですか。それと貴女のお名前は?」


「瑞葉。佐渡瑞葉」


「瑞葉さん。良ければ、友達になりませんか?」


 彼女は一瞬、間を置いた後――。


「ごめんね。凛翔以外に貢ぐ予定ないから」


「…………は?」


 男の子は口をぽかんと開けてしまった。出てきたのはすっ頓狂な声。


「行こ、凛翔」


 瑞葉は凛翔の腕を引き、教室を出た。


 教室に残った男の子は目をぱちくりさせ、


「り、凛翔ってあいつかー! 瑞葉さんを寝取ってやるー。許さん。あんなお美しい瑞葉さんの隣にいつもいるなんて……許さん」


「せめて、連絡先でも交換しておくべきだった。ちくしょー」


 こんな事をぶつぶつと呟いていた。

 新たなヤンデレが誕生したのかもしれない。




*あとがき

篠宮時乃です。こんばんは。最近更新出来ず、すみませんでした。実は近況ノートにある通り、休載していました。休載のお知らせを書こうか迷ったのですが、書かなくて正解でした。どちらにせよ、危なっかしい作品である事は間違いありません。なろうに進出しかけましたが、50回くらいしか見られませんでした(非公開)。

2日に一回更新は出来ないと思います。これからも不定期更新です。2日に一回更新するかもしれないし、しないかもしれません。それでは、これからもよろしくお願いいたします。

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