第10話 部活見学①パソコン部。


 高校一年生は5月までに入る部活を決めなければいけない。別に部活にに入らなければならないわけではないが、入らないなら委員会に入る必要がある。じゃないと、大学進学や就職に響くからだ。

 それで今、凛翔は物凄く悩んでいた。瑞葉は凛翔と同じ部活に入ればいいだけだから、そこまで悩む必要が無い。凛翔は部活を決めるなら、彼女の意見も聞いた方がいい気がする。


 放課後。

 とうとう部活見学の時間がやって来た。どっち道、彼は文科系の部活に入るつもりだ。


 事前にこの日は彼女と待ち合わせをしていたので、待ち合わせ場所の図書室に向かう。そこで、瑞葉は心理テストの本を読みながら、座って待っていた。


「お疲れ様、凛翔」


「お疲れー、何の本読んでるの?」


「あー、これ? 主に恋愛の心理テストの本」


 見てみる? と言われたので、本を覗いてみる。すると、何故だかいかがわしい心理テストが記載されていた。


「例えばーこれなんかは、あなたに合ったS○Xの体位が診断されるの」


(体位って心理で分かるものだっけ?)


 凛翔は正直にくだらないと思ってしまった。


「……くだらな」


「だって、凛翔とする時に必要でしょ? それと、今、何て言った? あたしと凛翔の愛がくだらない、だって?」 


(そこまでは言ってない)


「は……?」


「まあいいや。あと、これは運命の人のタイプが診断されたり」


「ふーん」


「ちなみにあたしの運命の人のタイプは、名前が『り』から始まる人で、運動も勉強も苦手で、だけど優しくて、O型で、繊細で、あたしをちょっぴり怖がる人だった」


(それ、俺じゃん。ていうか、名前が『り』から始まるとか心理テストに出てくるの? ちょっぴり怖がるのは俺以外でも怖がると思うよ)


「どう? あたしの運命の人。すっごく素敵でしょ?」


「う、うん」


 言わされてる感が半端ない。


「それじゃあ、行こっか。凛翔の運命の人のタイプも今度診断してあげるねっ!」


「ああ」


 こうして、部活見学に行った。


「凛翔は何部に入りたいんだっけ? 文芸部とパソコン部と茶道部と漫画研究部だっけ?」


「そうだけど。何で覚えてるんだよ……」


「んー、何でかな?」


 凛翔達はまずはパソコン部の見学をする事になった。パソコン部の教室では、パソコンが沢山並べられていて、生徒たちは真剣にパソコンと向き合っていた。カタカタとひっきりなしに打鍵音が鳴り響く。教室の隅では先生が立っていた。凛翔たちは最初に先生にどういう部なのか、聞いてみる。


「パソコン部ってどういうこと、するんですか?」


「ああ。小鳥遊、佐渡、初めまして。顧問の米倉よねくらだ。パソコン部は基本的にアットホームで、自由度が高い部活で、年に一度、皆でポスターを作るのだが、それ以外は何やってもいい」


 結構、雑な話し方をする先生だけど、胸の大きいボーイッシュな女性の先生だ。何やってもいい、という言葉につられて入りたくなるけど……。実際のところ、どうなのだろうか。


「あー、小鳥遊くん、佐渡さん! こっち来て下さい!」


 そう明るくハキハキと話すのは、小宮こみや先輩だ。


「初めまして」


「は、初めまして」


「初めましてー、小宮ですっ! 早速、部の説明させて頂きますねっ!」


「頼む。ありがとな」と米倉先生。


「えっと、この部はー基本的に自由で、ExcelやWordを使って作業したり、私なんかはタイピングしたりしてます!」


「へー、そうなんですね」


「ゲームとかって、出来るんですか?」


「出来ますよ! ここのパソコンに元から入ってるゲームもWebで出来るゲームも」


「ここに入ろっかなー」


 ゲームにつられる凛翔。チョロい。


「ほんとですか!?」


「もう少し考えようよ」


 瑞葉が制止する。


「あとはー、廊下の掲示板にポスターや紙が貼られてるの、知ってます?」


「「知ってます」」


「それを編集したり、作成したりするんです。依頼がたまに来るので。でも、やらなくてもいいんです。強制は年に一度のポスターだけですっ!」


(なんか、大変そう……)


「あの、Wordで画像とか沢山貼れるんですか?」


(いきなり、話逸らしてきた……)


 瑞葉は全然脈絡の無い、関係ない質問をしてきた。ポスターには興味ないのだろうか。


「貼れますよ」


(え、だったら、凛翔の画像貼り放題じゃん。いつまでも、凛翔の画像だったら見てられる。記事は『小鳥遊凛翔について』とか……? 何それ、楽しそう!)


「凛翔、ここの部活に入ろう――」


「あと、作文書いたりとか」


 小宮先輩は瑞葉の発言を無視した。


「瑞葉、帰ろう……瑞葉?」


(さ、作文っ!? 凛翔の日々の作文なら、いくらでも書ける! 部活に行けば凛翔が過ごした一日を振り返れる! 何それ、最高!)


「ねえねえ、パソコン部入ろうよ。パソコン部入れば、最高だよ」


「何でだよ。Wordで画像貼れる、から急に方向転換してきたよな?」


 凛翔は訳が分からないと言わんばかりの様子だ。急な彼女の変貌ぶりに戸惑っている。瑞葉の心の中を知らなければ、普通の人には理解し難い。


「入ってくれるんですか? ありがとうございますっ」


「いや、入らない」


 先輩の目はうるうるしている。


「主導権は凛翔にあるんで」


「えー、佐渡さぁんっ……そんなぁー」


 先輩は悲しそうな瞳をしていた。


 そうして、凛翔一行はパソコン部を後にした。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る