第9話 尾行。

 学校生活に段々と慣れてきた4月中旬。佐渡瑞葉は今、校門の前で立ち止まっていた。


 というのも――

 彼女は凛翔の後をつけていた。学校帰りの彼に興味を持ったからだ。一緒に帰ればいいって? それだと、素の凛翔が見れないじゃない。


 瑞葉は友達の誘いも断り、凛翔を尾行する事に決めた。

 違うクラスだったから、廊下から後をつけた。彼の、教室から出る足音を察知し、急いで彼の後を追った。瑞葉は足音だけで凛翔の足音だと分かった。ヤンデレパワーは恐ろしい。


 実は凛翔の足音も声も咀嚼音も既に録音済みだ。ASMRが良いらしい。


 廊下を抜け、下駄箱に辿り着いた。下駄箱で靴を履き替える凛翔。それを見て彼女はわああっ! と感動する。


(そういえば、下駄箱にラブレター入れてなかったなあ……)


 今度入れておこう、と考える瑞葉だった。


 凛翔は歩き出す。それを瑞葉が追いかける。


 ピタッ、と彼の足が止まった。

 校門の前だ。そして彼は何やら制服のポケットから、携帯電話を取り出した。誰に電話するのだろうか。瑞葉はすごく気になっていた。


『もしもし、……詩織しおり?』


『今日は遅くなる。夕飯要らない』


(遠くて全然聞こえない……)

(女? 女だったら、絶対殺す)


 瑞葉の殺意が裏で芽生えていた。


 電話が終わるとまた彼は歩き出した。数分歩くと何故か彼は駅の方へ向かっていった。


(……え? 凛翔って学校から歩いていける距離に家、あったよね? 何で駅行くの? まさか、その電話の女と違う駅にあるホテルで――するわけじゃないよね? あわわ)


 瑞葉は焦っていた。何とかホテルルートは阻止せねば。


 気づけば瑞葉の足は早足になってしまっていた。


 そして、凛翔は駅のコンビニに寄った。瑞葉の緊張が更に高まる。


(えっ! もしかしてコン○ーム買うの? やめてよ、ねえ)


 彼はのエリアを通り過ぎ、雑誌のエリアで一冊、何かを手に取った。


(え? エロ本? 事前に性欲を高める為に……? 嫌ぁ……!)


「やっぱ、すごいよ」


(何が?)


「こんな文章が書けるなんて」


 ボソボソと凛翔は言葉を呟いていた。独り言だから、解読は難しい。


 彼は雑誌の作家コーナーを読んでいた。今をときめくライトノベル作家のインタビュー的なものだ。


 それをパラパラと読むと、それの他にもう一つ雑誌と菓子を一つを持って、レジに向かった。そのラノベ雑誌ではない方の雑誌はグラビア雑誌だった。勿論それも、瑞葉は見逃さない。


(今さ、巨乳の水着のお姉さんの雑誌持ってたよね? 何? 、凛翔は巨乳が好きなの? だったら、あたしだって、巨乳になる為に頑張るよ! 凛翔の為だったら、何でもする!!)


「お会計は2205円です。ありがとうございましたー」


 凛翔はコンビニから出た。そして、電車に乗った。隣の駅に行く気だ。


 電車の中はぎゅうぎゅう詰めだった。

 学校帰りや早く仕事が終わった人で溢れかえっていた。


「凛翔! ちょっと待って、凛翔!」


 瑞葉は凛翔を探すのに必死で、一旦次の駅で降りたら、凛翔も降りたので何とか追う事が出来た。改札を抜け、15分くらい歩くと、オシャレな喫茶店に辿り着いた。どうやら、ホテルルートは抹消されたようだ。瑞葉、一安心。


(ホテルルートじゃなくて、良かったぁー! でも、そのグラビア雑誌、どう隠すの? 女の人と会うんでしょ?)


 鞄に入れればいいのに、凛翔は手で持っている。何食わぬ顔で喫茶店に入った。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


「一名です」


(えっ!? 一名? いやったあー! じゃあ、さっきの電話の人は何? そして凛翔は喫茶店で何するの?)


 瑞葉は凛翔の後ろの席が空いていたので、座る。彼女はサングラスをしている。でも、バレると思うけど。


 凛翔は鞄からノートパソコンを出した。いつの間に持ってたの!? 学校に持ってきてたの!? と普通の人は思うだろう。だけど、喫茶店でパソコンで作業はオシャレ。凛翔は文芸部でもパソコン部でもない。では、一体何故……?


 彼はパソコンでカタカタと文字を打ち始めた。


(早い!)


 タイピング速度は人並み以上だった。瑞葉が驚くのも無理はない。


 でも、じゃあ何をそんなに熱心に打っているんだ?

 瑞葉が身を乗り出すと――。


 クルッ


 サッ


 振り向かれた。でも、バレなかった。


「ご注文のモンブランとホットミルクです」


 気づけば、頼んでた注文の品が届いた。瑞葉は季節外れのモンブランを頼んでいた。本当に喫茶店は何でも揃っているな、と感心する。


 因みに凛翔は作業に夢中で何も頼んでいなかった。


(ん?)


 瑞葉の受け答えの声に反応し、凛翔が再度振り向いた。


 ガバッ


 瑞葉は俯せになる。


 店員はきょとんとしている。


 しばらくして、店員が去り、今度は凛翔の方に向かった。


「こちらのお客様はまだ注文されていませんが、何か頼みますか?」


「アイスのブラックコーヒーを一つとサンドイッチのセットで」


「注文承りました」


(ブラックコーヒー、凄い。カッコいい……じゅへへ)


 瑞葉はよだれを垂らしていた。


 その後も作業を続ける凛翔。もうとっくに日は暮れている。電話の『夕飯要らない』の意味はそういう意味だった。


 瑞葉は凛翔の作業の内容が物凄く気になっていた。


(こうなったら、奥の手を使うか)


 そう思い、彼女は鞄から望遠鏡を取り出した。別に望遠鏡はこんな近くの距離で使う物じゃないんだけど。


 少し体勢をずらして、望遠鏡で凛翔のパソコンを覗いた。凛翔の顔や体が邪魔してあんまり見れないんだけど。でも、何とか内容を汲み取れた。


 そこには文章がぎっしり埋まっていた。凛翔は何か文章を作成している。そこまでは分かった。――じゃあ、何の文章?


 その後もしばらく覗いていると、左上にWordの文字と一瞬だけ画面が切り替わった時に『カクヨム』というサイトが見えた。


(……カクヨム?)


 瑞葉にはさっぱりよく分からない。でも、Wordは瑞葉でも分かった。きっと凛翔は小説を書いているんだ!

 それに他人の文章を写しているなら、紙のプリントが必要だし、凛翔はパソコン以外何も持っていない。だから、恐らく小説を書いている。そう思った瑞葉は彼の小説を読みたい、と思った。いつか、彼のパソコンを盗み見してしまおう。


 凛翔は何の為に小説を書いているのかというと、コンテストで受賞する為だ。凛翔は二次選考まで通過した事がある。小説家になりたいという気持ちは確かではないが、なれるものならなりたい、という気持ちがあった。


 ネットでも彼の小説は人気があった。一万人以上の読者がいるらしい。だけど、高校生だから、という理由でスカウトが来ないらしい。だから、高校卒業までにコンテストで賞を取るんだ。


 因みに凛翔はファンタジー小説を書いていた。ラブコメもミステリーもホラーも得意だけど、ファンタジーの方が人気が出るから、ファンタジーを書くのだ。


 そう、凛翔の他人より優れた唯一の特技は――小説を書くこと――だった。


「よし! 終わった。今までで一番良い出来かもしれない」


 凛翔はブラックコーヒーを一気に飲み干すと、そのまま立ち上がった。


(何か言ってた。よく分からないけど、良い出来なら良かった。読みたい……じゅるり)


 瑞葉も続いて立ち上がり、彼のあとを追う。


 凛翔は会計を済ませ、店を出た。


 そして、瑞葉はそこから尾行する。


 辿り着いたのは普通のマンションだった。ここまでなら、この前訪れた。でも今回はこれで終わりじゃない。さっきの電話の人と、あと今度侵入する時の為に何階の何号室か突き止めなきゃ!


 凛翔は視線を感じたが、何も気づいてない風に平然とマンションに入った。


 瑞葉もマンションに入り、彼が立ち止まる場所まで移動する。


「6階の5号室ね」


 ようやく瑞葉は凛翔の住所を突き止めた。これでいつでも侵入可能だ。


「母さん、ただいま」


「あら、遅かったじゃない。おかえり」


(違う、あの電話の人はお母さんじゃない。絶対凛翔の声のトーンが違ってた。じゃあ、誰? ひょっとして……妹……? うーん)


(ねえ、誰なの? 妹じゃなかったら、殺しちゃうよ。凛翔がお母さん以外の女の人と話すなんてありえないし、許さない。凛翔との仲を引き裂いて、殺してやる)





*あとがき

本文3253文字です。一話1000文字程度と言ってたのに……。多分これからも増殖します。

プロットやネタを見る限り、10万字は越えそうです。取り敢えず第3章までのネタは考えています。1章が書き終わったら、章分けします。

読む活動に関してなんですが、いたちごっこです。読んでも読んでも更新されて、追いつけません💦

毎日更新されてない作品もあるのに、追いつけない……。異世界ファンタジーばかり読んでます。

要するに、私が読むのが遅すぎるという事です。

*あとがき終わり

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