第8話 卓球大会(後編)。
こうして迎えた卓球大会。
桜はもう散りかけている。
凛翔は体操服に着替え、体育館に向かう。
卓球大会は体育館で行われ、他校と自分の高校で戦う。大会はトーナメント戦で戦い、勝ち進んだペアが優勝となる。他にも勝ったペアが多い方の高校が優勝というルールもあった。
ちなみに瑞葉とはペアじゃなかった。なのに、サポートするってどういう事なのだろうか。
(邪魔者を排除ってまさか……!?)
何か閃いたが、時すでに遅し。
「あーやばいな」
ポツリと呟く。
だが、凛翔には友人がいない為、皆、無反応。
体育館には沢山人がいた。でも二校だけだから、それほど多くない。
時間になって、試合が開始した。
まずは、自分が呼ばれるまでは同校の選手の応援だ。
皆、熱い声援を送っている。隣にいる瑞葉は今は大人しそうだ。
しばらくして、瑞葉が呼ばれた。
瑞葉が卓球台の前に行くと。
「瑞葉ーー! 頑張れー!」
友達だろうか。凛翔の声ではない。
だけど、凛翔もそれに負けないくらいの声援を送った。
試合は順調に進み、瑞葉はどんどん勝っていった。
それに比べて凛翔は。
「全然、ラリーが続かない……」
何度やっても、相手に攻められてばかり。諦めかけて、膝から崩れ落ちそうになった時――。瑞葉が駆けつけた。
「凛翔っ!」
「瑞葉!」
「これはこう持つの」
彼女に持ち方を教えてもらう。その次にスムーズにいくラリーの流れを教えてもらった。
(ちょっと待て。試合中に観客が手助けしに来ていいのか?)
嬉しいけど、疑問が残る。
瑞葉のお陰でラリーは続くようになった。瑞葉、ありがとう。
そして、何と一回目の試合では勝てたのだ。
その後も事あるごとに、彼女が駆けつけてくるようになった。
何度目かの試合で、凛翔は始めはラリーが続いていた。でも、終盤相手も本気になったのか、変化球を投げてきた。それに凛翔は受け止めきれず、外してしまった。
すると瑞葉は――。
「ねえ! ズルしたでしょ」
「ズル?」
審査員も駆けつけ、ズルしたかの確認をする羽目になった。
瑞葉は何故かスマホで録画していたらしく、ズルの証拠動画を見せてきた。相手がピンポン玉を打ち付けたのではなく、投げたと瑞葉は言ってきたのだ。
違反が認められ、相手チームは強制敗退となった。
勿論、その動画は合成動画。全く相手に非は無い。
凛翔も首を傾げていた。
凛翔の試合が終わり、瑞葉の試合になった。あと二回勝てば瑞葉のペアの勝利だ。
なのに、瑞葉は手加減とも取れるくらい弱くなっていた。明らかに彼女の様子がおかしい。どうしたのだろう。
「瑞葉、大丈夫か?」
「ちょっと……クラクラしてきたみたい」
「休憩する?」
「ううん、平気」
その後、調子が回復せず、瑞葉は負けてしまった。
「えっ? 嘘。瑞葉!!」と凛翔が言った。
「瑞葉、えー。勝てると思ったのに……」
他の友人もそう言っている。
「残念だったなー」
瑞葉は何故か愉しそうに、深刻な様子もなく、棒読みで呟いた。
「瑞葉、大丈夫? 次、頑張ろう。自信持って」
「次は凛翔の番だよ」
「……え?」
彼は口を開けてしまった。
そう、凛翔は気づかぬうちに勝ちまくって、決勝に進んだのだ。瑞葉のサポートによって。
そして迎えた決勝戦。
相手は強豪とも言えるペアだった。実力のある二人は素早くラリーを繰り返す。丁寧でスピードもあり、負けを許さない。圧倒的な点数差で試合を終了させる。
それに凛翔が勝てるとは思えない。でも瑞葉のサポートがあるなら――。
前半戦はまさに劣勢だった。
全く点が取れず、呼吸も乱れる。もう勝てない、と諦めそうだった。
凛翔のペアの人が何点か取ってたけど、それでも劣勢。自分は全く点が取れなかった。
でも、休憩に入ると空気が一変した。
凛翔がポカリスエットを飲んでいる時、近くで揉めている声が聞こえた。
「――手加減してあげなよ。凛翔が可哀想じゃん。凛翔は決勝に進むまで、努力して頑張ってきたんだよ? それを潰すわけ? あり得ない、殺す」
凛翔は別に努力して勝ったわけではない。サポートによって、勝たされたのだ。
「こ、殺す……ごめんなさい」
「もっと頭下げて謝れ。凛翔が負けてショックで寝込んだら、まじ許さないから」
「……」
「隣の子も何か言いなよ」
「ごめんなさい」
「お、おい! 、瑞葉!」
瑞葉は颯爽にどこかへ行ってしまった。
「……」
険悪な空気の中、後半戦が始まった。
「が、頑張ろうね、凛翔くん」
相手ペアの男の子も先ほどの彼女の剣幕に圧倒され、オドオドしている。これじゃあ、試合どころじゃない。だって、勝ったら殺されるのだから。
「容易く凛翔に話しかけないでくれる? 話しかけていいのはあたしだけだし」
外野から批判的な声が聞こえてきた。瑞葉だ。
試合は瑞葉によって、相手ペアが先ほどの試合は何だったのか、と思うくらいへなちょこな球を打ってきて、凛翔ペアが勝ってしまった。しかも、相手の子も凛翔が打ちやすいように、なるべく凛翔の方に球が行くように、調節していた。だって、瑞葉に怒られるから。
もう第一印象で瑞葉は怖い人認定されただろう。
試合が終わると、凛翔のペアの子は勝った理由も分からず、喜んでいた。
「やったー! 俺ら、勝ったぞ。流石俺だな」
ペアの子は少しナルシストだったらしい。
「うん。良かった」
「もっと喜べよ」
(釈然としない……)
凛翔は勝ったけど、嬉しくなかった。ずっとモヤモヤしていた。寧ろ、さっきの瑞葉の揉め事の方が気になって仕方がなかった。
「凛翔ー勝ったね! すごいね! 良かったじゃん! ご褒美にアイス買いに行こうよ」
瑞葉が後ろから抱きついてきた。
その後凛翔は、表彰され、トロフィーを貰い、そのまま帰った。
帰りにアイスを買い、瑞葉は苺、凛翔はバニラの味を選んだ。
(瑞葉、ほんとに苺、好きだなぁ……今度苺味の何かプレゼントしようかな)
凛翔はそう思った。
(凛翔、バニラ好きなんだ。ふーん。まあ、あ、あたし知ってたけどね! 当たり前じゃん)
二人とも好みについて、考えてるようだった。
こうして、卓球大会が幕を閉じた。
優勝して良かった。釈然としないけど。
*あとがき
今回長くなってしまって、すみません。一話1000文字程度とは一体……?最近のように前編後編となるのも嫌なんですけど。多分、今後もそうなる。なので、もしかしたらこれから一話が2000~3000文字になるかもしれません!それでは、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。