第6話 妄想。


 家に帰ったあたしはすぐさまベッドに横になった。


 さっき拾った髪の毛は、無くしやすいのでなるべくポーチに入れておく事に決めた。今はポーチから出して、上に持ち上げ、眺めている。


 やっぱり、凛翔の髪の毛は艶があって素敵!


 幸福感に包まれるあたし。


 あたしの部屋には凛翔の写真がずらずらと貼られていた。全方位凛翔。目の保養。学校から帰っても、凛翔に会えた気がして、すっごく幸せだった。好きな人なんだから、当然だよね。

 凛翔も帰ったら、あたしに会ってるのかな。今度、あたしの写真をあげておこう。


 凛翔と同じ高校に入ってから、あたしの人生は薔薇色になった。毎日が楽しい。好きな人と一緒にいられる。心が満たされる。明日が楽しみになる。そんな理想な日々を送れて本当に良かったと思う。


 なんなら、同じクラスになりたい。隣の席に座ってたい。隣にいて欲しい。頭を撫でて欲しい。キスがしたい。凛翔を食べちゃいたい。

 凛翔のことを考えれば考えるほど、妄想は膨らんでしまう。


 でも、そんな思いは描いているだけじゃ、気が済まない。

 絶対、その気持ち、叶えてやるんだから。


 妄想してたら、いつの間にか感じていたようだ。びくっ、と身体が連続して跳ねる。手は気づけば、下半身のほうに移動している。


 やだ、あたしったら。また淫らな妄想してる。でも、全部あの人のせい。あの人が悪いの。あたしを好きにさせるから。ほんと、罪な男……。


 でも、妄想はこれだけじゃ終わらない。


 ここからはあたしの妄想の話。

 まだ、夜だけど眠れない。ずっと凛翔のことを考えてたいから。



 暗い静かな部屋。

 風も無く、空気も床も冷たい。

 そんな部屋で二人は閉じ込められていた――いや、あたしが彼を閉じ込めた。


 鎖に繋がれ、身動きが取れず、じっとしている彼――小鳥遊凛翔。


 そして、それを愉しそうに見ているあたし――佐渡瑞葉。


「さあ、次は何する?」


「ここから俺を出して下さい」


「えーそれは無理」


 そして、あたしはおきてを作った。


「凛翔はこの部屋から出ちゃダメ」

「一生、あたしと一緒にいるの」

「それは誰にも邪魔させない」


「分かった?」


「……はい」


「じゃあ、食事にしよっか」


 サイコロステーキをあたしの口から口移しする。


「ん」と言いながら、美味しそうに食べる彼。彼のその表情を見ているだけで、あたしの頬は綻ぶ。


「もっといる?」


「うん」


 たらふく食べさせた所で、最後接吻を交わした。


 んんっ。んっ。


 凛翔の唇は柔らかかった。快楽に溺れるように、すごく気持ち良かった。ずっとこうしていたい。でも、これだけじゃ当然満足出来ない。


 時間を忘れ、キスを重ねて、体力が無くなるまでキスをした。もう終わる頃には息がはぁはぁしてた。


「お疲れ様」


 あたしはそう告げ、唇を離すと唾で出来た糸が引いていた。何だかえっち。

 彼はというと、冷静でいつもの無表情でこちらを見つめていた。けど少し、微笑んでいるかのようにも見える。


 そして、確認するかのようにあたしはこう告げた。


「あたしのこと、好き?」


「勿論。大好きだよ」


「んんーっ、ありがとう! あたしも凛翔のこと、世界で一番大好きだよ」


 それからまたキスをした。

 唇が汚れるくらい、いっぱいに。


 ……凛翔がなんて、言ってくれるはずないのに。夢でもあり得ない。なのに、大好きって言ってくれた。嬉しかった。これが現実だったら、いいのに。


 あ、待って! 妄想が終わっちゃう! ダメ。


「……どうしたの? 、瑞葉。ボーッとして。それに、どうして泣いてるの?」


「泣いてる?」


 自分の頬を触ると冷たい感触があった。気づけば、雫が頬を伝っていた。


 だって、凛翔はずっとそばにいてくれないから。スキンシップだってしてくれないし。毎日、キスしてほしいのに。


 この妄想は虚しいばかりだ。


 本当は監禁なんてしなくても、ちゃんと愛して欲しかった。いつも凛翔はあたしを怖がった顔で見ていた。怖がらせたくないのに、怖がらせてしまう。

 愛が足りないよ。 


「あはは。何で泣いてるんだろうね。きっと愛が足りないからだよ」


「この鎖、外してくれるの?」


 愛が足りない、というあたしの発言を無視する凛翔。なんで無視するの。


「外さないよ」


 一生外さない。


「えっ?」


 戸惑う彼の表情が印象的だった。


 そしたら、彼の周りを黒いもやが包んで、あたしは彼から遠ざかっていった。勝手に身体が動いていく。それはあたしの意思に反して。


 待って! 行かないで!


 叫ぶと目の前に海豹あざらしのクッションがあった。現実に引き戻されたんだ。時計を見ると深夜の2:40分過ぎ。


 現実でも涙を流していた。身体も小刻みに震えている。


 楽しい妄想をしていたのに、何で悲しい気分になるの?


 凛翔、お願いだから、好きって言ってよ。


 じゃないと、脅迫して好きって言わせる事になるでしょ?


 

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