07話
「白鳥君……?」
「あ、俺です、ちょっと飲み物を買いに行こうと思いまして」
ちなみにその白鳥君は無理やり俺を泊まらせたくせにさっさと寝てしまったから暇だった、で、俺は寝る前に許可を貰ったタブレットを借りて漫画を読んでいたのだが喉が乾いたからこうして下りてきた形になる。
まあ、先輩からしたらどうでもいいだろうからいちいち声をかけるつもりはなかったものの、こうして話しかけられてしまったから仕方がなく話したというところだ。
つか、当たり前かもしれないが白鳥や白鳥君とそっちばかりが出てくるのは……。
「私も付いて行っていい?」
「え、遅い時間なのでやめた方がいいですよ」
「寝られないの、だから多少は動けば……と思ったんだけど」
「ま、いちいちコンビニとかまで行くつもりはないから大丈夫か、じゃあ早く行きましょう」
結局、こうして聞ける機会があってもなんで来ていなかったかなんて聞くことはしないでいた、なんでもなにもそのこと自体が答えになっているからだし、単純に冷たい顔を見たくなかったというのもある。
あとは先程も言ったようにこの人達の中には白鳥しか存在していないから聞けたところで……というところかな、と。
「先輩もなにか飲みます?」
「私はいいわ」
「分かりました」
勉の部屋で飲みつつ更に電子書籍でも読んで夜更かしをしようと決めていま来た道を戻って行く。
会話がなくてなんのために一緒にいるのかというそれから逃避をするために次はあれを読もう、でもあっちもいいななどと短い間だったがごちゃごちゃにさせた。
「じゃあこれで」
「待って」
「寝転んで目を閉じていれば寝られますよ」
流石にリビングに勝手に入るわけにはいかないし、客間には日下が寝ているわけだから邪魔もできない。
となると喋りたいということなら外で過ごすしかないが普通に寒い、でも、そこまでは付き合うつもりなんかなかった。
俺がどれだけ頑張っても求められるのは勉で……って、別に頑張ってはいないわけだからなんらおかしなことではないな。
「寝ていますが勉を呼んできます」
「可哀想よ」
「でも、前に進めないじゃないですか」
部屋及び階段前でぺちゃぺちゃ話したところでお互いに冷えるだけだ、だったら日下的にも喜べる勉を呼んできた方がいいと思ったのだがこっちの腕を掴んで止めてきた形になる。
勇気がいるのかもしれない、でも、もう本当に時間的に余裕はないのだからその気であれば頑張っておくべきだろう。
「……あれ、なんか邪魔をしちゃった感じ……?」
「違うぞ、トイレか?」
「うん、ちょっと冷えちゃってね。ふぁぁ~……、二人も冷えないように早く寝た方がいいよ」
「おう」
寝ぼけているだけのか慣れているだけなのか、日下はまるで自宅かのように歩いて行った。
俺でも勉がいるところ以外では移動しづらいというのに女子はすごい、そして諦めが悪いところも共通している。
「あれ、まだいたの?」
「先輩が言うことを聞いてくれないんだ」
「じゃあちょっと白鳥を呼んでくるよ」
「頼む」
いやまあ、今回のは嫉妬的な感情があるというところからは目を逸らせない。
別に勉が悪いわけではないし、女子二人が悪いわけでもないのにこれだから困る。
だが、眠そうではあっても主役がいてくれたらこの場はなんとかできるということで出しゃばらずに静かにしていた。
ここで俺がいる必要はないからと戻ったりすると本当に面倒くさい奴になってしまうからできなかった。
「ここじゃあれだからリビングに行こうぜ、コーヒーでも飲まないとまぶたとまぶたがくっついちまう」
「そうだね」
俺のためではなくても
三人が会話をしているのに一人だけ黙って別のことをしているということよりもすぐにその面白さの方に意識が向いたとき、タブレットを取られて続きが読めなくなってしまったがな。
「勉が貸してくれたんだ、だから返してくれよ」
「別にいまじゃなくていいでしょ?」
「もうこんな時間だぞ、お喋りがしたいなら明日すればいい。どうせ冬休みだし、勉ももう部活はやっていないからいくらでも話せるだろ」
だから返してくれよと重ねる、が、ここで大人しく返してくれるような存在だったらいまみたいなことにはなっていないというわけで……。
「ちょ、なんで今日はそんな感じなの」
「眠いんだよ、解散するときに起こしてくれ」
遅い時間というのは決して大袈裟に言っているわけではなく本当のことだ、そして二十三時というのは遅い時間に該当する時間だ。
それだというのにまた集まって盛り上がろうとする彼女達に付いていけなくなったことになる、まあ、それでも部屋に戻ろうものなら一番敵になってほしくない勉が参戦してくるだろうからここにいようと妥協したのだ。
必要がないとしてもだ、俺がいなくなったところで三人で楽しくやるのだろうが自分のためにそうしている。
「もう一階で全員で寝るか」
「ちょ、白鳥もなにを言っているの?」
「や、俺も眠いんだ……」
そうだよな、いまなら文句を言った俺がおかしかったと素直に認められる。
夜更かしなんかはせずにさっさと寝るべきだ、小さい頃から「さっさと寝て早く起きてしたいことをしな」と母に言われていたが正にその通りだ。
夜更かしをして翌日の昼近くまで寝ていたらもったいないとしか言いようがない。
「ふ、布団がないじゃん」
「俺と祐輝、日下は先輩とでいいだろ」
「い、いや、それはそれでどうなの? なんかそっち方向にやばく見えるんだけど」
「初めてというわけじゃないから大丈夫だ、ほら祐輝、このままだと風邪を引くからあっちに行こうぜ」
寝られるならなんでもいい、だから文句はなかった。
それでも優しい人間だから二人から一番近い方に勉を寝かせることにする、眠たいときでもさり気なく考えて動けるというところは悪くない。
でも、そんなことよりも布団に寝転べたということで……待て。
「こ、これはどっちが使っていたんだ?」
「私……ね」
「やっぱり俺は勉の部屋で寝るわ、じゃあ――」
「先輩が寝転がっていたぐらいでなんだよ、落ち着け」
嫌だろうから流石に離れたね。
どうせなら勉も連れてきたかったがその点は諦めるしかなかった。
「起きろ」
「……夜更かしをしていたくせに早起きだな」
「ああ、まだ六時だからな」
「六時……学校もないのによくやるな」
それでもあそこで寝ることを選んだときよりはよかったと思う。
先輩のだと分かって急いで出た分、気になっているかもしれないが俺も気になったから仕方がないと諦めてもらうしかない。
「歯を磨いてくる」
「あ、いまは先輩がシャワーを浴びているからやめた方がいいぞ」
「そうか、ついにやってしまったのか」
日下もいたのにどうやってやったんだ……というのは下らないからやめるとして、朝にシャワーを浴びるとか自殺行為もいいところだ。
しゃっきりしたい、清潔にしておきたいというそれよりも凍え死んでしまう。
幸い、マイナス気温になるような県ではないが、だからこそ対策もそこまでしていない分冷えると思うのだが……分からないな。
「冬でも朝風呂に入らないと落ち着かないんだってさ」
「そのまま流すなよ、じゃあ一旦帰るわ」
「まあ待て、なんで昨日から俺にも冷たいんだよ」
「いや、せめて歯は磨きたいだろ……」
「台所でいいだろ」
結局吐き捨てることには変わらないものの、それはそれで気になるというやつだ。
なので、歯を磨くために一旦家に帰って残りたいと訴えてくる自分の一部を押さえつけて戻ってきたことになる。
「おかえりー」
「日下、それでいいのか?」
寛いでいる場合ではないだろう、少しの連休を使って関係を変えるぐらいの勢いでやってほしい。
動いてくれるのであればあの女子達みたいに悪く言ってストレスを発散させてもいいから、うん、頑張ってもらいたい。
「ん?」
「なんでもない」
というか先輩はまだ戻ってきていないのかと聞こうとしたら本人が来てタイミングが合わねえなぁと内で呟く。
「おかえりなさい」
「先輩もそれでいいんですか?」
「え?」
「なんでこの二人はこうなんだ……」
「なに一人でぶつぶつ言ってんだ、飯ができているから食べようぜ」
あ、俺のせいで待つことになったということか、それなら申し訳ないから謝罪をしておいた。
で、日下と先輩が作ってくれた飯を食っていたわけだが、食べ終えたら今回も動きたくなくなってしまって困ってしまった。
学校がないというのも、彼の家だというのもそこに加わって余計に悪くなって冬休みが終わったときにすぐに戻せるのかが不安になったりもした。
「ぐー……はっ、あれ、勉はどこに行きました?」
「日下さんを家まで送ると出て行ったわ」
「なんで先輩は残っているんです? あ、なるほど、勉を独り占めしたいということですね?」
それなら眠たいから帰るとするか、勉とは大晦日とかに会えばいい。
それが無理でもゆっくり過ごせるわけだし、寂しいなんてことはない。
「違うわ」
「そ、そうですか、……頑なに認めないのはなんなんだ……」
「違うからよ」
というか家も近いのにまだ帰ってこないのはアレかとあの女子達より酷い妄想癖が止まらない、それこそ俺こそなんでもそういう風に見えるのであれば病院に行った方がいいというやつだ。
「でも、最近は忙しかったわけですよね? 冬休みになった途端になくなるなんてこともありえないでしょうし……ここにいていいんですか?」
「ええ、とりあえず大丈夫よ」
「じゃあ早く勉が帰ってくるといいですね」
ではなく早く帰ってこい勉、そうしてくれないと帰れないだろうが。
求められてもいないのに俺がいたところで意味なんかはない。
「そうね、簡単に移動することができないからその点ではあなたの言う通りね」
「その点とわざわざ言うということは他は違うんですね」
「ええ、なにもかもが違うわ」
なにもかもは言い過ぎだろう、どうせ勉が帰ってきたら――帰ってきたからすぐに変わるはずだ。
それこそ露骨で嘘を重ねる必要なんかはなかった、俺にこう言われるのが嫌なら他の場所でやればいい。
「日下が粘ってきて困ったぞ」
「そりゃそうだろ、気づいていないとか言ったら流石に引くぞ」
最近以外は分かりやすくアピールをしていたわけだから気づいていてもらいたいところだ、それと今回のこれは許可を貰ったというわけではないが別に日下のことを意識しろなどと言っているわけではないから許してくれると思う。
「先輩だけが残ったからか?」
「ああ、自分だけ帰ることになればそりゃ不安になるだろ」
「母さんに呼ばれたからで俺が追い出したわけじゃないんだぞ、だからそこを勘違いしてくれるなよ相棒」
自分のことでもないのに俺が一番期待して待っているというのが実にあほらしい。
なんでこうなったのか、この点だけは日下と普通の仲になったことの悪いことだと言えてしまう。
「白鳥ー!」
「うわっ、また来たのかっ」
無意味に付いて行くと今度は別の意味で顔を赤くした日下がいた、一目で走ってきたことが分かるからこれも勝手な妄想とかではない、こう……ベクトルが違う感じなのだ。
「瀧藤先輩、あたしは白鳥のことが……ううん、勉のことが好きです」
「ええ」
「だからあなたに負けたくありませんっ」
いや違ったのか……? つかなんで俺らが帰った後にやらないのか。
動くタイミングが分からなさすぎる、が、俺にあまり頼ってこなかったのは頼りないからとかではなくて自分でなんとかしたかったのかもしれないという考えに変わっていた。
正直、願望みたいなものだから実際のところは使えなかったからかもしれないがそういうことにしておく。
いちいち事あるごとに悪い方に考えて精神ダメージを負う方が馬鹿らしいからこれでいいだろう。
「そもそも勝負にすらなっていないわよ、私は白鳥君のことが好きではないもの」
「おえ……、本当のことだとしてももうちょっとぐらい言いづらそうに言ってくれよ先輩」
「わ……たしは白鳥君のことが――」
「も、もういい、祐輝、先輩を連れ帰ってくれ」
「分かったよ」
連れ帰るなら誘った勉だろとは言わなかった、やることをやっている最中に荷物を取りに戻ったりすると最悪だからちゃんと忘れ物がないかどうかを確認してから白鳥家をあとにする。
「先輩が解散にしたいならこのまま家まで送りますよ、で、帰って寝ます」
誘われなければそのまま登校日まで家にこもることになる、その過ごし方だって一つの冬休みの楽しみ方ではあるから寧ろそうなる方が――前もこの話をしたか。
「昨日のあれ、本当にショックだったわ」
「俺は先輩が嫌だと思って部屋に戻ったんです」
「でも、あんなに必死に戻らなくても……。結局寝られなくて、朝にシャワーを借りることになったわ」
「あ、習慣というわけではないんですね」
湯冷めをして風邪を引いてしまう可能性なんかもあるからしない方がいい、少なくとも相手が友達だったらやめておけよと言わせてもらう内容だった。
「ええ、朝にお風呂に入るのはよくないと聞いたことがあるから――ではなくて、話を逸らさないでちょうだい」
「先輩のが嫌だったとかじゃないんで勘違いしないでください、というか、寧ろ先輩の方が嫌がっていますよね?」
「私が嫌がっている……?」
「だって一気に来なくなったじゃないですか、それって少しの間でも俺と過ごして本当のところを知ったからじゃないんですか?」
先延ばしにしていただけで聞かないまま終わらせるつもりなんかなかったからこういう話題になってよかったと思う。
歩きながら話すのも微妙だからと足を止めると先輩も足を止めた、でも、こちらを見るその顔は微妙だった。
勝手に言うなと怒るなら怒ればいいし、また違った感情からくるものならはっきりと言えばいい。
「分かりにくいと思うので一つ例を挙げますが、俺が金を勉に押し付けたときがあったじゃないですか。あのとき先輩は怖い顔をしていました、優しくしてくれた勉に微妙な行為をする俺に怒ったんだと想像していたんですがどうですか?」
「スーパーで買ったハンバーガーを食べた日のことを覚えている?」
「はい」
まだまだ出会ったばかりと言ってもいいぐらいだからそれも最近のことだ、流石に忘れたりはしない。
「あのとき私はあなたにお金を返さなかったわ、微妙に噛み合わないまま渡されたハンバーガーを食べるだけで終わらせてしまった、それなのに相手が白鳥君のときだけ返そうと動いてしまったことが引っかかっていたの。だからそれは私に対してのことであなたに怒ったわけではないわ」
「なるほど」
律儀な人だからな、思い出したら駄目になってしまった可能性もある。
ただ、一週間以上が経過したらもう返すのは無理だからなどと開き直ってしまえばいいのにできなかったということか? いやでも、本当に自由とはいえまだ行かなかった理由を吐いていないわけだからこちらが駄目だ。
「なのにあなたは私のために動いてくれたわよね」
「先輩のためというか母に厳しく言われていたというのが主な理由ですがね」
「でも、私はそれで助かったわけだからそういうことになるのよ」
「まあ……そこは自由に判断してもらうということにして、来なかった本当の理由はなんですか?」
しつこくて本当に申し訳ない。
「勉強をしなければならないのもあったし……」
「あ、無理なら無理でいいです、それとこのままでもなにもおかしくはないです。誰に近づくかはその人が決めることですからね。じゃあなんで聞くのかという話ですが気になってしまったからなんですよね」
それでも先輩は答えてくれると期待してしまっている自分がいるわけだが、露骨過ぎて答えてくれることはないだろうなと考える自分もいた。
「……仲がいい二人を見て冷静ではいられなくなってしまったからよ」
「あー、俺も日下が勉と上手くいくように動いていましたもんね」
「意地悪ね」
「え、まさか先輩は腐女――好きな人間がいる女子を好きになったりしませんよ」
そういう対象がいなかったら日下に恋をするのも楽しかっただろうが勉という存在はずっといたわけだから意味がない話だ。
勉って凄えな、色々な女子からアピールをされていてもどうして踏み込まずにいられるのだろうか。
相手が分かりやすく動いてきていたら俺だったらきっと動いてしまう、調子にすら乗ってしまうかもしれない。
「昨日、俺のことを止めてきたじゃないですか、あのまま言うことを聞いていたらどうしていたんですか?」
「もし言うことを聞いてくれていたら外で話したかったわ、最近は話せていなかったからそうしたくなってしまったの」
「え、俺とですか?」
「はぁ、白鳥君とだったら誘うのはもっと楽だったわよ」
なるほど、じゃねえよ……。
なんでこうなってしまったのかがまるで分からなくて三十秒ぐらいは実際になにも言えなかった。
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