04話
「あの二人って別にお付き合いをしているわけではないのよね? その割には距離が近くて気になるわ」
「名字呼びを続けているぐらいですし、実は付き合っているなんてことはないと思いますが」
聞いてもいないのにいらない情報まで教えてくれる勉が敢えてそういう大事なことだけ教えてくれないというのは変だ……と言いたいところだが、あの女子――日下に頼まれて黙っている可能性は普通にあるから微妙なところだった。
「そもそも物理的な距離の話なら俺らもそう変わりませんよ」
「一緒に行動しているんだからそれは当たり前じゃない、私が言いたいのは――」
「おい二人共、あんまり離れるなよ」
「悪い、ちゃんと付いて行くから日下に集中してくれ」
というか、なにかを意識する必要もなく勝手に二対二の状態になってしまっているのがいいのかどうか分からない。
この状態なら俺らが一緒にいる意味なんかがないため、帰っていいということなら帰らせてもらうがどうだろうか。
「畑迫、余計なことを考えないで付いてきて」
「分かったよ」
日下もなんで続けようとするのかね。
まあ、考え事をしながら歩いていれば細かいことを忘れて過ごせるからその点はいいと言える。
だが、日曜なのもあって人が大量にいすぎることからは逃避ができないまま十分ぐらいが経過した、歩いているだけで特に店に寄ろうとしないことからも意識を逸らせなかったことになる。
「腹減った、だからもう食べようぜ」
「え、まだ十一時なんだよ?」
今日出かけると分かっていたはずなのに先程起きて出てきた俺的にはそんなに悪いことではなかった、が、結局外で食いました~などと言ったら母には怒られそうではあるがな。
「一時間しか変わらないだろ、今日は日下が誘ってきたということで自由に選んでいいから食べに行こうぜ?」
「うーん、瀧藤先輩はなにか食べたい物とかありますか?」
「私は合わせるわ、あくまでおまけだもの」
「俺も合わせるぞ、所詮おまけだ」
「うーん、任せられるというのもそれはそれで気になるものだね……」
特に移動をすることもなくうーんうーんと悩んでいる彼女を待っていた俺達だったが答えが出る前に邪魔が入って一時中断となった。
「うわ、よりにもよってあの二人と一緒に遊ぶとか日下さんも趣味が悪いね」
「どっちかと付き合っていたりして、あ、日下さんも同じような存在でどっちとも付き合っている可能性もありそうじゃない?」
多分動こうとした彼を止めて二人に近づく。
「日下もあの人も今日は俺に渋々付き合っているんだ、だから一緒なわけがないだろ。ちゃんと話を聞いてから判断しないと危険だぞ」
「え、やば……」
「まさかそこまでとは……」
どういう風に見えているのかが気になる、なんでもかんでもそういう方向に見えてしまうということであれば病院を勧めるところだ。
個人で勝手に妄想をしている分には自由ではあるものの、それを口にするのであればそれ相応の覚悟をしておくべきだろう。
「ま、別に悪いことなんてしないぞ……と言いたいところだが、あんた達と違って大して知りもしないのに悪く言ったりはしないからそこは違うな」
「どうせあの二人だってあんた達のことは知らないでしょ」
「いや、日下は白鳥のことをよく知っているぞ」
同じクラスのわけだから俺と勉では差があるということに気づいているはずなのにあくまで同じような評価なのが謎だ、いい点もエロ動画を見ようとか言い出すあの言動のせいで消え失せているということであれば本当にもったいないことをしていることになるな。
「言動的に白鳥の方がやばいのにそっちの方をよく知っているということはやっぱり日下さんもやばいってこと……?」
「やばいかどうかは知らん、だが、興味を持つのは悪いことじゃないだろ?」
「んー、でも敢えてあんた達に拘るのがよく分からない」
だから彼限定だって、別にこちらには拘っていないからそれは勘違いだ。
つか、止めたのは俺だがここまで参加されないとなると寂しいものだな。
後ろを見ればちゃんと今日一緒に来ているメンバーがいるというのにまるで聞こえていないかのような感じに見える。
「見た目とかデメリットとかを考えずに動けるそういうところに惹かれたんじゃないか?」
「あ、確かに白鳥はよく手伝ってあげたりしているか、女子限定で……ってところが気になるけど動いてあげていることには変わらないよね」
「ああ」
そもそも俺はなにを頑張っているのかという話だろう、これではまるで評価を改めてほしくて頑張っているようにしか見えない。
冷静に聞いてくれているが、相手によってはそのことだけを見て自由に言ってきそうな行動だった。
「あっ、友達の家に行くから話はこれで……」
「おう」
「……じゃあね」
あの女子にとっての相棒も途中からは参加しなくなってしまっていたし、本当になんだったのかねいまの時間は。
「よし、話も終わったから飯を食べに行くか」
「えっ、し、白鳥っ」
「ん?」
「あ、いやほら、畑迫はあたし達にために動いてくれたわけだし……」
「礼なんか言わなくていいんだよ、あれは勝手に動いた祐輝が悪い」
そうか、ただ飲食店に行きたかっただけだったらしい。
それなら尚更俺は無駄なことをしたということになるじゃねえか、なに一人でやっているんだよ俺は……。
こういうところは母と仲良くしていることからの悪影響だと言える、十センチぐらい追い詰められたら真正面からぶつからないと気が済まなくなってしまっている。
「はは、言ってくれるな」
「本当のことだろ、なんでも真正面から受け取ればいいってわけじゃねえんだ。問題なく終わったが、場合によってはもっと面倒くさいことになっていたんだぞ」
「悪かったよ、俺も腹が減ったから早く行こうぜ」
「そうだな」
つまり、日下が悪く言われる可能性というやつが出てきて気になったということだよな? だからやっぱり彼の中で日下の存在はそれなりに大きいということになるわけか。
別にそれでも構わない、だが、一緒のところでやるのであればはっきりしてもらいたいところだと言える。
曖昧な状態だと疲れるし、そのままにしておくと守ろうとした日下を慌てさせることになるのだから考え直すべきだった。
「あれはない……うん、そうだよ」
「ぶつぶつ言っていないでさっさと課題を終わらせようぜ」
終わらせようぜというか終わらせなければならないのは放課後の教室で広げていたこちらの方だった、彼女は近づいてくるなり目の前でぶつぶつ言っていただけに過ぎない。
「だってあんたは動いてくれたんだからさ」
「解散になる前に日下は『ありがとう』と言ってくれただろ、別に礼を言われたくて動いたわけじゃないがそれだけで十分だよ」
「でも、責めるようなことを言うのは……違うでしょ」
あの後はいつもの彼女らしくない過ごし方をしていて気になってはいたがまさかそんなことを気にしていたとは思わなかった、いつものように「白鳥が正しい」と言っておけばいいのに……。
「問題なく終わったが結果論でしかないからな、多分半分以上の確率で勉が言っていたように悪い方に傾いていただろうから別におかしなことではないぞ」
「うぅ、なんであんたがそうなの」
「俺だからじゃないか――よし、終わった」
残り続けるような趣味はないから荷物をまとめて教室をあとにする。
「ま、待ってよっ」と付いてきた彼女のために仕方がなく歩く速度を落として合わせた、もう少しゆっくり変化してもらいたいものだと彼女を見つつ内で呟く。
「これもそのためではないが、勉が動いてくれたのは嬉しかったんじゃないのか?」
「うーん、だけど直前のことがあって正直微妙だったよ」
「余計なことを気にするな、でも、ありがとな」
「いいよいちいち言わなくて」
ならこの話はここで終わりだ、続けたところでなにが変わるというわけではない。
それにあれは自分を守るためでしかないのだ、だから喜んでおいてあれだが礼を言ってもらえるようなことではなかった。
いまいち格好がつかないというか……うーん。
「ちょっとすっきりしないからハンバーガーを食べてくるっ、あんたも行くっ?」
「俺はやめておくよ」
「そっか、じゃあまた明日ねっ」
また明日を繰り返している内に二年生でいられる時間もあっという間に終わりそうだった。
「ハンバーガーか、いいわね、美味しそうだわ」
「いまから追ったらどうです?」
「まだ二人きりは怖いわ」
怖いね、でも、それは知らないからだ。
だから一緒にいたいのであれば一瞬の怖さなんかは意識を逸らして行動をするべきだと思う。
そうでなくても先輩的には時間があまりないからな、動き出そうとした頃には無理になっている可能性も高い。
「勉や俺のときは気にしていないじゃないですか――なるほど、そうか……」
「変な勘違いをしないでちょうだい」
勘違いね、最初はみんなそう言うんだよなぁと日下の真似をしたくなったが我慢をした。
「それならスーパーの安いハンバーガーを買って食べませんか?」
「え、お母さんに怒られてしまうわよ?」
「あれも地味に美味しいですから大丈夫ですよ、行きましょう」
「え、だから私が言いたいのはそういうことじゃなくて……」
でもだけどとスーパーに着いてもぶつぶつ言ってきていたから気にせずに先輩の分まで購入して渡しておいた。
「やっぱりこの安い感じの味が逆にいいんですよね、あ、一口だけでもいいから食べてくださいよ?」
「畑迫君」
「もう、なんですか?」
傷ついているのに無理をして普段通りを装っているというわけではないのだ、そういうのもあってこのまま続けられると怒ってしまうだろうからやめてほしかった。
心配をしてくれているのだとしてもいまはいらない、そういうのはもっとやばくなったときにしてもらいたいものだ。
でもまあ、本当に必要なときにはいまみたいなことにはならないということだけは分かるという少しの寂しさがあるのだが……。
「これ……いただくわ」
「はは、はい、美味しいですよ」
食べ終えたら先輩を家まで送って家に帰った。
「遅い」と何時であろうとも言う母には今日も苦笑したのだった。
「はい――」
「おい大丈夫かっ」
「って、わざわざ来てくれたのかよ、相棒も物好きだな」
捻挫でも心配になるというものだ。
自己満でしかないがそういうのもあって行かないという選択肢はなかった、相手が迷惑そうにしていても行かないで翌日を迎えるよりはよっぽどいい。
「正直、俺のこれは自業自得なんだ」
「そりゃ自分が原因かもしれないが責める必要はないだろ」
ふざけていたわけではない、活動をしていたときにたまたまやってしまっただけでしかない。
そのため、自業自得と片付けるのは違う、やっちまったぐらいでいい。
治るまではもどかしいだろうがゆっくり休んでまた大好きな部活に励めばいい、そういうときに誰かに付き合ってもらうことで精神面でのサポートをしてもらうのもいいはずだ。
「この前、礼も言わずに責めるようなことをしただろ? だからあれが返ってきたんじゃないかって考えていたんだ」
「勉もかよ、余計なことを気にするな」
「でも、あれのおかげでうるさいとか言われることはなくなったんだぜ? それなのに俺は相棒に――」
「もういいから中に戻れよ、そこまで酷そうじゃなくてよかったよ」
上がらせてもらうつもりなんかは微塵もなくて帰ろうとした、だが、ぎゅっと強く腕を握られて動けなくなった。
彼の方を見てみると「上がれよ、ナーニャもたまには相棒に会いたいだろ」と、別に彼の両親と会うことが気まずいとかそういうことはないから構わないと言えば構わないが……。
「ナーニャ、相棒が来てくれたぞ」
「はは、来たときには必ず餌を食べているな」
「食べることが大好きだからな、そこに座れよ」
「いや、勉が座れよ」
長くいるつもりはないから立ったままでも構わない、だが、気にして意地を張りそうだから入り口近くの床に静かに座った。
「祐輝、このまま部活を続けるべきだと思うか?」
「ど、どうしたんだよ急に」
「いや、自分で選んで入っておいてあれなんだが、部活に所属していない祐輝や日下が遊んでいるのを見ると羨ましくなる自分もいるんだよ。今日怪我をしたのもそういうところからきていると思う、で、祐輝ならこういうときどうする?」
「俺は所属していないからそういうときにどうするのかなんて分からない、だから正直なところを言わせてもらう」
「おう」
部活大好き人間の口からまさかこんなことが吐かれるとは思っていなかったから驚いた、でも、そのまま驚いたままで終わらせるのは違うからちゃんと言おう。
別にこのことで俺の今後が変わってくるというわけではないのだから気にしなくていい、あまりに参考にならなかったら彼だってちゃんと自分でよく考えて行動をするだろうから悪影響ともならないのがいい。
「その方が楽しめるということなら辞めることを選ぶ」
「そうか」
猫とか犬というわけではないから残念ながらナーニャに触れることはできないものの、見ておくことで若干の気まずさをなんとかしていた。
気にしなくていいなどと言っていてもやはり気にしてしまうのはいつもの俺らしいと言えた。
「俺としてはっ」
「ん?」
「あ、……俺としては勉が部活をやっていなかったら一緒に帰ったりできるわけだからやっぱり違うよ」
でも、彼が辞めることは結局ないだろうな、と。
そもそも来年の七月になったらどっちみち辞めることになるからだ。
「ああ、違う部活同士でも中学のときは一緒に帰っていたよな」
「日下や先輩が誘ってこなかったら一人だからさ」
「んー、とりあえず父ちゃん母ちゃんとも話さないといけないよな」
「そりゃあな」
俺に言うよりも先に言うべきだがこういうところがらしいと言えた。
だから日下とか他の女子と上手くいった際にもちゃんと言ってくれるよなと期待してしまっている自分がいる。
「よし、じゃあそういうことでこの話は終わりな。さて、そろそろ実行できていなかったエロ動画を見るという行為を――」
「そういうのに頼るのはよくないよ」
「「く、日下っ?」」
なんで当たり前のようにここにいるのか、ちなみにそんなことはどうでもいいのか
「畑迫もさ、あたしに行くって言ってから行ってよ」と不満気な感じだったが。
「白鳥、怪我は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ、心配してくれてありがとな」
「友達の心配をするのは当たり前でしょ」
怪我をしたことに不満を抱いているのか、真っ直ぐに礼を言われることに慣れていなくて似たようなことになっているのか、悪くないはずなのに微妙そうな顔をしていて笑いそうになった。
あと、関わっている期間的にこうして何回も彼の家に遊びに来ているということだろうし、やはり他とは違うなにかを期待している自分がいる。
「でも、暗い中一人で来たことには注意をさせてもらうぞ」
「あたしなんて襲う人間はいないよ、畑迫、ちょっとずれて」
「おう」
いや、おうではないな、もう必要ないから帰ることにしよう。
「十九時までには帰ってきなさい」と母に言われているから挨拶をして白鳥家をあとにする。
「さむ……」
急いでいたときは気にならなかったのだが帰るときにはやはり敵となった。
冬なんて早く終わってしまえばいいのにと何度呟いたか分からないそれを繰り返しつつ歩いていると、
「先輩……?」
家に着いたのはいいのだが段差に先輩が座っていて困った、しかもただ座っているわけではなく体操座りで顔を見えないようにしているから余計にそうなる。
「ぷ、ぷふっ、あ、あたしだよ」
「はぁ? なにをしているんだよ……」
「まりちゃんが遊びに来てくれたから借りたんだよ。いやー、髪を伸ばしておいてよかったよー」
馬鹿なことをした成人女性は外に放置してリビングに入ると「おかえりなさい」と読書をやめて言ってくれたが……。
「もう本当にすみません」
「気にしなくていいわ、どんな反応をするのかが気になったのは私もだもの」
いやそれにしたってなぁ? 俺と勉ぐらい仲がいい状態ならともかくそうでもない先輩に頼むのは違うだろう。
嫌なことなら嫌だと言っていい、相手の親だろうとそんなことは関係ない。
「暇だからって連絡もしないで勝手にここに来た私が悪いのよ、だから本当に気にしなくていいわ」
「そうですか」
「でも、本当に勝手だけど少し寂しかったわ」
実は昔に会っていたなどと言われてしまった方が受け入れられるような気がした、だっていまのままだと気に入りすぎていて怖い。
「勉が怪我をしたので家まで行ってきたんです、捻挫ということでそこまで酷くはないみたいですが自分のしたいことを優先した形になりますね」
「怪我……、私達も気をつけなければならないわね」
「はい」
気をつけていれば完全に回避できるというわけではないがそれでもなんにも意識をしていないときよりはましだと思う。
だから気をつけようと少しだけ意識を変えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます