第73話 異世界の神々SIDE




「可笑しい、何時まで待っても『感謝の祈り』が増えない」


普通は、勇者召喚をした後には必ず、信者からの祈りが増え、信仰が高まるのに、何故か今回は感謝の祈りが来ない。


私は女神…だからこそ、この『信仰の力』が必要なのよ。


信仰が少なくなれば、私の力は弱まっていく。


こんなに信仰の力が集まらないなんて事は今迄無かったわ。


いや、過去に1度はあったわ。


あの時は確か、勇者が序盤の街で殺されのでしたね。


だけど、今回は可笑しい。


『勇者は生きている』


それなのに感謝の祈りがいつもと変わらない。


勇者が死んだら、私には解る。


それは『勇者のジョブ』その物が私の元に戻ってくるから。


勇者を含む五大ジョブは二つと無い存在。


その持ち主が死んだ時は必ず私の元に戻って来る。


ジョブが戻らないと言う事は…勇者が生きている事になる。


それなら、何故、信仰が上がらないの?



解らないわ。



◆◆◆


不安を抱えながら気を落ち着かせる為にお茶を飲んでいると


創造神クリエ様が私の元にやってきました。


「創造神クリエ様が自ら、来られるなんて、何かあったのでしょうか?」


「この世界を任したのは儂だ…だからお前を信じているが、邪神側からお前が不正をしているのでは無いか? その様な申し出があったのだが!心当たりはあるか?」


まさか、他の世界から少年や少女をこちらに連れてきているのがバレたの?


いや、バレているなら創造神クリエ様の性格なら即刻、処分が下る筈。


「いえ、心当たりはありません」


「そうか…そうか…まさかとは思うが、他の神が慈しみ育てた存在を言葉巧みに騙し、自分の世界に連れてくる様な事はして無いよな?」


「その様な事は…致しておりません」


「そうか?ならば良い。もしその様な事をしていたのなら女神と言えども、消滅処分じゃ」


これは流石に不味いのかも知れない。


消滅…本当にそんな事があるのか…


私は女神なのよ。


「本当に私は…致しておりません!」


「ほぅ。しらを切るのか? 実はな、もう実態は掴んでおったのだ。異世界の神の分体、テラスという者が儂の所に訴えてきてのう。こちらでも詳しく調べたのじゃ。邪神や魔族の代表や天使達からも話を聞いておる。残るはお前だけになっておったのだ。 黙って非を認めて反省するのであれば許すつもりでおったが、もう許せぬ」


「待って下さい! 消滅だけは、消滅だけはお許し下さい」


創造神クリエ様が黙った状態がかなり続いた。


実際には数秒かも知れなかったが、私には凄く長い時間に感じた。


「お前の処分は置いておき、まずは異世界の神からの和解条件は『この世界で自由に布教する権利』と『向こう300年の間お前がこの世界に一切の干渉をしない』だ」


「待って下さい。そんな事をされたら、あの世界の人々はどうなるのですか? 私を信じて祈ってくれる存在なのです…」


「その世界の人間の可能性を信じずに、安易に他の世界の人間を攫って来たのだ。お前にそれを言う資格はない。 よく考えろ。向こう側が一方的な被害者だ。向こう側の世界から大量に誘拐し、詐欺に近い事をしていたお前の罪が『布教』と『300年の謹慎』で済むんだ。随分と寛大な処置だと思うが、違うか?」


「解りました」


もう既に決まってしまった様だ。


今更、私が口を挟んでも、何も変わらないわ。


「あと、邪神側からだが」


「まだ何かあると言うのですか?」


「今のは異世界の神に対する責任じゃ。お前のイカサマみたいな方法で魔族と人族の勢力図はかなり人族に傾いておる。それに対しての償いじゃ。『300年の謹慎が終わった後、向こう300年『五大ジョブ』を授けるのを禁止』して欲しいそうだ」


これじゃ実質600年、私はこの世界に大きく関われなくなる。


余りに重い。


「創造神クリエ様『異世界転移』を行っていた女神は私だけじゃありません。他にも沢山います。それが何故私だけこんな罰を受けなければならないのでしょうか?」


「イシュタス、お前だけじゃない。今迄、異世界転移に関わった神のその全てをこれから罰するつもりだ」


「そんな…」


「これで済んで良かったと思う事じゃ。テラスの本体の神の仲間だけで八百万の神々がおる。他にもイエスだ釈迦だと異世界には神が沢山おるんじゃ。その殆どが怒っておると聞き、生きた心地がしなかったわい。場合によっては神同士の全面戦争になる所じゃったんじゃよ」


「たかが、人間の事で向こうの神はそんな事までするのですか…」


「お前が攫った癖にジョブを与えなかった子供がおったじゃろう?」


「他の神の臭いがした子ですね…」


「他の神の臭いがした。だったら何故、その時に思い止まらなかったのだ。その子がその世界の天照様に代々愛されておる一族の子だ。いわゆる神の愛し子に近い存在だった。そんな子に手を出して向こう側の神が怒らないと思うのか?」


「まさか、ここ迄の事になると思いませんでした」


「ハァ~まぁ良い、これから300年この世界に関われない様に天界に引き戻す」


「待って下さい。せめてこの場所に居させて下さい」


「それは無理な話だ、良いかこれは温情なのだ。天使にも落とさず、女神のままで300年ただ天界で楽しく暮らすだけ等本来は軽すぎる。ここ迄優しい罰で文句をまだお前は言うのか?」


「解りました、謹んで罰を受けます」


◆◆◆


『時間』を与えてしまった事がどれ程不味かったか。


それを300年後創造神やイシュタスは思い知る事になる。










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