第74話 常世の国



「フルール、商人の動きはどうだ」


「この街、いえこの国の商人、商会から露店迄、ほぼ全員が入信しましたわ」


そりゃそうだ。


日本にしたら月給150万円 年棒年収1800万円の集団顧客を見逃すわけにいかないよな。


しかも、彼等はあぶく銭だから、湯水のようにお金を使うんだからな。


まさにバブルだ。


最早、この国にはスラムすら無い。


「貴族の方の動きはどうかな?」


「入信しないと権力があっても、上手く行かないので7割以上の者が入信しましたわ」


「あとの三割は『女神教絡み』か…まぁ良い、それで塔子、物価の方はどうなっている」


「かなり急激に上がっているわね。今迄は芋1個日本円で計算すると80円だったのに今では800円よ、約十倍にまでなっているわ…もう、信者か余程の金持ちじゃない限り生活は困難ね」


収入が増えれば、その分物の価値が高くなる。当然の事だ。


やがて金貨15枚(150万円)の価値が恐らく15万円~25万円の価値迄下がって落ち着くだろう。


「上手く行きそうだな『信者の高利貸しには特例で信者以外にも貸付して良い』と許可してみようか? 但し容赦なく取り立てる約束をしてだが、どう思う?」


「良いんじゃない。お金に困ったら、死ぬか入信するか決めるだろうし…」


「それじゃ、頼んだよ」


「解かったわ」



「あの…理人くん。確かに信者は増えたけど、この国の人、最低限しか働かなくなっちゃたけど良いの? 不味くない?」


余りに働かないから、信者には最低限働くようにふれを出した。


この最低限とは日本に近い、1日8時間で月20日間、まぁかなりホワイトだ。


教団の仕事をボランティアを含みしても良いし、元の仕事をしても構わない。


勿論、これ以上働いても文句はない。


何処の世界にも『より良い暮らし』が欲しい存在がいるから…案外頑張る存在も居る。


教団の仕事をしてもお金は出ない。


だが『私は教団の為に頑張っている』そういうステータスがあるのか、積極的に参加する者も多くいる。


最も7割以上が義務だけ果たして遊んでいる。


綾子はこの7割の事を言っている。


「今はそれで良いんだよ?」


「どうして不味くないかな?」


「大丈夫! 働かないで高収入なのは『この国の人だけ』だから」


この作戦のミソは此処にもある。


この国の人間はお金を持っている。


他の国から幾らでも買えるから困らない。


この国がお金持ちの国…それが知れたらどうなるか?


商人は此処に集まってくる。


普通に考えてそうだろう。


『ここに持ってくれば、高額で買って貰えるんだ』


芋1個800円で売っている国なんだぜ。


この国で商売したらもう芋1個80円の国で売りたいなんて思わないだろう。


今はこれで良い。


この国の人間がどれだけ堕落しようが『お金はある』だから、他から欲しい物は何でも手に入る。


『働かない』この問題は更に現状が広まった時に考えれば良い。


「確かにそうだね」


「だけど、かなり遠くない未来に、その問題に直面するから、今から少しずつ対策は練るけどね」


他の国で苦しんでいる者がこの国を見たらどう思うか?


来なくなる商人と物資…貧窮する人間。


今迄の信仰を捨てさえすれば幸せになれる国がある。


そして、そこに居るだけで幸せになれる国。


そう…ガンダ…違う、常世の国、常世の国だ。





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