第69話 祭主




帰りがけにフルールに話しをした。


「あのさぁ…フルールと2人きりも楽しいけど、あの2人が一緒ならもっと楽しいと思わないか?」


「そうですわね、私は2人きりが一番良いですが、4人だから楽しめる、そういう事もありますわね」


「そうだよな」


「私にとって命より大切な人は理人様ですわ。ですが命の次に大切な人となるとあの2人ですわね」


「そうだよな、悪いけどフルールは先に帰っていてくれるかな?」


「どうかされましたの?」


「無理元で、2人の事をテラス様に祈ってみたいんだ」


神に願掛けをする。



「それなら私も一緒に祈った方が良いのですわ」


「いや、今回はテラス様にとって嫌な願いをするから、俺一人の方が良いと思う」


「それなら仕方ありませんわね。少し寂しいですが先に戻っていますわ」


笑顔で去って行くフルールを見送りながら俺は近くの森へと向った。


◆◆◆


此の世界には神社は当然無い。


懐中式のミニ神社は作ったが…今回はお礼でなく『お願いだ』空気が良く自然がある場所の方が良いだろう。


今回の祈りは凄く気が重い。


今迄の祈りはほぼ感謝のみの祈りが多かった。


だが、今回は明らかに『お願い』だ。


良く『神頼み』なんていうが、本来はしちゃいけない事だ。


神とは感謝をささげるものであり、願うものではない。


良く爺ちゃんに言われていた。


神主の家系の俺がそんな事…本来はすべきではない。


だが、今回だけは仕方が無い。


森の開けた所で祈りを捧げた。


『呼んだ~』


テラスちゃんが現れた。


この世界に日本人は俺1人(フルールは微妙)なので簡単に顕現してくれる。


神が現れてくれる事じたいが本当は奇跡なんだ。


そこから『願う』なんて本当は無礼な話だ。


『今回は..』


『僕は神だよ...言わなくても理人が思っている事位解かる…あの2匹の犬の事ね』


犬…やはり辛辣だな。


俺の返事を待たずにテラスちゃんは話しを続けた。


『あの2人は好きか嫌いなら『大嫌い』だよ…人間で言うなら犬嫌いなお母さんが、可愛くも無い犬を飼いたいと可愛い息子が言うから仕方なく飼育を許可している。それに近い感覚だからね』


テラスちゃんからしたらそうだろう。


更に綾子も塔子もこの世界の女神から貰ったジョブは良い物だ。


当たり前だ。


だが、ここで引き下がる訳にはいかない。


『何か許して貰える手は無いでしょうか? 勿論、その為に犠牲が必要なら、払える物なら払いますから』


『そこ迄言うなら、方法は無く無いわ。僕は貴方が本当に可愛い。代々僕に仕えていてくれた一族だからね。 だから無条件で助けたんだよ。 理人とフルールだけなら、このまま面白可笑しく生きる事も出来るんだ。あの2人を『日本人』にしたいの、それは苦難の道になるよ』


『それでも俺はその道を選びたい』


『覚悟があるなら良いよ、理人がこの世界で僕の『祭主』になれば良いだけだよ』


『祭主、俺がですか?』


祭主…本来神社のトップは宮司だ、だがその上に大宮司が居てその上に『祭主』が居る。


だが、その地位は皇族や華族しかつけない。


良く俺は爺ちゃんの事を神主と呼ぶが…本来は宮司、神社のトップだ。


神代一族は代々宮司の一族…だが流石に大宮司や祭主にはなっていない。


つまり…テラスちゃんはこの世界で俺に『神職の頂点になれ』そう言っている。


『祖父でさえ宮司なのに俺が祭主で良いのでしょうか?』


『別に構わないよ…この世界には氏子はフルール1人しか居ないから、一からいやゼロから始めるんだから、構わないよ。だけど、これは完全に『女神』を敵に回す事になるよ。それで良いなら、2人を許してあげるよ』


これ以上名誉な事は無い。


だが、これは場合によってはこの世界を敵に回す事がほぼ確定する。


『俺にとってこれ以上の名誉は無いです。 ですが他の皆に聞いてみないと…』


『それなら決定だね、だって理人が命より大事で私に感謝を捧げるフルールが断るわけ無いよね。それに人は理人に全部捧げているんだから...断るわけないじゃない』


言われて見れば確かにそうだ。


『その通りですね』


『では、理人は今から『祭主』フルールが『大宮司』塔子と綾子が『宮司』と言う事で良いよね。流石に直ぐに行動しろとまで言わないよ。理人はもう『祭主』だから、他の三人には理人を介してその地位を授けると良いよ。 まぁ教化していくのはまだ先で良いや…だけどこれで『女神イシュタル』は明確に敵、それだけは心に刻みんでね。そしてそれを信じる者は邪宗を信じる者だから敵だからね。理人、貴方の敵は元からだけど魔族じゃない、魔物でも無い。

『女神イシュタル』とそれから加護を貰った異世界転移者と女神信者だからね』


元からそうだ。


そう考えたら、腹を括るかどうかそれだけの事だ。


『解りました。ですが『戦う』だけでなく『教化』して氏子にする。そういう戦い方をしても構わないのでしょうか?』


『それでも良いよ…まだ、行動を起こすのは早いから今暫くは今のままで構わない。だが時が来た時は『必ず行動を起こすんだ』』


『解りました…無理なお願いをきいて頂き有難うございます』


『良いよ、理人は特別な子だからね、神代一族の理人がこの世界に転移した。それは大いなる運命だったのかも知れないね。それでは頑張ってね』


『はい』


テラスちゃんは消える様に去っていった。


俺は体が痛くなり…暫く動けなくなった。



※私は神道は余り詳しくないので、突っ込みは許して頂けると助かります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る