第68話 第3部スタート  ヤキモチ




「あやしい」


「本当にあやしいですね」


最近、私と綾子とフルールで話し合いまして理人を独占できる日を作ったのよ。


簡単に言えば『まる一日理人を独占してデート出来る日』の事ですね。


勿論、理人は皆と平等にデートしてくれるんだけど。


「本当に可笑しいよね!なんでフルールのデートの時だけあんなに嬉しそうなのかな? あの笑顔って、塔子ちゃんやフルールが来る前は、私に良く見せてくれた笑顔だよ」


「そうよね、勿論、私に向ける笑顔とも何だか違う気がします」


昔から『理人』ばかり見ていたから解るのよ。


フルールと出掛けた時の笑顔が100だとすると私や綾子と出掛けた時の笑顔は80位しかない。


普通の人じゃ区別はつかないかも知らないけど、私や綾子は重度の理人マニアだからその違いは良く解るの。


一体何が違うと言うの?


理人とデートの日には気合を入れておめかしして、私も綾子も、理人が喜ぶ様な場所を探して頑張っているの。


それなのに、全力で喜んでくれてない気がする。


理人。


『同じなら仕方ない』


此処は異世界だから、フルールも綾子も必要な存在だから。


『私だけを好きになって』というのは虫が良すぎるのも解かる。


だけど…


お願いだから…


同じにして欲しい…な。


◆◆◆


「それで塔子ちゃん、これからどうするの?」


「それを考える為にお茶しているんでしょう? まぁ夕方まで2人は帰ってこないから、対策を考えないと不味いわよ」


「普通に同じに時間は貰っているから、文句は言えないよね!」


「確かに、ただ『フルールの時の方が楽しそう』ってだけで、文句なんて言えるわけないわ、だけど少しだけ解かった気がするの」


「塔子ちゃん、何か解かったの?」


「まぁね!ほら、フルールって地元民じゃない?だから良いお店とかに凄く詳しいんじゃない?」


「確かにそうだよね? 失敗したかも。私、エスコートとか全くしてなかったよ。だって理人君と一緒に歩いているだけで楽しいんだもん」


「私だって一緒よ? 大体私達って、その周りの人が居ないとその力は発揮できないのよ」


「塔子ちゃん、それどういう意味?」


「そうね、例えば、前の世界ならこんな場合『完璧なデートコース』を使用人に考えさせて、3つ星レストランを予約させれば、済んだのよ。だけど此処じゃ出来ない。私も理人と一緒に居られるだけで嬉しいし、幸せだからつい『理人の好きな所で良い』そう言っちゃっていたけど、これってエスコートを放棄した。そういう事じゃない?」


「確かにそうかもね。うん、私も色々丸投げしてたよ。そうかぁ~ 油断した。確かに折角デートまで漕ぎつけたのに、気がついたら手抜きデートになっていたなんて、そんな」


そうなのよね。


私も綾子もお嬢様だから『自分で何かするのは苦手』なのよ。


それに対してフルールは何でも自分で出来る。


それにこの世界出身だから、きっとお洒落なお店とかも詳しいんでしょうね。


普通に考えたら、勝ち目は無いわね。


「綾子、こうしちゃいられないわ!お店の情報とか調べないと」


「だけど塔子ちゃん、暫くしたらもうこの街を離れるから意味無いよ」


「そうね…」


次の街から、頑張るしかないか…


◆◆◆


「理人様、これ美味しいですわね」


「確かに、これは美味いよな。だけど良くコーラが飲めるな」


今日のデートはフルールの順番だ。


だから、2人で『日本』が堪能できる。


今日は朝からドルマで ハンバーガーセットを食べている。


綾子や塔子に悪いと思いながらも、ポテトとコーラとWバーガーはとても美味しく感じる。


やはり俺は日本人、日本の食べ物が一番だ。


特にジャンクフードは止められない。


「一瞬、毒かと思いましたが、これは病みつきになりますわね。本当に理人様の世界は凄いですわ」


今日はこの後、遊園地に行こうと思っている。


ただ、これはまだいけるかどうか確証がない。


だけど、何となくいける様な気がした。


その30分後、ネズミの帽子を被ってまるで子供の様にはしゃぎまわるフルールが俺の横に居た。


遊園地デート。


こんなのは幾ら異世界で頑張っても無理だろうな。


技術もそうだが、これを作る金額は恐らく王ですら出せない。


日本、いや地球じゃなくちゃ無理だな。


「しかし、凄いですわね!理人様の世界ってこんなにもキラキラ輝いていてまるで夢のようですわ」


そういうフルールは口にクレープのクリームをつけていてまるで子供のようだ。


しかしテラスちゃんのご利益は凄い。


俺は、はしゃぐフルールに『遊園地に連れていってあげたい』そう思っただけで、路地を曲がったら遊園地だった。


入場料はまぁ、元の世界の金額に相当するから意外と高い。


まぁ、稼いでいるから問題は無い。


フルールが夢のようだ。


そう言うのは解かる。


だってこの遊園地の名前は『ネズミ―ランド』世界で一番金持ちのネズミが持っているという設定の夢の国なんだから。


しかも、本当の世界なら並ばなくちゃ乗れないのに、此処には俺達しか居ない。


貸し切り状態だ。


これで楽しくない訳がない。


「理人様、あれなんですの?」


「ジェットコースターだな…乗りたいのか?」


「乗りたいのですわ」


途中何回も回転する結構なマシーンだけだ大丈夫かな…まぁ良いや。


「へんな物つけますのね」


「まぁ落ちないようにな」


ジェットコースターが動き出した。


フルールは驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔になった。


凄く可愛いな。


「きゃぁぁぁぁぁーーー凄いのですわ、こんな速さ飛竜だってだせないのですわーーーっ」


フルールがやたら可愛く見える理由が解った。


何時もの作り物の様な笑い顔じゃないからだ。


俺は傍にいてどうして、気がつかなかったのだろう?


小さい頃から、ただ暗殺や拷問、それだけしかして来なかったフルールと俺や塔子や綾子じゃ大きな違いがあったんだ。


フルールはきっと心から何かを楽しんだりした事は、その人生で無かった筈だ。


普通に考えたらそうだよな。


この間のコンビニの時からそうだった。


あの時から、フルールは『本当の意味で笑う様になった』気がする。


元から凄い美少女だったけど、今のフルールはそれに、何とも言えない『可愛らしさ』が加わった気がする。


つい俺が見惚れる位に…


「あっ、もう終わりですの?理人様、私を見つめてどうかなさいました?」


「いや、可愛いなと思ってな…」


「そう言って頂けると凄く嬉しいですわ」


ネズミの帽子を被って首からポップコーンが入った容器をぶら下げている。


こんなフルールを見たらきっと黒騎士は驚くだろうな。


自惚れじゃないけど、こんなフルールはきっと俺しか見たことが無い筈だ。


「それじゃ、次は何に乗ろうか?」


「そうですわね…あれが良いですわ」


「観覧車か、それじゃ早速乗ってみようか?」


自然と俺はフルールの手を取っていた。


多分、俺も今が凄く楽しい。


よく考えて見たら、やたら神社の修行や手伝いをさせられていたから、こんな風に遊園地に来た思い出なんて無い。


多分今しているのは俺が日本でしたかったデートだ。


自分では平気に俺に腕を絡めて来るくせに手を握ったら、フルールの顔が赤くなった。


そのまま観覧車に乗り、2人で景色を楽しんだ。


可笑しな事に観覧車から見える景色はこの世界の物じゃなくて日本の物だった。


「この見える景色が理人様の居た世界の景色なのですね。あれは何ですの?」


「ビルだな、結構高い建物だろう?」


「凄いですわ、王城が小さく見えますわね」


「そうだな」


「あれは、なんですの?」


「車、まぁ馬が居なくても動く馬車みたいな物だよ」


「凄いですわ」


恋人同士と言うより親子みたいだな。


凄く嬉しそうに俺に聞いてくる。


『楽しいに決まっている』よな。


もっと早く気がついてあげるべきだったんだ。


フルールには『楽しい思い出』すらも無かった事に…


その後も、お化け屋敷に、室内ジェットコースター、と色々回った。


そして、いま『小人の国』というアトラクションを楽しんでいる。


「理人様、今日は本当にありがとうですわ」


「どう致しまして」


「私、黒薔薇でしたから『利用されるか利用する』そんな付き合いしか知れませんでしたわ。それは家族でも同じでしたわ。よく子供は無条件で可愛い。命より恋人が大切。そう言いますが、そんなのはあり得ない。そう思っていましたの」


確かのフルールの環境ならそうだろうな。


「それは仕方ないと思う」


「嘘をつきたくないから言いますわ。 私は汚れの仕事を沢山してきましたわ。ですから沢山の家族や恋人同士、夫婦『お互いが愛し合っている』そういう人物を拷問にかけて来ましたわ。ですが誰1人本当に相手を愛している者には出会えませんでしたわ。 最初は「愛している!妻や子供を助けてくれるなら喜んで死ぬ」そういう人物もいましたが、鞭を打ち込み、片目を焼いただけで「俺を助けてくれ、妻や子供はどうなっても良い」そう変わってしまいましたわ。だからこそ私は『真実の愛』なんて無い、そう思っていましたの」


「そうだな、人間の多くは最後には『やっぱり自分』そう思うだろうな」


「ですが、それが違うと解りましたの。多分私は理人様の為なら笑って死ねる。そう思えますわ。まさか、絶対に無いと思っていた『真実の愛』に自分が陥るなんて思っていませんでしたわ」


フルールにとって多分楽しい事なんて殆ど無かったのだろう。


「フルール『真実の愛』なんて凄い物を安売りしちゃ駄目だよ」


「そんな、本心ですわ。私は本当に…」


「だ~め。だってこれからもこの楽しい人生は続くんだ。いやそれ以上に沢山楽しい事をしながら沢山過ごすんだ。こんなもんで払っちゃ駄目だよ」


「そうなのですか? それなら私は一体幾つ『命』を払わなくちゃいけないのでしょう?100個でも足りないかも知れないのですわね」


「フルールが楽しんでくれると俺も楽しい。だから貸し借りみたいな事を考えずにただ、仲間同士仲良く楽しく暮らせるように皆努力する。それだけで良いんじゃないか?」


「そうですわね。ですがそこは『フルールと2人で』の方がロマンチックですわね」


「そうだ、ごめん」


「冗談なのですわ。ですが理人様は『私にとって唯一の太陽』なのですわ…それじゃ二人がやきもきしてそうですから帰りますか」


「そうだな、何処かの屋台で何かお土産でも買って帰るか」


「そうですわね」


心が少しチクッとした気がした。


俺やフルールはこんなに楽しいのに、綾子や塔子はこの楽しさをもう味わえない。


俺もフルールもケーキやクレープを食べているのに二人にはあげられない。


これからお土産で買って帰る物は、美味いと評判だが俺から言わせると不味いドーナッツに冷えてない果実水だ。


全然違う…


これを聞くと多分テラスちゃんは不機嫌になりそうだ。


だけど…腹を括って聞いてみよう。


どうしたら2人を『日本人』に戻せるか。


もし来られるなら、この場所に今度は4人で来たい。


あるかどうかも解らないが『もう訊かない』という選択は無いな。





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