第44話 緑川さんの仲間



俺は神代の言う事が今になって解かった。


『緑川さん』その意味をもっと深く考えるべきだったんだ。


沢山の生徒の中に教師が一人。


沢山の少年少女の中に大人が一人。


果たして本当の仲間に成れるのだろうか?


成れるわけが無い。


生徒同士が3人から8人でパーティを組んでいくなか私だけが組めない。


国王に相談しても無駄だった。


マリン王女の話では…


「異世界の方の討伐に騎士等が同行する事は基本ありません。今回の演習もそれぞれの目的地までは同行しますが戦闘には参加しません。ただ危ない目に逢うようであれば助けにお入りますがそれだけです」


「私は組む相手が居ないのですが」


「それは貴方がこの3週間を無駄にしていたからではないでしょうか? 貴方の生徒は組む相手を見つけ仮のパーティを組んでいます。理人殿はパーティプラス奴隷まで引き入れてしっかり先を見据えて行動していますよね。貴方は組む相手が居ないと言う事であれば王都見学の際に『奴隷商』に行き奴隷を購入するか『武器を購入して整える』等対策を練るべきでした」


「そんな..」


「貴方は年長者でしょう! ですがこのままでは明日からの演習に差し支えます。特別に今日一日、自由な時間を与えますから、自分で考え対策して下さい」


確かに生徒と私は同じ待遇を受けている。


私だけ特別扱いされる訳にはいかない。


マリン王女の話で考えるなら『奴隷』『武器』その二択だが…これでも私は聖職者だ。


背に腹は代えられないとはいえ生徒の手前、今は奴隷は買えないな。


そうすると武器になるのか…



◆◆◆


「それなら、冒険者組合に行ってパーティ募集をすれば良いのですわ」


俺は緑川さんから相談を受けた。


流石に担任を仲間にはしたくないが、元は担任なのだから相談位は乗ってもよいだろう。


話しを聞くなりフルールは、そんな簡単な事も解らないのかと言わんばかりに口をだしてきた。


確かに俺もそう思う。


「緑川さん『だそうです』」


「そんな簡単に行くだろうか?」


「多分、簡単に仲間は見つかると思いますよ」


「私もそう思うけど?」


「私も、そう思います」


「そんな他人事だと思って、簡単に言わないでくれ」



「俺は兎も角、他のクラスメイトや緑川さんは『優秀な異世界人』だ。元生徒があれ程人気があるのを見ただろう? 緑川さんは来なかったが『奴隷商』では本格的に活動すれば3か月で高級奴隷が買える位稼げるそうだよ」


「神代君、何が言いたいんだ」


神代君。


解っているな。


「冒険者の中には、その日暮らしの生活をしている者も多い。そんな中に『優秀で確実に強くなる存在』が仲間募集したらどうなる?誰もが組みたいと思うんじゃないか?」


「そうですよ、先生『即戦力のエリート営業マン』が仲間が欲しいと言う様なものよ」


「そうですね、沢山の方が集まると思いますよ」


「私は冒険者として活動した事もありますわ。直ぐに仲間が集まる事間違いありませんわ」


「そうか、なら行ってみるか?」


「緑川さん、行くなら直ぐに行かないと、時間が勿体ないよ」


「アドバイスありがとう、すぐに行ってくる」


そう言うと緑川さんは走って去っていった。


◆◆◆


「それでフルール、緑川さんは大丈夫かな」


「今は大丈夫ですわね」


「今は…どういう事かしら?」


「その話だと、将来的には不味い様に聞こえますよ」


確かに俺にも同じ様に聞こえた。


「そうですわね、理人様が言ったとおりですわ。その日暮らししている様な冒険者は直ぐに飛びつきますわね。ですが、自分に自信のある冒険者はもう強いパーティを組んでいますから仲間になりませんわ。恐らく仲間に出来るのは運が良くてC級クラス、運が悪ければD級F級クラス、すぐに役に立たなくなりますわ」


「だが、それならついて来れなくなればパーティを解散すれば良いんじゃないか」


「あの方は、元教師ですわね。多分ですが、泣いて縋る人間を斬り捨てられないと思いますわ。なりふり構わず『好き』『愛している』そう言って体まで使ってくる女性を斬り捨てられないタイプに見えますわ」


「緑川がそんなにモテる訳ないよ」


「おじさんですよ」


「甘いのですわ。塔子様に綾子様。冒険者の女性で貧しい者は本当に貧しいのです。お金が手に入らず、ご飯すら真面に食べられず、宿屋に泊まるお金もない。しかも実力が無いから何時死んでも可笑しくないし、場合によってはゴブリンやオークの苗床にされるかもしれない。 そんな生活が今もこれからも続く。そんな人間の前に『高額収入確定で敵から守ってくれる存在が仲間を募集するのですわ』群がると思いますわ。まぁ『物凄い美少女が真っ裸で娼婦街で歩きながら無料でやらしてあげるよと叫んでいる状態』それに近い状態ですわね」


「冗談だよな」


「冗談ではないのですわ。私は理人様命ですから関係ありませんが『異世界人は精子』まで価値があるのですわ。異世界人との間の子は皆優秀ですから、異世界人(元日本人)の種付けは金貨並みに価値があるのですわ。まぁ理人様は別ですが。 強くて、お金が稼げて、更に夜のお相手をすれば将来優秀な子が生まれて生活が楽になる。そんな相手逃がしませんわ」


「確かに俺以外のクラスメイトはメイドさんにモテていた気がするな」


「本来は金貨を使わなくては手に入らない『異世界人との種付け』が無料なのです。一生懸命誘惑しますわね」


「それなら、なんで緑川さんはモテなかったんだ」


「まぁ、1人浮いていましたし、若い子が沢山居たからかも知れませんわ」


「そんな状況に緑川先生1人で行かせて良かったの?」


「大丈夫かな」


「所詮は他人ですわ。理人様の知り合いだからヒントだけ差し上げましたわ。これ以上は自己責任の世界ですわね。まぁ、私だったら違う方法を選びますわ」


「フルール他にも何か方法があったのか?」


「私が同じ立場だったら、女騎士を狙いますわ。素性はしっかりしていますし、裏切る可能性も低く安心ですわね。騎士爵とはいえ貴族ですし実力以外でも役に立ちますわ」


言われて見ればそうだ。


「それを何で緑川先生に教えなかったの?」


「教えてあげても良かったんじゃないかな」


「私『最善の手』は身内にしか教えないのですわ」



夕方になり帰ってきた緑川さんが連れていたのは女性3人だった。


満面の笑みで歩いている緑川さんを見て...ご愁傷様と思ってしまうのは何故だろうか。






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