第43話 幸せ異世界人

いよいよ明日から演習が始まる。


これが終わったら3日間の休みの後旅立ち、後は誰かが魔王を討伐するか、招集が掛かるまでもう城に戻る事は無い。


俺はこの演習が憂鬱でしょうがない。


『俺だけ魔族には襲われない』この状況は凄く不味くないか?


テラスちゃんに祈り聞いてみるしかないな。


そう簡単に都合よく、神託など降りくる訳はないよな。


『なにかようかな?』


こう簡単に神託が降りてきて良い物だろうか?


俺は魔族や魔物について心配な事、演習中どうすれば良いのか?


テラスちゃんにアドバイスを求めた。


『それなら多分平気だよ、思う存分狩っちゃえ!』


『平気なのですか?』


『よく僕の言葉を思い出して『知能の低い存在は言う事を理解できないから戦うしかないし狩っても問題無い』そういった筈だよ。演習でいくのなら恐らく簡単に倒せる、知能の低い魔物だから問題は無いと思うよ』


確かにそう聞いた。


『確かにそうですね』


『だから理人は安心して魔物を狩って大丈夫だよ...あと理人の力の紐づけはこの世界の神じゃ無くて僕だからね、実は面白い裏技が使えるんだ。言うかどうか迷っていたけど、教えてあげるね』


何だかテラスちゃんが一瞬悪い顔をした気がした


『それはどういう裏技ですか?』


『人間を狩るんだよ! 理人限定の裏技だけど、此の世界の人間は僕にとって『邪教徒』だから、此の世界で幾ら善人な人間でも、私の子である理人からしたら敵になるんだ。だから、狩って良い相手なんだよね。この世界の人間は誰を殺しても経験値になるよ、更に言うなら『元地球人』も理人にとっては最高の獲物になるんだ。信仰を捨てて邪教に乗り換えた人間。僕にとっては神敵とも言える存在だからね。しかも経験値は凄く高いよ。まぁこれを知ってどうするかは理人が判断してよいからね。狩るも狩らぬも自由だよ。ただこの世界の人間に限り、善良な人間も含んでどれだけ、大量虐殺をしても僕的には罪に問わないから安心して良いからね』


そうか、テラスちゃんからしたら、この世界はこんな感じなのか。


『凄い話ですね…まるで『異教徒』を狩れば強く成れる。そんな話に聞こえます』


『あながち間違いじゃ無いよ?この世界に僕の子は理人1人、それ以外はどうでも良い人間か敵だからね』


流石に『善良な人間』は殺したくない、但し『悪人限定』なら容赦する必要は無いのかも知れない。


そういう事で良いのか。


『確かにテラスちゃんからしたらそうですね』』


『まぁ、そういう能力に特化しているだけで、話した通り自由に生きて良いからね』


『異教徒狩り』か実際に生活をし始めてから考えて見るのも良いかも知れないな。


◆◆フルールSIDE◆◆


しかし、マリン王女にも困った物ですわ。


あれから私を見る度に震えていますし「好きにして良いです」としか言わなくなってしまいました。


王女と奴隷なのにこれじゃ可笑しすぎますわ。


まぁ、もうじき此処もお別れなので別に良いですけど。



◆◆奴隷購入予定組SIDE◆◆


「しかし理人が一番乗りで奴隷を買うなんて思わなかったな」


「まぁ仕方ないんじゃないか? 理人は『無能』だからモテないらしいからな」


「いや、理人君は『無能』でもモテるでしょう」


「確かに、派手さは無いけど結構なイケメンだからな一般人にはモテるかもな、俺が『無能』だったら絶望的で自殺を考えるよ」


「まぁ、金貨30枚あれば買える様なハーレムだし羨ましいのはいまだけさ。俺が欲しいハーレムを作るとしたら奴隷商で見た感じだと金貨400枚(約4000万)はかかるんだよ。半年から1年掛かるけど、頑張るつもりだ」


「私もそうよ、イケメンエルフは金貨100枚以上なんだもん! だけど人族なら金貨10枚(約100万)も居るじゃない?妥協するか? それとも初志貫徹か本当に悩むわ~」


「だけど、幾ら綺麗な女奴隷を買っても、10年~20年経ったらもう、家のおばさんに近い状態になるんだぜ。奴隷商の親父が言っていたじゃない?『将来を考えたらエルフが良いって』」


「買えないなら、解るけど奴隷商の店主曰く『異世界の方なら早い方なら3か月、大体1年以内で理想の奴隷を買われている様です』と言うから余計に迷うな」


「3か月の我慢かぁ~そう考えると、今回の演習は『仲間』を探さないとな」


「まぁ、その後も相性が良ければ、ある程度の期間は一緒のパーティで過ごすのも良いんじゃないか。本当のパートナーを購入するまでのあくまで繋ぎと考えれば良いんじゃないか?」


「そうだね、それが良さそうだ」


◆◆喰っていたメイド達SIDE◆◆


「そう言えば、ルノールはもう妊娠出来たの?」


「バッチリですよ、お使いの時に検査したら出来ていました。毎晩押しかけて、淫らに毎日やっていましたから」


「そう良かったわね、それで隅田様との関係はどうするの?」


「今日お暇を貰いましたから、このまま手紙だけ置いて去るつもりですよ。お腹が大きくなる前に故郷に帰りたいですから」


「ルノールはあたりだよね。これで旦那と一緒にその子を育てれば一生安泰だね」


「この子は未来の騎士かA級冒険者ですからね」


「私は駄目かな、あと1週間最後の望みに賭けるわ」


「私も妊娠は出来たけど、魔法使いの鈴木様ですから」


「それでも将来は『魔法が使える』のが確定だからあたりじゃない! 良いなぁ~」



私はサマンサ、いよいよ、あと少しで異世界人たちとお別れの時が来ました。


もう既にほぼ明暗は別れています。


無事妊娠出来た者は『もう出ていく準備』に入っていますし、逆にまだ、妊娠していない者は最後のチャンスに賭けて焦っています。


私は『どうにか勝ち組に』にはなれました。


後は、故郷に帰って旦那と共に『真実を隠して』この子を大切に育てていくだけで幸せになれるのですから。


だってこの子は『異世界人の血を引く優秀な子』なんですからね。



◆◆喰われた者SIDE◆◆


「ルノールが居なくなってしまった。あんなに愛し合っていたのになんで…」


「ルノールを責めないであげて下さい。 この国の農村部は貧しく、人手を必要としているのです」


「だったら僕が」


「いけません。貴方は魔族と戦う大切な任務があるのです。只のお針子のスキルしか持たないルノールがついていけると思いますか? 隅田様の事を思って身を引いたのです。解ってあげて下さい」


「そんな…僕は」


「私で良ければ、ルノールの代わりにお慰めいたしますから、そんな悲しそうな顔はしないで」


「ありがとう…」


「もう泣かないで下さい(最後のチャンス逃してなるものですか)」


さようならルノール僕は君の事を忘れないよ。


◆◆◆


「さようなら」


「いきなり、さようならなんて、サマンサ、俺は君を愛しているんだ」


「私も皆川様を愛し、お慕いしていました」


「それなら何故だ、俺は絶対にサマンサを幸せにする..だから」


「それは駄目です! 皆川様はこの世界を救う大切な方、いずれ英雄になられる方です。それが私みたいなメイドに現を抜かしてはいけません」


「だけど俺は」


「貴方は異世界人、未来の英雄です。やがて伝説に語られる方なのです。それがこんなメイドに気をとられてどうするのです」


「だが、俺は」


サマンサと一緒に暮らしたい。


「私は楽しい夢をみさせて頂きました」


「夢」


「はい、世界を救う英雄の初めての女になれたのですから、この夢だけで幸せです」


「そんな」


「良いですか! 貴方は旅の先々で沢山の女性と出会います。きっと、その中には私なんか比べられない程の美女がいます...だからもう私の事は忘れてください」


「どうしても無理なんだね」


俺はこんなに人に愛されたことが無い。




「はい…だけど、私は皆川様の事は生涯忘れません。楽しい夢を有難うございました。英雄が一時とはいえ私を愛してくれた。それを胸に生きていきます…さようなら…うっううっ」


「泣かないでサマンサ」


別れる…そんな未来しかないのか。


◆◆


「鈴川様…私待っていてもいいですか?」


「ミルカ、君は僕を待っていてくれるのか?」


「はい《どうせ、迎いになんて来ないわよね、だって異世界人はモテるんだから》」


「僕、頑張るよ。仲間と一緒に戦って世界を救ったら必ず迎えにいくからね」


「待ってます! 鈴川様!《絶対に帰って来ないんだから無駄に嫌われる必要はないよね、此処で別れたらもう会う事は無いし、すぐに他の女の物になるんでしょうから。もし本当に迎えに来ても『寂しかった』でどうにかなるでしょう》」


「必ず迎えに行く…待っててくれ」


「はい」


『異世界人』目当てで城に居た若いメイドの半数以上が城を離れていった。


そして残ったメイド達は最後の望みをかけて異世界人を誘惑していく。



◆◆◆王とマリンSIDE◆◆◆


「貴族との婚姻が決まった女の異世界人は10名か」


「はいお父様…それで」


「解っておる『異世界人特権の廃棄』を望んでいる…そういう事だな」


「はい、おっしゃる通りです」


馬鹿な奴らだ、自らの特権を手放すとは。


まぁいつもの事だ。


当人の意思で誑し込まれたのだ。仕方ないな。


◆◆王の考え◆◆


「僕は君が危ない目に逢うのが怖くて心配なんだ」


「ですが、私は異世界人です。戦わないといけないのではないですか?」


「確かにそうだけど、魔族に負けて君が死んだら…僕は生きていけない」


嘘でしょう?


そんなに危ないの?


私、死ぬかも知れないの。


「そんなに危ないのですか?」


「ああっ、前に魔族と戦かった時に騎士団2000名以上が死んだ」


「そんな、ですが私には強力なジョブやスキルが」


「騎士の中には上位騎士もいたし、異世界人は確かに強いけど死なない保証はないよ」


「そんな、私はどうしたら良いの」


「僕が守るよ」


「アランド様が」


「例え王を敵に回しても僕が守る、『異世界人の特権を手放して』貴族として僕と結婚してくれないか?」


「本当に? 本当に私で良いの」


「ああ、勿論だとも」



◆◆考え終わり◆◆


どうせ、こんな感じに誑かされたに決まっておる。


大体、お見合いを設置している以上余やマリンは反対などしない。


まぁ『お金は徴収する』がな。


しかし、異世界人は異性に弱い者ばかりじゃ。


「女として、これから家畜の様な人生を送るかと思うと同情します」


「当人が喜んでいるのだ仕方なかろう」


「私には苗床人生なんて出来ません、まぁ当人が選ぶのだから仕方ありませんね」


これから、彼等がどうなるのか?


毎日、毎日沢山の男に抱かれる人生が待っておる。


最初は婚約した貴族。


次にはその子家の貴族等から顔が整った者を選抜して抱かれる。


しかも、彼等の多くは『たらし』所謂女扱いが上手い見た目麗しい少年や青年が多い。


毎日『愛を囁かれ』沢山の男に犯されながら生きていく、それだけの人生。


それはまるで、ゴブリンの苗床の様な人生だな。


ただ、相手が美形な男性で自ら股を開いている、それだけの違いだ。。


少ない者で5名、多い者になると70名以上もの子供を作らせられる。


異世人の子供は優秀だ。


沢山欲しいという貴族の気持ちも解かる。


莫大な金額を国に払い『異世界人特権の廃棄』を願い出るのだから元をとりたいと思うのは当たり前だ。


暇さえあれば男に抱かれる毎日なのに。


『此処は乙女ゲーの世界で私がヒロインだったなんて』


『嘘、まさか私が主人公で恋愛ゲームだったの』


そんな事を言いながら男相手に腰を振る生活が『最高の生活』なんだというのだから信じられぬ。


余には家畜にしか見えぬのだが…幸せだというならそれで良かろう。


「よい、マリン受理して置くように」


「はい」



こうして、それぞれの異世界人(元日本人)の将来が決まっていった。


リタイヤする者。


野望の為にパーティを組む者。


傷心で戦う事を決意しパーティを組む者。


それぞれの気持ちや思惑のなかで、演習が始まる。


そんな中でただ一人、困り果てている人間がいた。


生徒でないただ一人の人間。


緑川だ。





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