第40話 マリン王女と闇騎士



マリンから報告を受けた余は、今困り果てている。


まさか、あの状況からフルールが這い上がって来るとは余も思わなかった。


本当に、ルーラン公爵は詰めが甘くて使い者にならぬ。


『王族との婚姻の為の身辺整理がしたい』


その為に公爵家の暗部を司るフルールが邪魔だと言うから手を貸しでやったのにこの始末。


本当に使えぬ奴だ。


『何故殺さない』


折角地位を取り上げ、簡単に殺せる状態にまでしたのだ。


表向き殺す事は不味いが、普通は此処で『金を握らせて殺す』それが貴族では無いか?


公爵の癖に腹芸の一つも出来ぬのとは思わなんだ。


王家のフルールへの借りがフルールが死ぬ事で踏み倒せる。


その筈が、これで更に借りが増えてしまったではないか。


しかも『裏切った負い目』まで作ってしまった。


頭が痛い。


更に、マリンの調べではアマール国の王子が欲していたのは『黒薔薇』の力なのだから滑稽な話だ。



相手が王であるならいざ知らず、まだ王子しかも対立候補が2人も居れば…自分を守る為の存在に、相手を暗殺出来る存在が喉から手が出る程欲しいに決まっておる。


公爵だからと信頼し、計画も聞かなかったのがあだとなった。


フルールの刃がこちらに向かう前に懐柔するしか手は無い。


「マリン、フルールは理人殿に『自由貴族』の地位を与えて欲しい。そう言っておったのだな」


「はい、奴隷にまで落ちてもフルールはフルール。あの怖さ、交渉力はいささかも劣っておりませんでした。敵に回すとあれ程厄介な者はおりません」


「知っておる!余は先代黒薔薇を味方につける事で王位についた。黒薔薇の厄介さは身に染みる程解っておるわ。だが、伯爵以上となると新たに用意するのは難しい所だ」


「お父様、私に妙案があります」


この状況からどうするのか、余では何も思いつかないな。


「それでどんな案なのだ」


「はい、フルールはルーラン家の娘で『黒薔薇』という役目柄、実質的なナンバー2というのはかなり貴族に知られています。 本来ならルーラン公爵を殺すだけで良いですが、そうすると夫人と長男が異議申し立てをする可能性があります。表向きは、暫定的な当主は婦人、次期後継者は長男です。だから、公爵も含みこの3人を殺してしまえば、誰も文句なく自動的に公爵位はフルールの物です。その公爵位をこれから魔族の討伐に行くからという名目で『自由公爵』扱いにしてフルールの希望で主である理人殿に渡せば良いと思いますが如何でしょうか?」


「なかなか良い案だが、ちと無理は無いか」


我が娘ながらこういう謀略に掛けては天下一品じゃな。


だが、まだ若い。


何か見落としがあるかも知れぬ。


「本来なら問題はありますが、今回はフルール.ルーランが奴隷落ちしていました。そう考えたら『何者かの陰謀』そう見せる事も出来ます。それに与えるのは『爵位』です。フルールは領地の事は言っておりません。法衣貴族の公爵扱いで国から年金を出す代わりに領地を全部王の直轄地として召してしまえば大きな利益になります」


「確かにルーラン領は豊かな土地、それが手に入るなら良い話じゃな」


「そうです。それに今のルーランには『黒薔薇』も『黒騎士』も居ない。私の直轄の『闇騎士』数名で簡単に暗殺できます」


「魔族には全く歯が立たないが対人戦ならフルールの『黒騎士』を除けばマリンの『闇騎士』が遅れをとる事はまずないだろう」


「はい『黒騎士』が居ないのなら私の闇騎士こそが対人最強かも知れません」


「ならば、この件はマリンお前に任す事にする、頼んだぞ」


「はい」


◆◆◆


我らは闇騎士。


名前は名乗らない。


お互いはナンバーで呼ぶ。


若いナンバー程序列は上だ。


裏の仕事専門で普段は民衆に紛れている。


年棒金貨300枚(約3千万)これは通常の騎士爵の3倍にあたる。


我らの存在は姫様と王しか知らない。


汚れ仕事専門の『王族の持つ暗殺部隊』それが我ら闇騎士。


「しかし、我らナンバーズが行くだけの事ですか?」


ナンバーズとはその闇騎士の中でも戦闘力に優れた10名の事を言う。


俺はナンバー2だ。


ナンバー1は余程の事が無いと動かない。


「仕方ないだろう、姫様の命令なんですからね!」


「ナンバー3、今回は貴方を含んで闇騎士は9名。しかもナンバーズが3名も居る。黒騎士が居るなら兎も角、相手は只の騎士でしょう? 僕だけで充分だと思いますよ!」


「ナンバー9、最近ナンバーズに入ったばかりなのに貴方は生意気だわ。良い?姫様の命令は絶対、文句は無しよ」


「そうですね、スイマセンでした」


我ら闇騎士にとって今回は楽な任務の筈だった。


だが、違った。


ルーラン公爵家を見張っていたが人の気配が全くしない。


何かの罠があるのか、そう考え様子を見ていたが使用人すら殆ど見当たらない。


『これは可笑しすぎる』


屋敷から出てくる使用人に近づき話を聞いた。


「ルーラン様のお屋敷の方ですよね? あの屋敷には沢山の使用人が居たと思うのですが?何かあったのでしょうか?」


「貴方はどなたでしょうか?」


「私はライダと申します。昔父と母がルーラン公爵様に、大変お世話になった物ですから、気になりまして」


「そうかい、今はいかない方が良いよ! ルーラン様がね、王様を怒らせてしまってね。お咎めを受ける事になったんだ。それで使用人も咎められたら可哀想だと言い出して全員解雇なさったんだよ。自分の命すら危ないというのに、まるで別人さぁね。退職金に金貨まで下さって、あんなに良いご主人様だとは思わなかったよ」


可笑しい、俺達はルーラン公爵を暗殺する為の命令できた、王が怒っている。そんな話は何処からも聞いていない。


「そうですか、まだルーラン公爵様はいらっしゃるんですね」


「まだいますが、今は誰とも会わないと思いますよ」


「そうですか」


腑に落ちない。


何かが可笑しい。


だが、今屋敷に入るのは目立ちすぎる。


田舎とはいえ近くを誰が通るか解らない。


俺達は夜まで待って屋敷に忍び込んだ。


「いったい何がおきたのでしょうか? ナンバー2」


「解らないからこそ偵察を兼ねて忍び込むんだ」


「そうですね」


最初は警戒しながら歩いていたが、誰も居ないので警戒を解いた。


「しかし、誰も居ないな」


「その様ですね…」


やはり誰も居ない。


使用人は居なくても…公爵達は居る筈なのだが、何処からも声は聞こえてこない。


手分けして一部屋一部屋確認して進んでいった。


ナンバー11が俺の傍に走ってきた。


「何があったんだ」


「見て下さい」


ナンバー11について部屋に入ると其処には公爵夫婦と長男が天井からぶら下がっていた。


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