第39話 マリン王女とフルール



楽しかった王都見学が終わり、お城に帰ってきた。


しかし…凄かったな。


奴隷商の見学の時、他にも居るだろうとは思ってはいたが、あそこ迄沢山いるとは思わなかった。


そして、見学した者の中で購入したのは俺達だけだった。


金貨5枚の予算なら人族であれば買える存在も居たのに買わない。


異世界に来て、同級生は皆、面食いになったようだ。


普通に歩いているのに、騎士や貴族がこちらを見てくる。


今迄はこんなことは無かった。


その視線の先にはフルールが居る。


「ふっフルール様」


「何故、フルール様が此処に居るのですか?」


「色々ありまして、今のご主人様はこの理人様なのですわ!」


「「…」」


よく考えればフルールは元貴族顔見知りが居ても当たり前だな。


しかし、歩く度に注目を集めている。


凄いな。


「凄い人気者だな」


「そんな事ありませんわ! ただ騎士としても私が強いので、多少知られているだけですわ」


「令嬢なのに、フルールは騎士としても強いのか、凄いな…」


フルールはどう見ても華奢に見える。


綺麗なウェーブの金髪に、目の色は何とも深みのある青い目、ただ稀に緋色掛かって見える時がある。


前世で言うなら、ゴスロリを着たまるで人形の様な感じの美少女だ。


昔、野口くんが持っていた漫画で騎士と美少女が一緒に戦う漫画があった。


あれに近い。


この体じゃ大剣は振れない気がする。


どう戦えば騎士に勝てるのだろうか。


「何でもありなら上級騎士や聖騎士にも負けませんわね」


『何でもありなら』か。


確かにフルールらしいな。


「なんでもあり、それじゃフルールは武器は何を使うんだ」


「正式の戦いという意味なら細剣が得意ですわ。ですが、なんでもありなら、硫酸等の酸や、薬品を使った戦いが得意ですわね。まぁナイフに小剣、大剣以外は一通りは使えますわね。黒騎士を指揮するのですから『黒騎士に負ける黒薔薇は居ません』但し私は対人は得意ですが、対魔物は余り得意ではありませんわ」


確かに人相手の暗殺や拷問を得意としているフルールにしたら『魔物』は得意ではないと言うのは解かる気がするな。


「フルールって出来ない事が無い様な気がするのは気のせいですか」


「私も同じです」


二人の目が少し怖いのは気のせいか?


気のせいだと思いたい。


「そうでもないですわ、私にも不得手な事はありますわ」


「例えば、何があるの?」


「私も聞きたいな」


「あえて不利な事は見せない、それも処世術ですわ」


上手く躱したな。


自分の弱点を曝け出さない。


当たり前だ。


◆◆◆


お城での生活は異世界人限定だが、結構フランクな所が多い。


王様や王女様とすれ違っても会釈位で許される。


決して何処かの小説のようにひれ伏したりはしないで良いので楽だ。


フルールを伴い歩いていると王女マリンに出くわした。


道を開けようとしたが…


「貴方はフルール」


マリン王女がフルールを見るなり声を掛けてきた。


だが、顔が気のせいか青白く見える。


「お久しぶりですわ、姫様」


「…」


どうしたんだ?


マリン王女が目を逸らした。


「どうかされましたか? 別に親友で恩人の私を見捨てた事なんて恨んでいませんわ。今は素晴らしい『ご主人様』に恵まれましたからね」


「そう、恨んで無いのね! 良かったわ」


恨み?


どうやら、マリン王女とフルールの間には何かあるようだ。


「ええっ、今の私はご主人様の理人様が全てですわ! まぁ身分は奴隷ですが、凄くお慕いしておりますのよ」


「貴方が奴隷…」


「マリン王女、嘘はまるわかりですわ。情報通な貴方が知らない訳はありませんわよね? 『別に恨んではいませんわ』ですが、私は何度も貴方を助けてあげたのに、貴方は助けてくれませんでしたわね!次に貴方が困っても多分『黒薔薇』は何処にも咲かないと思いますわ!友達だと思ったのが間違いだったのかも知れませんわね。それだけの事ですわ」


「そんな私達はお友達じゃないですか」


「たしかにまだ『お友達』ですわ。 ですが私はマリン王女には貸しはあっても借りはありませんわ。私に貸しを作った方がお得だと思いませんか? 私は借りをしっかり返すのはご存じですわね」


「あの、フルール、私はどうすれば良いのでしょうか?」


可笑しいな、目の錯覚かマリン王女よりフルールの方が偉そうに見えるな。


「そうですね、えーと…そうですわ」


可愛らしい仕草でフルールは考え込んでいる。


だが、その口から出た物は凄い要求だった。


「この城から出る時に、理人様に『自由爵位』を下さいですわ」


マリン王女の顔が険しくなった。


「そんな、爵位ですら、そう簡単には与えられません! ですがお友達の貴方が言うなら特別に男爵位を差し上げます!どうかそれで…」


「檻の中って凄く窮屈なのですわ。自由も無く檻の中で排泄まで全部済ませ、犯罪奴隷だからスープも貰えず1日にカビだらけのパン1個だけの食事が1回、凄く辛かったのですわ。凄く辛かったのですわ…ルーラン家のこの仕打ち酷いと思いませんか。ですが、貴族を奴隷に落とすには『王印』が必要な筈ですわ。王族の誰かが印を押さなければ私は奴隷落ちしなかった筈ですわね。マリン王女、私その印を押した方を凄く恨んでおりますわ…この心をお友達のマリン王女はどうやって癒してくれるのかしら?」


「フルール、私は押してないわ…ですが、誰か王族が押したのは事実です。『自由爵位』の件お父様に伝えておきます」


いや、普通に考えてマリン王女か王しか押さないよな。


「そう、解りましたわ。私達の友情に罅が入らない事を祈りますわ」


「解かったから、そう怖い顔をしないで」


「怖くありませんわ。私お友達には優しいのですわ! その代り敵には容赦しないのですわ」


「絶対に、約束を取り付けます、だから…だから許して」


城の中に居る王女が何故、此処迄怯えるんだ。


深く考えるのは怖いからやめよう。


「ありがとう、姫様…それじゃ『伯爵』以上でお願いしますわ」


「は、伯爵以上…解かったわ…だから、そんな怖い目で見ないで」


「姫様…まだ友達だから安心して良いですわ」


これじゃどちらが王女か解らないな。



◆◆◆


お城での生活も余す事1週間となった。


最後に演習を行い、その後は支度金を貰って旅立つ事になる。


同級生とはそこでお別れだ。



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