第33話 VS 大賢者 聖人




「それで聖人殿の体の調子はどうなのだ!」


「それが日に日に衰弱していくばかりで手の施しようが御座いません」


一体何が起きているのだ。


何故、今回の勇者召喚はこうイレギュラーな事が起こるのだ。


勇者大樹は、体の不調を理由に一切訓練に参加せぬ。


剣聖大河は只の無能に負けて剣士としての人生は終わってしまった。


その状況で今度は『大賢者の聖人』が体調不良で訓練に参加していないと聞く。


この時点で、貴重な5職のうち『剣聖』は使い物にならなくなってしまった。


勇者大樹と大賢者の聖人、この二人の不調。


これも気になってならない。


只のサボりなら良いが、ヒーラーの話では、明かに聖人殿は体調を崩し決して仮病の類では無いという事だ。


『大変な事になった』


五大ジョブは女神に愛された職業。


伝承では病気に掛からないとある。


一般人なら5分と持たずに死ぬような火山の様な場所でも普通に活動できるし、万が一病に掛かっても信じられない程早く治る。


これは弱いとされる『弱体勇者』ですら色々な物に耐性があり、一般人以下になる事はまず無い。


それが普通に生活して体調不良等考えられぬ事だ。


「そうは言うが、明日はなにがあろうと、理人と戦って貰えねば困るのだ」


「今の状態じゃとても戦えるとは思えませんが」


「そんな事は解っておる。だがこちらにも面子がある。 試合は絶対にやって貰う。その代わり始まってすぐに降参して良いと言って置け…本当に今回の召喚はハズレだったわ」


「はっ、その様に伝えておきます」


これでもう無能の理人に媚びを売らねばならぬ。


仕方が無いのう。


◆◆◆


心臓が苦しくて体が熱い、恐らくはかなりの高熱を発している筈だ。


こんな状態なのに僕は、理人と試合をしなくてはいけないのか。


王や貴族も立ち会うと言うのだから断る事は出来ない。


体調の不調を伝えても…無理だった。


僕達は呪われているのか。


真面に歩けない状態の大河が僕の元に、倒れそうになりながらヨレヨレと歩いてきた。


「ハァハァどうかしたのですか?」


僕をあざ笑いに来たのか。


「棄権したほうが…良い」


なにを言っているんだ。


そんな事出来る訳ないだろう。


「出来るならそうしたいですよ。ですが、ハァハァ、出来ないんですよ! ただ直ぐに降参しても良いとは言われましたけどね」


「そうか! それなら悪い事は言わない! 開始と同時に土下座だ、躊躇するなよ」


僕を馬鹿にしているのか?


「馬鹿にしているのですか? 大河」


「違う、これでも俺はお前を友達だと思っているんだ…あいつの剣の踏み込みは速い、躊躇したら死ぬかも知れない…俺はお前に死んで欲しくは無い…だから忠告だ…」


あははははっ、馬鹿な奴だ。


真面に歩けない癖に僕に忠告だって。


『真面に歩けない』のに、ここ迄きたのか…


「大河、忠告ありがとう…」


驚いた顔で大河が見ていたが、僕は知らない。


幾ら僕が性格が悪くても、心から心配してくれる者を無碍になんてしない。



◆◆◆


とうとう聖人との試合の日が来た。


魔法の専門職と初めての戦いだ。


綾子からアドバイスを貰った。


「詠唱に時間が掛かるから一挙に攻めた方が良いと思います」


確かにそれが正しい対処だ。


魔法を使われる前に一挙に攻めて倒す。


普通ならそれしか無い。


『普通なら』な。


「流石に首を斬り落とす訳にはいきませんから腕か手首を狙った方が良いと思います」


塔子がそうアドバイスをくれた。


話は残酷に聞こえるが、塔子曰く、綺麗に切り落としたなら、一流のヒーラーなら、その場で簡単に繋げられるそうだ。


大河の場合は千切れて、尚且つ体を打ち付けたのが原因で大怪我になり治療が難しくなった。


『綺麗に斬る』


それが意外にも一番軽傷で相手を無効化出来る方法の様だ。


「そうするか」


「相手の為にも、ためらいなくスパっと斬り落としてあげるのが良いですわ」


確かにそれが一番良さそうだ。


『普通ならば』な。


だが、俺は『普通では無い』


色々と考えながら、俺にとっての運命の一日が始まる。



◆◆◆


いつもの訓練場が今日は違っている。


紋章の様な物が刺繍された幕が張られていて、一段高い台が設置されていた。


そこに王であるエルド六世が座っており、その横にマリン王女が座っていた。


その周りには恐らく重鎮や貴族なのだろう、明らかに身なりの良い偉そうな人が多数座っていた。


「これはどう考えても、只の試合の雰囲気じゃないな。まるで何かの大会みたいじゃ無いか」


「案外、それに近いかもしれませんわ。大賢者と理人の戦い。恐らくはこの試合の結果で国の対応が決まるのでしょう。運命の一戦と言ったところですわね」


「そうだよ、ある意味、理人くんの運命を賭けた戦いだと思う!頑張ってね」


言われて見ればそうだ。


この試合の結果で今後の俺の待遇が変わる。


『運命を賭けた戦いだ』


俺達が着いて暫くたつと聖人が現れた。


大樹と大河は席が用意されていてそこに座っていたが、二人ともやつれている。


当たり前と言えば当たり前だ。


二人は『無能状態』そして大河は大怪我を負い、重症だ。


多分、気を使ってくれたのか塔子と綾子の席は二人の反対側、かなり離れて俺の方にあった。

しかし、明らかにアウェイだ。


俺の後ろ側に少数の人間しか座っていない。


中央に呼ばれた。


これからいよいよ試合が始まる。


「これより『大賢者聖人』と『無能理人』の試合を行う、このコインが落ちたらスタートだ」


コインが高く投げられた。


皆は魔法VS剣の戦いだと思っているが実際は違う。魔法VS魔法(?)の戦いだ。


コインが落ちると聖人は前にかがみこもうとしていた。


何かしようとしている。


俺は急いで心の中で唱える。


『『神の借用書、請求バージョン』』


時間が止まり、聖人と俺のステータス画面が現れた。


どうやら聖人が仕掛けるよりこちらの方が早かったようだ。


此処からは欲しい物を俺に持ってくればその能力が奪える。


欲しい物を『掴んで』俺の方に移動すれば奪える。



木沢 聖人

LV 4

HP1600/3400(毒による)

MP1800/7200(毒による)

ジョブ 大賢者 異世界人

スキル:翻訳.アイテム収納、複合魔法レベル12(聖魔法以外全ての魔法を使える魔法 但しレベルは上がりにくく最上級を越える物は身につかない)


早速欲しい物を移動した。



『大賢者』を取り上げた→ 『過去に『虐め』により友達を自殺に追いこんだ事が発覚しないように神社に祈った分が借証書から消えた』


『複合魔法』を取り上げた→『軟禁事件がバレない様に社に祈った分が借用書から消えた。』


此処で重複した物を取った場合どうなるか試してみた。


『アイテム収納』を取り上げた→ 取り上げる事は可能だが、既に持っている為意味は無い。


どうやら重複してとっても能力が上がったり、自分にプラスにはならないようだ。


それなら無理にとる必要も無いだろう。


尚、これで1/9も回収していない。


神代理人

LV 6

HP 9800

MP 9200

ジョブ:英雄 剣聖 大賢人 日本人

スキル:翻訳.アイテム収納、複合術式(全1)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了

※複合術式とは全ての術が使える事を意味する。

※非表示の物あり



木沢 聖人

LV 4

HP80/250(毒による)

MP50/120(毒による)

ジョブ 異世界人

スキル:翻訳.アイテム収納


この(毒)と言うのが凄く気になるが今は気にしても仕方が無い、俺に出来る事は何もない。


ステータスに関われるという事を、知られる可能性があるから、知らない振りして放置しかないな。


そして時間が動き出した。



◆◆◆


魔法が使えない聖人の腕を斬り落とすのは流石に忍びない。


そう思いみねうちにしようと踏み込んだ。


「なっ」


驚きを俺は隠せない。


「参ったーーーっ」


そこには土下座をして降参している聖人の姿があった。


それと同時に声が上がった。


「勝者、理人殿――――っ」


塔子と綾子を見ると満面の笑みを浮かべている。


壇上を見ると、国王エルド六世とマリン王女と目が合った。


何故だか笑顔で手を振っている。


だが、その周りの重鎮や貴族たちは複雑な顔をしていた。


何故か俺は何もしていないのに、聖人はその場で土下座の姿勢からうつ伏せになり、倒れ、担架で運ばれていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る