第32話 平城綾子
私は、北条塔子が羨ましいわ。
同じお嬢様に生まれても『平城』と『北条』じゃ全然違うの。
私の一族は『政治』の一族だから、余り派手な事は出来ない。
例えば車がそうよ。
お兄様はベンツに乗っているの。
一般人からしたらこれでも凄いと思うかもしれないけど。
だけど、これ以上の車には乗れないんですよ。
悲しい事にお金が幾らあって権力を持っても、ベンツやレクサスに乗れても、フェラーリやランボルギーニーには乗れないんです。
『平城』は裏から日本を操る一族だから、決して表舞台に立てないという宿命を背負っています。
簡単に言えば『政治家メーカー』それが私の一族の仕事です。
平城の多くの人間は『政治家の秘書』をしていて「選対」を担当している事が多いですね。
なんだ、只の政治家の秘書かって…全く違いますよ!
私達の一族が政治家を裏で操っているんですからね!
私達の一族に逆らえばどんな政治家も二期目の当選は無い。それが日本という国の真実なのです。
特におじい様は『選挙の神様』と呼ばれていて、数々の人間を総理に押しあげましたよ。
おじい様が『当選確実』と書いた色紙を送った人間は確実に次の当選が約束されますの。その色紙が欲しくて政治家は何でもします。
妻や娘を差し出す者まで居ます。
政治家なんて惨めな生き方、私はしたいと思いませんよ。
だって平城にとって、政治家なんて男は太鼓持ち、その家族は奴隷。
女政治家はおもちゃですもん。
お父様に子供の頃、国会見学に連れていって貰った時はまるでモーゼの海開きの様に政治家たちが道をあけてくれましたわ。
お父さま曰く此処での礼儀で目下の者は目上の者に道をあけるのがルールなのだそうです。
総理大臣ですら逆らわない。
そんな権力を持った私の一番のコンプレックスは『地味にしなければいけない事』です。
あくまで表向きは政治秘書の一族だから目立ってはいけないのです。
これを平城の家に生まれると徹底的に学ばされます。
例えお小遣いが月300万貰えても派手な事は何も出来ないから本当に面白くありません。
ブランドは買っても外には持っていけない。
短いスカートも履けないし、子供の頃なんて髪もおかっぱなんですよ。
同じお嬢様でも北条とは大違いです。
『北条の怪物王女』なんてまるで女王様気取りで自由にしているのに私には許されません。
お金も権力もあるのに…自由に使えない。
それが平城綾子私なのです。
◆◆◆
そんな私がある時、北条塔子の情報を掴みました。
『北条塔子が恋をしている』そういう情報でした。
しかも問題があり…近づけないのだそうです。
『ざまぁ見ろ』
あの北条塔子に手に入らない者があった事が凄く嬉しくてなりません。
実に面白いですね。
あの北条塔子が手に入らない想い人を私が手に入れたらどうなるのかな?
あの怪物王女泣いたりしてね。
うん、実に面白いですね。
だけど、見ているうちにね、私は理人くんに本当に恋してしまいました。
だって理人くんって本当にピュアなんだもん。
私みたいな偽物じゃなくて『本物』なんだから..凄いよね。
王子様って本当にいるんだ、そう思ったよ。
綺麗な黒髪にきめ細かな肌。
整ったマスク、髪には気をつかって無いけど見る人が見れば綺麗なのは解るよ。
きっとわざと野暮ったい格好しているんだね。
理由は解らないけど…凄く綺麗なのに勿体ないよ。
『欲しい…凄く欲しい。理人くんが欲しいなぁ』
私はお父さまに意を決して頼む事にしたの。
お父さまは私の事を凄く大切にしてくれています。
昔、私の事を『秘書の娘の癖に』と馬鹿にした同級生の子が居ましたよ。
散々使い走りをされたり、服を破かれたりし、教科書も破られていましたね。
ですが、それに気が付いたお父さまが相手の親に文句を言ったのです。
相手の親が実は、あとで議員だったと解かったのですが、どんな圧力を掛けたのか知りませんけど、次の日、私を虐めていたその女の子は、朝礼中いきなり全校生徒の前でストリップをしたかと思うと『クズでーす、裸になって鶏の真似して償います』と言い出し、裸で『コケッコー』と叫びながら学校中を泣きながら走り回っていました。
そして、次の日には転校して居なくなりましたよ。
良くおじい様やお父様は『忠誠を示せ』と言って政治家に妻や娘を差し出させて、遊びで抱いています。
泣きながら踊っている若い女性議員もいましたね。
『定期的に犬は躾けて上下を教えてやらないといかん』
その為の必要行為だと言うのです。
つまり『平城』にとっては政治家は犬以下ですね。
唯一同じ人間として見ているのは『北条家』だけ、裏では『意地汚い』と政治家を馬鹿にしています。
総理大臣ですらペットみたいな物ですよ。
だから、私にとっては愛しい、愛しい理人くんも、お父さまやおじい様には『犬』だもん、きっと手に入れてくれる筈です。
そう期待していました。
ですが、結果は違っていました。
「理人くんは素晴らしい子だ。綾子が好きになるのが解かる。だけど『神代』だから駄目だよ、他の子なら、幾らでも手に入れてあげるけど、神代は駄目だよ」
「神代ってなんですか?」
あんなに傍若無人なお父様やおじい様が一瞬たじろいだ気がします。
「お前は知る必要は無い。 だけどもし、その子に気に入れられ恋人となりお嫁さんにでもなったらね! 凄い事になるからね。綾子はシンデレラになれると思うよ。 理人くんとの恋愛は勿論賛成、幾らでも応援するし、何なら既成事実を作っても文句は言わないから。私も父さんも理人くんなら家族に喜んで迎えるよ。そうだよね父さん」
「ああっ勿論じゃ、神代の人間なら婿に欲しい、将来は跡取りにしても良い」
男女付き合いに厳しいお父さまがこんな事を言う何て信じられませんよ。
ただの友達ですら脅す位なのに『既成事実』まで。
行く所までいっちゃえという事ですね。
『神代』がなんなのか解りませんが。
『特別』だという事だけは確かです。
理人君とのお付き合いを平城家全部で応援するなんて可笑しすぎますよ。
ですが、これは凄いチャンスですよ。
最大の障害が力になってくれるのですから。
「解りましたお父様、私自力で頑張ります」
私はニコリと笑いながら、答えました。
◆◆◆
私は探偵を雇い、理人くんについて調べ上げました。
そのデーターを元に、自分を理人くんの好みの女の子に仕立てていきます。
理人くんの好みの女の子を演じられる様に頑張ったんですよ。
今では元の自分の性格が解らなくなっちゃいました。
『猫を被る』って言う言葉がありますが20匹位被っていたら、取れなくなっちゃいましたよ。
理人くんの友達はお金で買収して『私が如何に良い女』か話をする様にして貰いましたよ。
私が理人くんを好きだと思っている事も遠巻きに伝えて貰いました。
此処まで折角準備していたのに…なんですかねこの異世界転移。
まぁお陰で凄く親密な関係になれてうれしいですけど。
此処じゃ『私の権力』は使えません。
自分の力で頑張るのみです。
理人くんと私の幸せの為に『塔子ちゃん』を、味方にしないといけません。
歯痒さがありますが理人くんの為なら耐えられますよ。
私は身も心も全て理人くんの物です。
手を出してくれても良いのに。
本当に奥手で困っちゃいますよ。
それも含んで素敵なんですけど…塔子ちゃんと一緒に押し倒しちゃいますかね。
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