第34話 大樹SIDE 教会送り



水晶(宝玉)を使った能力測定。


これは中央教会から招いた鑑定のプロの高位の神官により行われる。


それ故に『失敗』など通常はあり得ない。


人の人生を左右する儀式ゆえ、能力の鑑定ミスは人の人生を左右する。


慎重に慎重を重ね一切の失敗が無いよう行われる。


鑑定ミスは、その神官の『死』を意味する。


勿論、本当に殺されたりする訳では無い。


鑑定ミスした神官は、全ての信頼を失い最早神官として出世は望めず。


田舎の教会に飛ばされ中央には戻ることは無い。


そこ迄の儀式である事を余は知っている。


『余はいったい何を信じればよいのじゃ』


絶対に『失敗しない鑑定』


今迄の歴史でも鑑定ミスは殆ど無かった。


過去に1回あったようだが、その時は『神官がそれを恥じ』自分が鑑定ミスした少年に全財産を与え自決したとある。


その事件から数百年、更に慎重をきし今では『絶対におきない』と教会は言い切れるようになった。



それが目の前の状況を見ていると間違ったのではとしか思えない。


向こうも『教会』の名を背負い『教皇』の命令で来ていたのだ。


鑑定ミスを認めないだろう。


また、勇者を含む異世界人の鑑定に送られてきた人物が鑑定ミスなどするとは思えぬ。


もし『疑いあり』と余が言えば再度、検査をする事は可能だ。


だが、それでもし『問題が無ければ』余が非難される。


場合によっては教会の鑑定に異議を唱えるのだ、なんだかの『罰』すら、あるかも知れぬ。


逆に『もし問題があれば』神官が左遷され、場合によっては件の神官の様に自決するやもしれぬ。


そこで教会から大きな恨みを買うかも知れぬ。


そんな中で『理人殿を勇者と同じ扱いをする』そう約束をしてしまった。


反故にする。


それは出来ない。


理人殿1人ならそれもありだが『聖女』『大魔道』の2人は理人側についている。


更に理人殿は『剣聖』『大賢者』を倒せる実力者、『無能とはいえ』この状況で敵に回して良い人物ではない。


「どうした物だろうか?」


「お父様、私、勇者大樹達について良い事を思いつきましたわ」


「マリン、何か良い手があるのか?」


「態々お父様が話をつけなくても『教会』なら喜んで引き取って貰えるのではないですか?」


「教会か?」


それは思いつかなかった。


確かに『勇者』『剣聖』『大賢者』の肩書なら教会は喜んで引き受けるだろう。


「はい、勇者と聖女の仲が悪い。これは紛れもない事実です。事細かな内容は伏せて、当国は『聖女パーティ』を支援するから仲の悪い『勇者パーティ』は教会、聖教国で支援して欲しい。そう頼んでは如何でしょうか?」


確かに聖教国の教皇様は狂信的に『勇者が好きだ』これなら間違いなくいける。


この話は簡単に纏まるだろう。


「マリン、よくぞ思いついた。それで行こう。それなら問題が全部片付く!」


「はい」


余は直ぐに枢機卿に話をし、教皇様に連絡をとって貰った。


話しは直ぐに決まり『すぐにでも勇者達が欲しい』という申し出があった。


◆◆◆


「と言う訳で貴方達にはすぐに教会に行って貰います」


「俺の体がこんなだから捨てる…そう取れるが」


「僕達をこの国は見捨てる、そういう事ですか?」


「そうではありません。今現在、この国では皆さまに満足な治療を行う事は出来ません。ですが、聖教国、教会であれば治療のエキスパート揃いです。もしかしたら治せるやも知れません。貴重な五職のうち3名を手放すなど国としても苦肉の策なのです」


大河や聖人のいう事も解かる。


だが、俺の体調が悪いのも事実だ。


治療の専門家がヒーラーで、その多くは神官に多いと言うのなら、『聖教国』が本場だ。


話し位聞いても良いだろう。


「二人とも話を聞こうぜ、なぁ」


「解かった」


「大樹がそう言うなら聞くよ」


俺はマリン王女から詳しい経緯を聞いた。


最初は体の不自由な大河の為に文官を考えていたらしいが…騎士への素行の悪さから嫌われていて、後々危害を与えられる可能性があると考えたらしい。


外へ口添えをして出そうとしたがそれも難航しそうだとの事だ。


このまま城に居ても、他のクラスメイトの手前居にくいだろうと国王エルド六世は考えたのだそうだ。


そこで『聖教国』に俺達を頼んだらどうか? そう考えた結果、話しをすると先方は乗り気になったそうだ。


聖人も大河の治療も『教会』なら今より更にしっかりとした物が出来る。


俺が訓練に参加できない体調異常から、心のケアも専門家が行ってくれる。


そういう話だった。


「大樹、今の俺は真面な生活が送れない、もし体が治るなら、その案に乗ってみたい」


「僕も、ハァハァ未だに心臓が苦しいし、もしこの状態が治るならいきたい」


仕方ない。


もしかしたら、そこに行けば、俺の体の事も解かるかもしれねー。


このまま此処に居て、引け目のある生活よりは、ましか。


「解かった、それでいつから俺たちは聖教国の『教会』に行けばよいんだ」


「受けて下さるなら早い方が良いでしょう…そうですね! 直ぐに馬車を用意しますから、すぐに聖教国に向かわれると良いと思います。そこで少し休んだら『中央教会』に行かれると思います」


「そんなすぐにか?」


「はい、教皇様は『勇者様達』に直ぐにでも会いたいそうです」


「そんなに会いたいなら仕方ねーな」


「「そうだな(ね)」」


こうして俺たちは聖教国の中央教会へ送られる事になった。



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