ベランダのおじいさん

如月 愁

ベランダのおじいさん

小学3年の11月のある日……


その日はお父さんが中国へ出張で家にいなかった。

なので寝室(和室)では一人だった。

玄関に近い部屋にはお母さんと妹が寝ていた。


そろそろ寝るか〜と思い、布団に潜ってから数十分経った頃だった。


ふとベランダの方を見ると杖をついたおじいさんが影として写っていたのだ。


しかもその影は普段は見えないところまでくっきりと見えたのだ。


その時の自分は、金縛りに遭ってしまった。


だが、頭は冴えていたようで、


(どうしようどうしよう!?今すぐ飛び出してお母さんの寝ている部屋に行くのか!?でも今、金縛りにあって全く動けない!誰か起きてくれ!!)


そう願っていると突然、部屋のドアが勢いよく開いた。


「お兄ちゃん大丈夫!?」


入ってきたのは自分の妹の結衣だ。

そして僕に近づくと、僕の体に異変があることに気づいたようだ。


「あれ?お兄ちゃんなんでこんなところにいるの?」


「それはこっちが聞きたいよ!」


そんなことを言いながら、なんとか体を動かして自分の体を確認していると……


「ん?なんだこれ?」


自分の左腕には赤い文字のような模様があった。


「うわっ!なにそれ気持ち悪いんだけど!!」


結衣はそういうと、すぐに部屋から出て行った。

僕はこの時初めて知ったのだが、これは霊感体質というらしい。


その後、すぐに救急車が来て病院に行ったが、特に異常はなかった。


しかしこの出来事があってからというもの、自分が

幽霊を見たり感じたりする度に、体が勝手に動くようになってしまったのだ。


「はぁ……」


今日も学校に行って、友達と話をしている時もずっとあの時のことを思い出してしまっていた。

それにしてもあの時の妹の反応はないと思うんだよな〜。

まあ心配してくれたことはありがたかったけどね。


「ちょっと祐介!聞いてる!?」


「ごめんごめん、全然話を聞いてなかった」


今は昼休みでいつも通り屋上に来ている。


「もう!またボーッとしてたし!それよりさー、最近この辺りで不審者が出るんだって〜」


「そうなの?」


「うん、なんか白髪の男の人らしくて、目が合っただけで気絶させられるらしいよ?」


「怖すぎでしょそれ」


本当にいたらやばい奴じゃん。


「それでね、その人が襲った後って血痕とか残らないみたいだから目撃者がいないみたいなのよね〜」


「へぇ〜。確かにそれは不思議だよな」


目撃者がいないか……。

やっぱり幽霊の仕業なのか?


「あとさー、この前聞いたんだけど……」


それから午後の授業の時間まで、ずっと学校の怪談を聞かされ続けた。

キーンコーンカーンコーン やっと終わった。

帰りの準備をし、校門を出て駅に向かう道に入ると、

今度は後ろから声をかけられた。


「おい!お前!」


振り返るとそこには見たことのない男が立っていた。身長は180センチくらいだろうか? 顔立ちはかなり整っていてイケメンと言えるだろう。

だがそれよりも目を引くものがあった。

全身真っ黒なのだ。

服はもちろんのこと靴まで黒い革靴を履いており、まるで喪服を着ているような格好だった。


「なんですかあなた?」


僕が質問すると男は睨みつけてきた。

正直かなり怖いがここで引くわけにもいかないと思い、なんとか耐えることにした。


「俺は怪しいものじゃない。ただ君に用事があるだけだ」


怪しくないなら何者なんだ? それに僕のことを"君"と呼んだことから、年上であることがわかる。

とりあえず返事をしてみることにする。


「そう言われても、知らない人についていくことはできませんよ」


「君は何も聞かずに逃げるのか?」


「えっ?」


「君は幽霊が見えるはずだろ?違うかい?」


……どうしてそのことを知っているんだ? まさかこいつが噂の不審者なのか?


「違いますよ」


「いや嘘をつく必要はないよ。なんせ君の後ろに立っている女性が見えているんだろう?」


……どういうことだ? この人は何を言っている?

後ろには誰もいないじゃないか……


「ほらそこにいるじゃないか」

……ん? 今なんて言った? 今確かに女と言ったぞ?

でもここにいるのは男しかいないはず……

その時、突然目の前の男の顔が歪み始めた。

そして次の瞬間には顔がぐちゃぐちゃになっていた。

あまりのことに驚いてしまい、尻餅をついてしまった。

そしてその音で周りの人たちがこちらを見ていることに気づいてしまった。


(ヤバい!このままだと通報される!)


急いで立ち上がり、その場から離れようとしたその時、いきなり後ろから肩に手が置かれた。


恐る恐る振り向くと、そこにはさっきまでいなかったはずの女性が立っていた。

女性は白いワンピースを着ていて、目は虚で何も見ていないようだった。


「ひっ!」


恐怖のあまりに思わず悲鳴を上げてしまうと、周りにいた人たちは一斉に逃げていった。

そして気づけば、先程までの騒がしさがなくなり、あたりは静まり返っていた。


「ようやく会えたね。私の愛しい子」


そういうと彼女は抱きついて来た。














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ベランダのおじいさん 如月 愁 @yokoshu

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