第23話

 雪が溶けて春となり、暖かい日差しが王宮の庭園に差し込んでいる。

 美しい春の花に囲まれたガゼボでお茶を飲んでいる、この国の王太子妃である私は、侍従が持ってきた報告書に目を通して、果実のようだと言われる唇に微笑を浮かべたのだった。


 母国から連れてきた侍女は乳母の娘であり、物心ついた時から姉妹のように仲良く過ごしたかけがえの無い存在。


 聖王の意思によりマレーグ王国へ輿入れをする事になった際にも同行を願い出てくれて、共にこの国に根を張り、子を育て、育んでいこうと誓い合った人だった。


 正義感に溢れる人だっただけに、この国の貴婦人たちの私に対する対応に怒りを感じ、侍女でありながら苦言を呈する事も度々だった友は、王国の薔薇と言われた女性の策にはまり、偽りの恋に夢中となった末に、彼女たちの目の前で陵辱を受け、その後、自死を選んだ。


 全ての事は彼女の残した遺書で知る事となったけれど、同様の手口で女性の尊厳を傷つけられる事件が王宮では多発していたという事を後から知った。

 友の亡骸に復讐を誓っても、彼女たちの背後にいる公爵の力が強大すぎて、なかなか思うように事が進まず歯噛みするばかりの毎日だった。


 停滞した重苦しい空気が動いたのは、王国の薔薇とも呼ばれる女の子飼いが、妻子ある男に横恋慕したのがきっかけ。疎んじられ、追放された母と子を守るため、眠れる虎は牙を剥き、あっけなくも私の復讐は果たされた。


 マレーグ王国の女性の頂点に立った私を邪魔する者は誰もいない、後は最後の裁きの雷を落とすだけという段階に入っている。


「予定の通りに、廃棄してちょうだい」

 私の言葉に、侍従は恭しく辞儀をした。

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