第16話

浮気現場を発見し、飛び出すようにして家を出てから半年が経過してしまいました。

 いつでも私の近くに息子のラーシュが居るし、夫となったイデオンがとにかく私たち親子を甘やかします。


 結婚する前は、父の商会を継ぐためにがむしゃらとなって働いていましたし、ヨアキムと結婚してからは、ベックマン商会を王都で1番の商会にするためにと働く夫を支えるために、私も一緒になって働いていました。


 考えてみれば、息子のラーシュとのんびり遊ぶのは、私を裏切ったママ友エディットと一緒に子供たちを遊ばせる時だけで、後は乳母や子守に任せていることが多かった事実に気がつきました。


 孤児院に入れられて精神的に不安定になっていたラーシュの近くに、常に居て欲しいと言い出したのはイデオンで、仕事が空いた時などはすぐに私たちの所へ遊びに来て、蕩けるような笑顔で遊んでくれます。


 そういえば私の母も、商会の会頭の妻という立場でありながら、幼い時には私に付き切りとなって遊んでくれたのを覚えています。


 母と子供の時間が増えていくと、ラーシュの笑顔も増えてきます。

 そんな私たちを守ってくれるのがイデオンで、

「いでおんぱぱしゅき〜」

と言ってラーシュが抱きつくので、二人で身悶えしているような現状です。


 失恋をした後は新しい恋をするに限る、なんて事は恋愛小説には良く書かれている内容ではありますが、夫に裏切られて心が深く傷ついた私を癒してくれたのは、イデオンからの重すぎるほどの愛情でした。


 とにかく、子供の頃から小さなワンコみたいな子だったんですけど、いつの間にか狂犬になっていたのですね。夜になると、とにかく離してくれないんです。


 普通、私の気持ちが決まるまでとか、私の気持ちが落ち着くまでとか、色々と理由をつけて待ってくれるものだと思うのですが、そこのあたりの配慮はまるっと無視したような状態で、貪るように求めてくるわけです。


「まあ・・十七歳ですからね・・・」

ってみんなが言うんですけど、その一言でまとめるのをなんとかして欲しいです。


「アウロラは全て俺が作り変えたい・・・」

と言って求めてくる翡翠の瞳がやたらと色っぽくって、しかもお肌がツルツルなのに、きっちりと筋肉がついて、若さなんですかね、もう、凄いんです。


 求められた想いに応えていくうちに、私の中の全てが組み替えられてしまったみたいで、私の生活の中心はあっという間に、息子のラーシュとイデオンで占められるようになってしまったのだった。


 一緒に住み始めて四ヶ月後には妊娠が発覚したので、本当に、そりゃそうでしょうねっていう頻度でしたからね。

 その時にはイデオンは十八歳になってはいたけれど、十八歳でパパ、年上の妻でごめんなさいと泣きそうになりました。


 この妊娠についてはイデオンの家族も大喜びで、

「うちは持っているだけの爵位も他にあるし、そもそも商会自体も順調そのものだし、ラーシュ君も含めて、どれだけ子供が増えても問題ないからね!」

と言ってもらっている。


 イデオンは実の母との仲が最悪の状態だったんだけど、その母親が療養という名目で領地から出てくることはないので、王都にいる私たちは意外とすんなりと受け入れられる事になったのだった。


 私が五歳のイデオンを拾ったのが十歳の時の事で、まさか、弟分のイデオンと結婚するとは思いもしなかったけど、年上すぎる妻で本当に申し訳なくて、全身小刻みに震えあがる時もあるけれど、イデオンからの確かな愛情に守られ続ける日々は幸せそのもので、正直に言って、私は平和ボケをしていたのかもしれない。


 その日、遅く帰宅する事になったイデオン出迎えると、その後ろには、王族が身に着ける煌びやかな式典用の衣装を身につけた男性がいて、

「ああ!貴女が噂の妻君か!会うのを楽しみにしていたんだよ!」

と、その人は気さくに声をかけて来たのだった。


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