第15話
あぶなーい!あぶなかったわーー!
アウロラからヨアキムを奪い取るために、伯爵夫人であるお姉様に声をかけて、アウロラがいかに悪女であるかっていう所を話して聞かせて、アウロラがヨアキムと離婚するのは仕方がない事だっていう風に、噂で流してもらったのよね。
お姉様は王太子妃様を凌ぐ勢いがある人だし、社交界の薔薇の花だから、色々な人のお茶会やサロンにも誘われるし、そこで話す内容はあっという間に広まっていくのよね。
だから、天才オッソンの娘と言われるアウロラが、実は不貞をしていた為に、悲嘆に暮れていたヨアキムを私が慰めてあげて〜という美談にしてもらったのよ。
我が国では、平民身分の女性の不貞行為に厳しい目を向けるところがあるのよね。
男は浮気しても何も言われないのに、なんで女は駄目なのよ?って疑問に思うこともあるんだけど、そういう国なんだから仕方がないわよね。
妻が浮気をして、夫の子供と偽って育てるだなんて!まあ!破廉恥な!みたいな感じで話は広がって行ったから、私がヨアキム様の家に住む事になったとしても、とやかく言う人は誰もいなかったのよね。
そうこうするうちに、ホテルベラビスタが潰れたのよ。
何でも、あそこのホテルはお客さんの荷物を勝手にまとめるし、荷物の中身は盗むし、女ひとりで宿泊していると、人身売買組織と結託して、女性の荷物を外に放り出して身柄を組織に渡しちゃうっていう話が広がっていったのよ。
実際に荷物を放り出された女性が困っている姿を見た人も大勢いるらしくって、そんなホテルには泊まることが出来ないっていう事で、宿泊をキャンセルする人が続出したのですって。
はっきり言って他人事だと思っていたんだけど、後から支配人が私に文句を言いに来た時に、ようやっと気がついたのよ!荷物をまとめて放り出されて困っていた女性ってアウロラの事だったみたい!
でも、私はアウロラを泊まらせるなとは言ったけど、荷物を盗めとは言っていないもの。アウロラ以外にも荷物を盗まれたお客様がいるからそんな事になったんじゃないの?と、言ったら、支配人は怒りながら帰っちゃったのよね。
そうこうしているうちに、密輸入に関わったロンダ商会を皮切りにして、複数の貴族が捕まる事になり、うちの父と兄も捕縛される事になってしまったのよ。
ベックマン商会を経営するヨアキムの所に転がり込んでいたから、私が捕まる事はなかったけれど、これ、実家でのんびりしていたら私まで破滅する所だったじゃない!
私にお茶をかけたお姉様の家も捕まったし、お姉様の実家も捕まったみたい。
お姉様は王太子妃様に反感を買いまくっていたから、そりゃあ大変みたいなの。もちろん伯爵家は爵位を剥奪される事が決定、もしかしたらお姉様は死刑かもしれない。
あぶなーーーーい!
お姉様にひっついて遊んでいたら、私まで被害を被る所だったわ!
お姉様!あの時はお茶をかけてくれてありがとう!
お陰で私は無事に過ごすことが出来ています!
相変わらずアウロラに裏切られた事を引きずっているヨアキムは私と結婚してくれないんだけど、新しいドレスは購入してくれるし、宝石も買ってくれるから良しとしているの。
新しいクチュールでデザインしている東崙式のドレスは絶対に買ってくれないんだけど、まあ、別に私も特別欲しいわけでもないからいいわよ。
ヨアキム様は外でお仕事、私は家でのんびり。
そんな形で半年ほど過ごしている間に、情勢もだいぶ変わってきたようで、ベックマン家にもぽつぽつと貴族からの招待状が舞い込むようになったのよ。
今は東方から輸入する絹が流行なんだけど、元々ヨアキムは西方の砂漠地方を越えた先にあるカタラン王国から輸入する『黄金(ドウラード)』と呼ばれる生地に注目していて、輸入を始める事にした所、こちらも貴族の間でも物凄く人気が出るようになったのよね。
少し硬めの素材なんだけど、表地が七色に輝く不思議なもので、アクセサリーに利用していたものを、ドレス生地として用いることに成功したというわけ。
「まあ!グランバリ子爵家からパーティーの招待状が来ているわ!女性同伴の上でご参加くださいですって!きっと、貴方が輸入した新素材に興味を持ってくれたということじゃない?」
最近、疲労困憊っていう感じのヨアキムは、私が勝手に開いた招待状を奪い取るようにしてじっと眺めると、
「子供のお披露目パーティー?あいつ、もう子供が居るのか?」
と、苦虫でも噛み潰したような顔で招待状を眺めている。
「あいつってなに?グランバリ子爵を知っているの?」
「まだ子供だった時の子爵に会った事があるんだよ」
流石ヨアキム!一流の称号を与えるとも言われる子爵と知り合いだなんて凄いじゃない!
「手紙にも書いてあるし、私も同伴で参加ってことでいいわよね?」
「いや・・君は家で待っていてくれ」
「嘘でしょう!女性同伴でって書いてあるじゃない!」
私のキンキン声に顔を顰めると、難しい顔をしながら、
「ラーシュは?ラーシュは今何処にいる?」
と、意味不明な事を言い出した。
「ラーシュは孤児院に居るじゃない?」
「今すぐ連れ戻してきてくれ」
「何故?」
「何故って戸籍上は僕の子供だからだろ!」
「はあ?何で子爵のパーティーに行くのに、戸籍上の子供が必要になるわけ?」
「いいから!さっさと連れ戻して来い!」
きつい口調で命令される意味がわからない。
子爵はお偉いさんみたいだから、子供同伴とかの方が印象が良いとか?そんな感じなのかしら?
私はお父様に紹介してもらった貴族も預ける事が多いといわれる孤児院に行って、預けたラーシュをここまで連れて来るようにお願いしたのよ。
パーティーに顔を出したら、またここに戻さなくちゃならなくなるから、どんな説明をしたら良いだろうかと頭を悩ませていたんだけど、
「ラーシュ君は、お母様、お父様が迎えに来たので、そちらの方へお渡しを済ませておりますよ?」
対応に出て来てくれた修道女長が笑顔でそんな事を言い出したのよ。
「子供は父親が親権を持つ形となりますが、親権を持つ父親が孤児院などに預けると、子供の育児を放棄したと判断されるのです。そこで、母親が新しい夫と共に迎えに来る事になったとしたら、親権は父親から母親へ移譲される事になる。ここに入所される時に最初に説明したと思うのですが?」
「嘘でしょう?それじゃあ、もう、ここにラーシュはいないんですか?」
「そうですね、すでに退所した事になりますね」
「それじゃあ、最初に払った多額の入所金はどうなるわけ?返金してくれるのよねえ?」
修道女長は少し困った様子で眉をハの字に下げた。
「これも最初に説明をしておりますが、子供の入所の際に支払われる金額は、私たちが黙ってお子様を預かり、健全に育てることをお約束するための金額でもあります。もしも途中退所する事になったとしても、頂いたお金は貧しい子供たちの為に使ってしまうため、返金する事は出来ません」
随分高価なブローチをつけた修道女長はにっこりと笑うと、
「お金には口止め料も入っておりますから、私どもは、例え何があったとしても秘密はお守りいたしますのよ!」
そんな事を言って、アウロラの新しい夫についても、何一つ教えてはくれないのだった。
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