第13話
アウロラの息子は無事に孤児院に送り出す事が出来たんだけど、ヨアキムの元妻であるアウロラが行方不明なのよね。
ホテルを追い出された際には、人身売買されるように手配をしたのだけれど、アウロラを誘拐する予定の男二人も行方不明。
完全に消息を絶ってしまったのよね。
どうしようかなと思い悩んでいたところ、珍しいことに父が私を呼び出して、
「クリスタ、アウロラ嬢についてはもう手出しをするな」
と、言い出したのよ。
「孤児院に張り付けている部下も下がらせた。アウロラ嬢についても、息子のラーシュについても今後はタッチするな」
「ええー〜!行方不明のアウロラは、きっと孤児院にいる息子には会いに来るだろうと思って張り付かせておいたのにー〜!」
息子に会いにノコノコとやって来たところを捕まえて、今度こそ異国に売りに払おうと思っていたのに、お父様は不服そうな顔をして執務机の上をコツコツと指先で叩きながら、
「駄目だ」
と、断言されたのよ。
「お前はホテルベラビスタが倒産したのを知らないのか?」
「はあ?」
ホテルベラビスタって、王都の繁華街にあるホテルのことよねえ。
「エディット・ロンダがダンブル男爵の元へ嫁いだのも知らないのか?」
「ダンブル男爵って鬼畜で有名なあのダンブル男爵でしょ?」
「そうだ、ロンダ商会には王国からの監査が入り、密輸入がバレて会頭夫妻が逮捕された。情状酌量を求めるために、跡取り娘が男爵の元へ嫁いだ形となるわけだ」
あそこの密輸入がバレてうちの商会も商売に支障をきたしているのは知っているけれど、エディットがヒヒジジイの所へ嫁いでいるだなんて知らなかった!
「うちもしばらくは身を潜める事にしたから、お前も派手な行動は控えなさい」
「はぁー〜い!わかりましたー〜!」
「ヨアキム君と仲良くな」
お父様はそう言って強面の顔に笑みを浮かべたのだけれども、それが最後の笑顔になるとはその時は思いもしなかったのよね。
お父様に会った後、馬車を走らせてロンダ商会へと向かったのだけれど、ロンダ商会の建物は跡形も無くなっていたの。
駅馬車の統括も行っていたような商会だから、市民の生活に支障が出るのかと思いきや、エディットの元夫が支障が出ないように全ての業態を売却したとかで、ロンダ商会が消滅しても特に問題はないらしい。
エディットと離婚した夫は海外に逃げたらしくって、捕縛は免れたというのだから運が良かったのね。
その後、私はフリクセル伯爵夫人に呼び出されたので、お屋敷へと出向く事になったの。
フリクセル伯爵夫人は身分の差はあれどもお姉様と呼ぶことをゆるして頂いている人であり、今回、ヨアキムとアウロラを別れさせるのに一役買ってくれた人でもある。
亜麻色の髪をゆるやかに結いあげた美しい人で『王国の薔薇』とも呼ばれ、王国の流行を作り出すのはフリクセル伯爵夫人であると皆が言うの。
うちの商会が経営するオートクチュールの上得意のお客様であり、昔から、私を妹のように可愛がってくれる人なのよね。
フリクセル伯爵家は大きな商会を持っていて、祖父の代から深い関わりを持っているから、ホルンルンド商会は貴族の威光が使えるってわけ。
「お姉様、今日はお招きいただき有難うございます」
予約しなければ購入できない高級チョコレート菓子をお土産に持参した私は、伯爵夫人であるお姉様の前で恭しく辞儀をすると、サロンで紅茶を飲んでいたお姉様は私の方へ、カップの中の紅茶をかけて来たのよ。
「きゃあっ!」
ぬるい紅茶だったから良いけど、いや、よくないけど、火傷するところだったじゃない!
「お姉様!一体どうなさったんですか!」
「クリスタ!貴女!私に嘘をついたわね!」
お姉様は怒りで顔を真っ赤にしながら立ち上がると、私の髪の毛を掴むようにして引っ張りながら言い出した。
「アウロラ・ベックマンは男爵との浮気で出来た子供を夫との子供だと偽っていたと、確かにあなたは私にそう言っていたわよね?」
「はあ?どういう事ですか?」
確かに、母親似のラーシュを、アウロラと親しい関係にあるホーキンス男爵との間に出来た子供であると、嘘の調査書をヨアキムに渡しているし、その話は噂のネタとしてお姉様にも流しているわ。
お姉様は他人の浮気話とか不幸になる話が大好きだから、喜んで話を聞いていたとは思うけど、それが何の問題になるってわけよ?
髪の毛を引っ張られた痛みで涙を滲ませながらお姉様を見上げると、
「男爵じゃなくて侯爵家の血筋の子供だというじゃない!夫が侯爵に苦言を呈されたと文句を言っているのよ!どういう事なのよ!」
お姉様のあまりの怒りように、お付きの侍女も驚きに固まっているような状態よ!
「こ・・こ・・侯爵家?一体どういう事ですか!アウロラが一体どうしたんですか!」
「あなたが言うアウロラという女、あなたが王家の離宮でわざわざ離婚誓約書にサインをさせた女だけれど、侯爵家とゆかりのある人間だったというのよ」
真っ赤な顔のお姉様はブルブルと震え出す。
「私が率先して侯爵家にゆかりのある女性を虐げたとして、今、社交界では噂が広がっているような状態なのよ。私にお願いすれば、例え正妻がいたとしても、どんな状況であっても離婚させて破滅に追い込む事ができるし、子供も簡単に取り上げてしまうって!」
「な・・お姉様は何もしていないじゃないですか!」
「あなたが離宮のカフェで堂々とあの女に離婚誓約書にサインをさせて!堂々と子供も取り上げているところを私に見せたんじゃない!」
「そ・・それは・・お姉様は商人の天才といわれるオッソン・イェルムの娘が破滅する姿をこの目で見たいと言い出したからやった、パフォーマンスじゃないですか!」
「私は見たいなんて言ってないわよ!」
カップが床に叩きつけられて、割れたカケラが弾け飛ぶ。
「侯爵家ゆかりの人間を破滅に追い込む姿を嬉々とした様子で眺めていたって言われた私の気持ちがわかる?ねえ!どうしてくれるの!」
お姉様は、私の両肩を掴んで前後に揺さぶりながら言い出した。
「私のお友達たちだって、今は外を歩くことも出来ないのよ!私だってお茶会に顔を出したら、自分の子供を奪い取られるから気をつけろって言われているのよ?ねえ、どうしてくれるの?ねえ?ねえ?」
「わ・・わ・・私・・侯爵家だなんてわかりません!何も知らないんです!」
髪はぐちゃぐちゃ、ドレスは紅茶でびちゃびちゃ。
そんな姿で首を横に振り続けると、お姉様は私の肩から両手を離して、
「もういいわ・・・もう二度と顔を見せないで・・・」
と言い出して、私は伯爵家のサロンから追い出されてしまったのだっ
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