第3話

 御神託は漠然としていた。


「……西へ向かえ。さすれば、新たな大地を与えよう」


 と。


 老人は人々に説いて回った。


 商人として過去に築いてきた信用が試された形だが、老人はその時初めて自分が勝ち得たと信じてきたものが、実に薄っぺらな上辺だけに過ぎなかったことを思い知った。


 ニネヴェの人々は、誰一人老人を信じなかったのだ。


 言葉に現実味がなかったのは確かだが、それにしてもここまで誰からも信じられていなかったとは、老人には思いもよらぬ事態であった。


 互いに信じきっていたはずの妻子たちですら、老人を狂人扱いしたのだった。


 追われるようにニネヴェを去り、老人は神託に従い、独り西へ向かった。


 故郷から離れるほどに、老人の説話に耳を傾ける者は増えていった。


 この事実は、確かに帝国の力が衰え、その恩恵に浴する者が減少していることを示していた。


 それどころか、説話を聞いた何人かの者たちは、西へ向かう老人の旅に同行したいと言い出した。


 老人は拒まなかった。


 老若男女、希望する者があれば、たとえ犯罪者であろうと別け隔てなく受け容れた。

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