四、水郷の姫(六)

 真夜中。静かに布団を出る人影があった。音を立てぬように身支度を整え、襖に手をかける。

「お気を付けて」

 彩香が言った。

「分かってますよ」

 空鴉が答えた。

「殿下を、よろしく頼みます」

 そう言って廊下に出ると、空鴉は大きく息をつく。

「さて」

 その眼には、強い闘志と静かな殺気が宿っていた。

 宿の外に出ると、舜䋝と燿が戦闘態勢をとっていた。

 舜䋝はまっすぐ愛刀を構え、燿は目を開けて低い姿勢をとっている。

「……」

 張り詰めた空気の中、空鴉もそれに混ざった。

 三人の前には、十数人の敵が武器を構えている。

 両者はしばらく睨み合っていたが、根を切らした敵が動いた。

 それを皮切りに、敵は次々と三人に襲い掛かる。

 舜䋝は刀で敵を切りつけ、燿は細い糸で攻撃する。空鴉はクナイに似た鏢を操り、敵を倒していった。

 四半刻もせず決着はつく。敵が地面に転がる中、三人は各々の武器を拭っていた。

「では、後はお願いしますね」

 空鴉が控えていた役人に言う。

「さて、もう遅いし寝ようかな」

 燿はのんびり欠伸をする。

「服は汚れてないですね? また殿下に見つかると面倒です」

「大丈夫だよー」

 二人は宿に向かって歩いていく。

「置いて行かないでください」

 その後ろに舜䋝が続いた。

「あの、お二人が来てくださって良かったです。僕一人じゃ不安で……」

「ふふふ、そうかい?」

「はい、僕の武器は刀だけですから、どうしても大人数相手には不利です」

「でも、舜䋝はここまでちゃんと頑張りましたからね。偉いですよ」

 空鴉に褒められ、舜䋝は笑みを見せる。こうして、国王の私群、蓮華の若手はだんだんと育っていくのだ。

「それにしても、どうにかなりませんかね、この刺客」

 空鴉が深いため息をつく。

「仕方ないよ。相手は国一番の貴族を、後ろ盾にしているからね」

「つくづく、厄介ですね」

 そんな話をしながら、三人は部屋に戻るのだった。

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