第2話 ウソの顔

「おはようございます!」

出勤するといつもと変わらぬテンションで皆に挨拶をする。

【明るくて使いやすい奴の仮面】装着。

職場での仮面、家での仮面、友達の前の仮面

何枚も仮面を持ち合わせている。みんな生きていくためにもっている仮面だとは

思う。生きていくために被っているので辛くもなんともないのが

よくこんだけの仮面を間違えずに被れるなと感心する自分もいる。

世の中の人はいくつ仮面を持ちながら生活しているんだろう。

電車に乗っている時、職場にいる時よくそんなことを思う。

上手く生きていくため。

それに尽きるんだろうが自分らしく生きていけないこんな世の中何が楽しいんだ

そんな事を思いながら着替えていると保奈美が声を掛けてくる。

「何か元気なくない―。仕事終わったら吞み行くー?」

底抜けに明るい声。朝から頭の奥に響くのである。

「いかなーい。」

保奈美の吞み行こう攻撃をさらりとかわす。

「今月全敗なんですけど。たまには気分転換で行こうよー。」

今月全敗なら空気読んでくればいいのにめげない保奈美の

その精神力を分けて頂きたい。

「いきませんよーだ。」

こちらも精神力を振り絞ってお断りをする。

だって早く帰ってギョウムをしなきゃいけないから

会社が終わって遊んでる時間なんてないのである。

ダッテワタシガイナキャダメナンダモン

この言葉に背中をおされて毎日を過ごしている。

彼には私が必要で私にも彼が必要なのである。

でも自由を与えてくれる時間で本当の私がささやく。

これは間違ってるよって

そんなことないっていつも言い返すけど

自分でも分かっている。怖い罠である。

保奈美のように何も考えずに生きていられたら楽なのに。

給湯室で同僚にも上長にもニコニコ愛想を振りまく保奈美に

目をやりながらどうにもならない自分へと歯がゆく感じる。

理想の自分と本当の自分。

それが分からないから愛くるしい保奈美がうらやましいのである。



バタバタと仕事こなしているともう20時を回っていた。

いつもより1時間帰るのが遅くなってしまった。

早く帰ってご飯作って待っていなきゃいけないのになにやってるんだろう。

そう思いながら荷物をまとめて重い身体を家へと向かう。

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