Evol.084 生まれたのは

「う、生まれる!?」

「み、みたいだな!?」


 俺とスフォルは卵に突然罅が入ったことで動揺する。中からコンコンと突くような音と共に亀裂は大きくなっていく。


 一体何が生まれるのだろうか。


 俺たちは息をのんで見守った。


「ぴぃっ!!」


 それからどれほど時間が経ったか分からないが、ようやくパカリと割れた卵から甲高い鳴き声と共に遂にその姿を現すモンスター。


 その姿はトカゲに似ているが、全体的に大きく太いのと、背中に蝙蝠に似た翼を生やしているのが特徴的で全体的にずんぐりむっくりとしている。


「ドラゴン……?」


 スフォルが呟いた通り、それは間違いなく、俺たちが倒したであろうドラゴンゾンビと同系統の形をしており、倒したモンスターとの関連性を感じさせた。


 それでいて体全体が真っ白で清らかなオーラを纏っており、全くの正反対の性質をもっているように見える。


「ぴぃ……?」


 ドラゴンに似たモンスターは不安そうな鳴き声を出しながら室内をきょろきょろと見回し、俺とスフォルに目を止める。


「ぴぃっ!!」


 その瞬間、嬉しそうにとことことベッドに腰かける俺たちも許に歩いてやってきて、足元に纏わりついた。


「どうやら無事に懐いたらしいな」

「そうですね。可愛いです」


 少し離れて隣に座っているスフォルに微笑みかけると、彼女もモンスターを見ながら顔を綻ばせる。


 俺はそのドラゴンを抱き上げてみた。


「ぴぃっ!! ぴぃっ!!」


 ドラゴンは嬉しそうに目を細めて俺の胸に頭を擦りつけながら鳴く。ドラゴンというよりは、その愛らしい姿も相まって猫や犬といった印象を受ける。


「赤ちゃんみたいですね」

「そうか、赤ちゃんか……」


 スフォルの呟きでふと思い至る。


 このモンスターは今生まれたばかりだ。当然のことながらこれからどんどん成長していく。もしこのモンスターがドラゴンであるなら、成長すればとんでもない大きさになるということを。


 勿論ドラゴンを従魔にしている探索者も少ないがいるにはいる。ただ、そういう人は皆高ランクで各々自分の屋敷やパーティ用の家を構えており、その庭で飼っている。


「どうしたんですか?」


 急に黙った俺にスフォルが声を掛けてきた。


「あ、ああ。この子がもしドラゴンだとすれば、このままここに世話になるわけにはいかないと思ってな。尚更拠点が必要になると思ったわけだ」

「なるほど。確かにそうですね。大きくなったら一緒に寝るという訳にもいきませんし、従魔を預かってくれる宿にしてもドラゴンとなると難しいかもしれません」

「だろ」


 俺が今考えていたことを話すと、その考えにスフォルも同意する。


 一日二日でどうなるとも思えないが、大きくなった時に備えて色々情報を集めたり、準備をしたりしておくことに越したことはない。


 そしてこういうことを相談できる相手と言えば、ダンジョンに戻っていったリフィルを除けば現状一人だけだ。


「ステラさんに相談に行くか」


 それはギルドの受付嬢であるステラさんだ。


「それがいいかもしれません。従魔に関しても私たちよりも詳しいでしょうし」

「だよな。善は急げっていうし、早速行くか」


 スフォルの言う通り、ステラさんはその道のプロだ。従魔だけに限らず、色々な知識を持っている。


 俺たちの助けになってくれるに違いない。


 いてもたってもいられなくなった俺はドラゴンを抱いたまま立ち上がり、ギルドに向かおうとする。


―くぅ~


 しかし、突然可愛らしい音がなった。


「ん?」

「い、いえ、私じゃありませんよ?」


 俺は振り返ってスフォルを見るが、彼女は慌てて手をパタパタと振って否定する。


 スフォルじゃないとするなら残るは……。


「お前、腹が減ったのか?」

「ぴぃ!!」


 そう思って俺の胸元にいるドラゴンに視線を落として尋ねたら、俺の言葉を理解しているのか元気に鳴いた。


 うっかりしていたが、外も暗くなり始めていた。そろそろギルドもラッシュを迎える時間帯。卵の孵化を見守っていたり、話し込んでいたらすっかり時間が経っていたらしい。


「今日の所は諦めて明日にするか」

「ですね」


 スフォルも外の様子を同じように見て俺の言葉に頷いた。

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