Evol.083 卵

 こうして今回の報酬は全部俺の物となってしまった。


 若干貰いすぎな気もするが、二人とも断固として受け取るつもりがないのだから仕方がない。受け取り過ぎた分はパーティ資金としてプールしておこう。


 差しあたり、その資金をスフォルに還元すればいい。例えば、彼女の武具を揃えたり、魔導書を購入するのに使うのがパッと思いつく。


 それと、今回元手がなくて揃えることができなかった野営関係のアイテムを買いそろえるのもいいだろう。


「あ、拠点があってもいいな……」


 今は俺とスフォルだけだし、二人とも同じ宿に泊まっているからいいが、これからまだパーティメンバーは増やすつもりだ。


 少なくともリフィルの隣に立つということは彼女とパーティを組むことと同義。基本的に一つのパーティは四人から六人で組むものと考えれば、最大で三人はメンバーが増えることになる。


 そう考えれば仲間が増えた時のことも考えて拠点であるパーティハウスを持つという選択肢もある。


 今回の報酬はハッキリ言ってその拠点を構えるだけの金額が余裕であった。


「拠点ですか?」

「ああ。俺も一応Bランクになったし、これから活動すればスフォルもすぐCランクくらいにはなるだろう。それにまだ仲間は増やすつもりだからな。別々の場所に暮らすのは効率も悪いし、今回の報酬が沢山あるからパーティハウスを持ってもいいかと思ってな。まだ俺とスフォルだけのパーティだからもう一人くらい増えてからもいいけどな」

「なるほど。そういう拠点を持つ方法もあるんですね」


 首を傾げるスフォルに改めて考えたことを説明すると、まるで知らなかったような返事を返してくるスフォル。


「前は違ったのか?」


 俺は思わず以前のパーティでのことを聞いてしまった。


 しまった!?


「私は一人で宿に……」

「あ、ああ、いや悪いことを聞いた。許してくれ」


 俺は言った後すぐに失言だと気づいて暗い雰囲気で返事をする彼女に謝罪する。


「いえ、大丈夫です。フレンド登録も削除しましたし、完全にお別れしましたから」

「そ、そうか。まぁ報酬の件は一旦これでいいとして問題はこいつだな」

「そうですね……一体なんの卵なんでしょう?」

「従魔の卵って奴なのは分かるけどな」


 力なく笑うスフォル。


 俺は暗い雰囲気を吹き飛ばすため、別の話題に切り替える。


 それはアイテムの中でも異質だった卵。今は大きな桶に毛布を何枚か敷き詰めてくるんである。


 それは良く従魔の卵と言われるもので、人間に懐く特殊なモンスターが生まれる卵だ。


 その種類は千差万別で、与えた魔力の質や量によって生まれてくるモンスターが変わるらしい。その種類によってはとんでもない金額で売買されることもあるとか。


 ドラゴンゾンビを倒した後でドロップしたこの卵は、マジックバッグに入れることができなかった。生き物はバッグに入れられないって話だからそういうことだ。


 別途リュックに詰め込んで担いで運ぶのは少し手間だったが、そのままにしておくこともできないので持って帰ってきたわけだ。


 その際、俺が卵を持っていたのだが、ずっと魔力を吸い取られていた。幸い二度目の進化によってかなり増えた俺の魔力は枯渇することはなかった。


「大きいですよね……」

「大きいな」


 最初はそれほど大きくなく、灰色だった卵だが、宿の戻ってきた今となっては一抱え以上の大きさにまで巨大化し、真っ白な色に変化した。


―トクントクンッ


 その卵は、手を当てると人間の心臓のように鼓動していて、そのリズムに合わせて明滅していた。


「いつ頃生まれるんでしょうか?」

「もういつ生まれてもいいはずだけどな」


 聞いた話だと従魔の卵は魔力を注いでから数日で生まれることが多いらしいので、帰ってくるのに数日掛かっている以上生まれてもおかしくはない。


―ビシリッ


「あっ」

「え!?」


 そして、卵がまるで待ってましたと言わんばかりにその殻に亀裂が入った。


 

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