Evol.076 今更ながら気付くこと

「うぉっ。眩しっ」

「はははっ。外の光は中よりも眩しく感じるな」


 ダンジョンの外に出る外は青空が広がり、太陽の光が燦燦と降り注いでいた。


 俺の様子を見て笑うリフィルの言う通り、ダンジョン内の光はなんだか一定でそれほど眩しいと感じたことはなかったが、その光は目を閉じさせるためかのように光を発している。


「帰ってこれた……これましたぁ……」


 そこで気が抜けてしまったか、スフォルがその場に座り込んで泣き出した。


 無理もない。


 転移罠で跳ばされた時、強いモンスターに襲われた時、スケルトンに飲み込まれた時、いや、それ以前からずっと死に脅かされていたはずだ。


 それらの恐怖から今完全に解き放たれたと言って過言ではないはずだから。


「あっ。お前生きてたのか。てっきり死んじまったと思ったぜ」


 ダンジョンの外に出てきた俺を見て声を掛けてきたのは昔なじみの門番。


 こいつも最初の頃は俺を蔑んでいたが、いつの間にかそういう雰囲気は全くなくなり、こうやって親し気に絡んでくるようになった。


「悪かったな。リフィルとスフォルに助けられて生きてたよ」


 それ以来、こうして軽口を言い合う間柄だ。


 それなのにいまだに名前は知らないがな。


「リフィルってまさか……げぇ!? 流星!? 本物か!?」


 あれだけ存在感あるリフィルを見逃していたらしい門番はリフィルを見て慌てふためく。


「そう名乗ったことはないが、一応本物だと言っておこう」

「はぇ~……お前とんでもないコネ持ってるんだな」

「まぁな」


 肩を竦めて返事をするリフィル。門番は呆然としたまま俺の方がゆっくりと顔を向けてきたので、俺もリフィル同様に仕草をして苦笑いを浮かべた。


「無事を喜び合うのはそれくらいにしてギルドに行って帰ってきたことを報告しよう」

「ああ。そうだな」


 俺はリフィルの言葉にうなずく。


 かれこれ数週間はダンジョンに潜っていたからな。今までダンジョンに一日以上潜り続けたことはないからさぞかし方々に心配をかけてしまっているはず。


 ギルドも含めて各所に無事を報告したほうが良いだろう。


「スフォル、行くぞ」


 俺はへたり込んでいる彼女に声を掛けた。


 彼女は立ち上がろうと懸命に頑張っているようだが、全く足が動いていない。


「す、すみません……安心したら力が抜けちゃって……」


 どうやら安堵で緊張と疲労が襲ってきたらしい。


「しょうがないな。よっとっ」

「えっ。きゃっ」


 そのまま放っておくわけにもいかないので彼女を抱き上げて横抱きにする。


「おっと、すまん。どこか痛むか?」

「い、いえ、だ、大丈夫です!!」

「そうか。何かあったら言えよ?」

「は、はい……」


 悲鳴を上げたスフォルの顔を覗き込むと、彼女は俯いたまま返事をした。


「ふむ。これは私もうかうかしてられんな?」

「なんのことだ?」

「いや、こっちの話だ。さぁいこう」

「ん? まぁいいか。 そうだな。行こう」


 俺のことをジッと見ながら呟くリフィルに尋ねるが、はぐらかされてしまった。


 まぁ大したことじゃないだろう。


 俺たちはギルドに向かった。


「おい、あれって……」

「流星?」

「隣にいるあの男は誰だ?」

「なんだか見覚えがある気がするんだがなぁ」

「大体なんで女の子を横抱きにしてるんだ?」


 屋内に入るなり俺達に視線が集まり、ひそひそと囁き合い始める。最初のきっかけはリフィルだろうが、それによって俺やスフォルも値踏みするような視線を送られる。


「ラストさん!?」


 受付に向かっていると、聞きなれた、それでいて懐かしさを感じさせる声が聞こえた。


「ステラさん、ただいま」


 その声の主はいつものように受付に座っているステラさんのものだった。


 彼女は立ち上がって呆然とした表情で俺を出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。何日も帰ってこないので死んでしまったのかと……」

「はははっ。心配かけてすまん。なんとか生き延びたよ」


 涙を浮かべて話すステラさんに、頭を下げて苦笑いをしつつ頭を掻いて返事をする。


「はぁ……本当にご無事でよかった。一体何があったんですか?」

「それは――」


 ホッと安堵の息を吐いたステラさんだが、リフィルやスフォルを抱えていることで何かをあったことを察して話を聞いてきた。


 しかし、それに俺も応じようとした時だった。


「あの子が帰ってきたって本当かい!?」

「小僧は無事か!?」

「あの餓鬼が帰ってきたって!?」

「ひよっこはどこだ!?」


 ギルドのスイングドアが勢いよく開いて宿屋の女将を含む、顔なじみの連中が飛び込んできた。


「おう、帰ってきたぞ。みんなただいま」


 俺は話を中断して皆に手を軽く上げて帰宅の挨拶をした。


 その瞬間、皆が俺に駆け寄って抱き着いてきてもみくちゃにしてきて、涙を流しながら笑っている。


 こんなにも皆に愛されていたことを知って心が温かくなった。

 

 その日はもう話にならず、後日事情を話すことになり、俺の宿屋で盛大な帰還を祝う宴が行われた。


 スフォルとリフィルも参加して皆で飲んで騒ぎまくった。


 その喧騒は日を跨いでも止まなかった。

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