Evol.080 俺は後2回進化を残している。その意味が分かるな?
「ん?」
俺はふと目を覚ました。
カーテンが閉じられた窓の先から光が差し込んでいないことを見ると、今は夜らしい。
ということは俺はリフィルを見送ってステータスを確認した後、ずっと寝ていたということか。やはり疲労が抜け切れていないらしい。
それじゃあ、なぜ俺が起きたのかと言えば不穏な気配を感じ取ったからだ。
常にダンジョンに潜っているので危険にはかなり敏感で、能力値がさらに向上したことにより、すぐに異変に気付いて勝手に目を覚ましたわけだ。
「一体誰だこんな時間に……」
俺はうんざりしながらもベッドから起きて窓から外を見る。
視力も向上しているせいか、夜にも関わらず、ピントが合うと外の様子が良く見えた。そこには見覚えのある人間たちがいた。嫌な気配を発していたのはそいつらだった。
今が何時ごろなのか分からないが、街中にも関わらず武装していて、顔を隠しているから分かりづらいが、奴らはスフォルのパーティに居た彼女の幼馴染たちだ。
「はぁ……あいつらも懲りないな」
スフォルを助けに行く際にあいつらには十分に脅しをかけていたはずだが、何を思ったのか、この宿を襲おうとしているようだ。
ここは俺の第二の家と言っても過言ではない場所だ。
そんな場所を荒らそうというだけでも許せないが、奴らの狙いは十中八九生きて戻ってきたスフォルだ。もしかしたら俺も入っているかもしれない。
家と新しい仲間をどうにかしようというのならただで帰す訳にはいかないだろう。
「ふっ」
俺は窓を開け、枠に足を掛けて外に飛び出して奴らの前に着地した。
「なっ!?」
「え!?」
「うそっ!?」
奴らは自分たちの目の前に何者かが現れたことが信じられずに驚愕の声を上げた。コソコソとやってきた割りにそのくらいで声を出している辺り、たかが知れている。
「よう。何しに来たんだ?」
俺は奴らに声を掛けた。
「そ、それは……」
「まさか俺達を殺そうだなんて思ったわけじゃないよなぁ?」
俺の正体が分かったらしく言いよどむ戦士に、凄みなら問い詰める。
「くっ」
「もういいよ、やっちゃおう。見つかった以上口を塞ぐしかないよ」
「そうね、私たちは三人、相手は一人。問題ないわ」
「そ、そうだな」
俺の問いに苦虫を噛み潰したような表情になった戦士の男。しかし、他の女二人は武器を抜いて戦闘態勢に移り、戦士もそれに倣った。
「おいおい、こんなところで実力行使か?」
呆れながらヤレヤレと肩を竦める。
「お前達が……あの疫病神が生きてるから悪いんだ!! 俺たちは悪くねぇ!!」
「そうよ、あんなゴミ生きてるだけでダメなんだから!!」
「そうそう。あんな害悪はもうこれ以上生かしておけないよ!!」
奴らはよくわからない理論で自分の行為を必死に正当化しようとしているように見えた。
可哀想な奴らだが、俺が奴らに掛ける慈悲はない。
「そうか、お前らの気持ちはよーく分かった。俺は前に言っておいたよなぁ。おかしなことになったらお前らを生きてることを後悔させてやるってよぉ」
「はんっ。見掛け倒しのおっさんなんかこわくねぇよ!!」
「そうか、それなら俺も心置きなく使えるよ」
どうやら前回の脅しは彼らの頭の中で大したことはないと思われているようだ。
俺たちの命を狙ってきたようだし、試すのが怖いと思っていたが丁度いい。俺は指向性を持たせて彼らに向かった強化された威圧を放った。
「「「~~!?」」」
その効果は一目瞭然。彼らはガタガタと体を震わせ、顔が青ざめて今にも武器を取り落としそうだ。
そして女たちの立っているすぐに下の地面にはシミが広がっていた。そのシミは彼女らの股の辺りから滴っている。つまりはそういうことだ。
おれは軽く地面を蹴って奴らの背後に回る。
「いいか、よく聞け」
俺の声が背後から聞こえたことで彼らはひと際大きく体を震わせた。
「今回は俺もスフォルも死ななかった。だから見逃してやる。次はない。言っておくが、俺は誰も成しえていない二度目の進化を果たしている。そしてさらにその進化を後二回残している。これがどういう意味か分かるよな?」
俺は優しく語り掛けるように話掛ける。ただし威圧を最大限に放ちながら。
奴らはガタガタと体を震わせながら頭をガクガクと縦に振った。
「いいか? 本当に次はないからな。お前達を生かしておくのは幼馴染のお前たちが死ぬとスフォルが悲しむからだ。あの子に感謝してこれからは品行方正に生きることだ。俺はいつでもお前達を見ている。じゃあな」
最後に奴らの肩をポンと叩いてそばを通り過ぎ、自分の部屋に戻る。
―ドサリッ
振り返ると奴らはその場に崩れ落ちて肩を震わせている。これ以上見る者はないとカーテンを閉めて俺は再び床に就いた。
この日を境に彼らをこの街で見た物はいない。
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