Evol.049 運の良い悪いは紙一重

 俺は彼女が消え去ったという一七階層の転移罠があった場所へとひた走る。


 敵はもう切るのも面倒になって体当たりしたら吹き飛んでいったので、これ幸いとばかりに向かってくるモンスターは弾き飛ばして先へと進んだ。


「はぁ……はぁ……。あいつらに聞いたのはこの辺りだったはずだが……」


 一七階層の切り立った断崖の方にある入り組んだ迷路のような場所へとたどり着いた。


 俺はすぐに辺りを隈なく探してみる。


 しかし、どこにも転移罠があるような気配はなく、彼女がどこに飛ばされたのかというその糸口さえつかめない状況だった。


「くそっ……こういう時はどうしたらいい……」


 どこにいるか分からない彼女を探して階層を一々下っていくのではあまりに時間がかかりすぎるし、それでは彼女は恐らく助からない。


 何か……何か……彼女を助ける方法はないのか……。


 俺は必死に頭を働かせる。


「そうか!! 俺も転移罠に乗ればいい!!」


 その結果閃いたのは、ダンジョン内にある転移罠を発動させること。そして俺は罠の情報が掛かれた地図をステラさんから入手していた。


 転移罠は一度発動するとその位置を変える。それは階層関係なく移動するので、実際に行ってみなければその罠があるかどうかは分からない。


「一番近い転移罠は……」


 俺は地図をめくりながら転移罠が確認されている位置を探す。


「一九階層か。そこに急ごう!!」


 見つけたのは二つ下の一九階層。俺はすぐにその場所に向かって駆けだした。


「ちっ」


 しかし、地図に指し示されたその場所に転移罠はなく、すでにどこかで発動してしまっている状態だった。二階降りるのにかかった時間は一五分。その間にもスフォルの身に危険が迫っている、もしくはすでにヤバい状況に追い込まれている可能性を考えると悠長になんてしていられない。


「次は二一階層だ」


 俺はすぐに次の転移罠がある場所に向かって再び走り出した。


「どけぇえええええええっ!!」


 二〇階層の階層ボスであるビッグクラブ。俺は急いでいたのですぐに切りかかった。


「ブクブクブクブク……」


 その結果、このボスも一撃で燐光となって消えることになった。残念ながらここまできても武具の性能が分かる事はなかった。


 俺は出てくるドロップアイテムや討伐報酬の宝箱も無視して、開いた扉を通り抜けて次の階層への階段をひたすらに下る。


「くっ」


 その階段を抜けた瞬間、照り付ける太陽の日差しと、うだるような暑さが俺の身を襲った。


「ここが砂漠エリアか……」


 そこには見渡す限りの砂漠が広がっている。初めてくるエリアだが、今は探索している場合ではない。


「地図はあるが、ここで探すのは大変そうだな……」


 一応目印になる岩や砂漠植物が書き込まれているのである程度の場所は分かるが、詳しい場所までは分かりそうになかった。


 それでも俺は地図に従って転移罠を探すために示された場所へとひた走る。


「この辺りか……」


 しかし、どこを探しても転移罠があるような気配はない。ここまで約一時間。ただの遭難であればなんのことはない時間だが、モンスター蔓延るダンジョンの中では命取りになりえる時間だ。


「次は……二四階層か。なんとかもう少し頑張ってくれよ!!」


 俺は心の中でまだ生きていると信じている彼女に対するエールを叫びながら、次の転移罠を目指した。


「はぁ……はぁ……ここでダメだと、次は三五階層。絶望的だな……」


 次の転移罠があるの場所はかなり離れていた。ここを逃してしまうといよいよ彼女の生存が危ぶまれる。


「頼む……彼女の元に飛ばしてくれ……!!」


 俺は必死に願いながら近くにあるであろう転移罠を探してうろつき始めた。


 そしてその願いが通じたのか、俺の足元に魔法陣が光り輝いた。それは転移魔法陣の光に間違いなかった。


 三度目の正直。これでスフォルの元に行ければ俺の勝ちだ。そして俺は心配していなかった。


 すぐに視界の様子が切り替わる。


 そこは洞窟エリアなのだが、一階層の様子とは全く違い、おどろおどろしい雰囲気を漂わせる毒々しい霧のようなものが漂っていた。


 彼女が最悪の可能性を引く存在であるとすれば、俺は自分が望んだ可能性を引くことができる存在。だからこそ、そうであるなら転移罠に乗りさえすれば、必ず彼女の元にたどり着けると信じていた。


「ラ、ラストさん!!」


 案の定、俺の後ろからスフォルの声が聞こえ、俺は賭けに勝ったことを確信した。


 直後に俺に影が落ちる。見上げればそれは、巨大なモンスターのものだった。ビリビリと肌に威圧感を感じる。これは今までのモンスターには感じたことのない。


「よう、助けに来たぞ」


 俺は目の前のモンスターを視界から外さないようにしながらも、彼女にニヤリと笑って答えた。

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