Evol.050 愚かな私(別視点)
■スフォル Side
「はぁ……はぁ……どうしてこんなことになっちゃったのかな……」
私は息を切らせながらゴツゴツとした洞窟の岩壁の窪みの中に身を隠してポツリと呟いた。
本当なら今頃は幼馴染のパーティと一緒にダンジョン探索をしているはずだったのに、転移罠を踏んだせいではぐれてしまった。
いや、変に言い繕うのは止めよう。
私は幼馴染たちに嵌められて転移罠を踏まされた。
転移罠は実際に踏んでみるまでそこに在るかどうかは分からない。彼らもダメもとで私を誘い込んだのだと思う。
しかし私の運は最悪。当然その場に転移罠があるという引き寄せたくない可能性を引き当ててしまった。彼らとしてもそれを見越していたに違いない。
その結果、見たこともない階層に飛ばされることになった。
一体どの階層なのかは分からないけど、私の運の値とスキルの事を考えれば、かなり良くない状況だと予想できた。
「キシャアアアアアアッ」
「グォオオオオオオンッ」
実際真っ黒で巨大な蠍型モンスターや巨大な黒い甲冑に身を包んだオーガらしきモンスターが徘徊しているのが視界に入り、見つかる前にその場からコッソリと離れた。
しかし、どこに行っても凶悪そうなモンスターが待ち構えていて、一時間もすると、私はもうほとんど助からない場所に来てしまったことを悟った。
こんな危機的な状況にも関わらず、ふと少し前の事を思い出す。
「進化したらきっと皆の役に立てるからそれまではお願いだから協力して」
私はラストさんの手を振り払った後、そう言って幼馴染たちに頭を下げた。その根拠と可能性も伝えた。
「ふーん、しょうがねぇな。我慢してやるか」
「そうね、せっかく一緒にやってきたのだものね。役に立つならそれに越したことはないわ」
「そうだね。進化して私たちが被害を受けた分役に立ってもらわないと」
その結果、言い方はアレだったけど、皆が私に協力してくれることになったはずだった。
だから私は彼らが休んでいる時もダンジョンの低階層で一人でレベル上げをしながら、必死に進化するために最近ずっと頑張ってきた。
しかし、彼らには私の想いはこれっぽっちも伝わっていなかった。進化さえすればやり直すことが出来るというのは私の淡い願望過ぎなかったのだ。
……彼らと私の関係はもうどうしようもなく壊れていたのは本当は分かっていた。
でも、どうしてもあの優しくて私を助けてくれた幼馴染達のことを信じたくて……疑いたくなくて……まだやり直せると思い込みたくて、ラストさんに教えられた進化という希望に縋った。
でも、それは彼らにとってはどうでもいいことで、彼らは私に早く消えてほしかっただけだった。
それを今回まざまざと見せつけられることになった。
「はぁ……どうしてあの時、ラストさんの手を取らなかったのかな。取っていたら何か変わったのかな……」
そして、それは私に手を差し伸べてくれたラストさんの手を取らなかったことへの後悔へと変わり、ポツリ、ポツリと瞳からあふれ出して地面にシミを作っていく。
「フシュゥウウウウウウッ」
涙で視界が見えない中、巨大な影に覆われたのが分かった。
それは幼馴染達や周りの人達、そして優しくしてくれたラストさんを拒絶して傷つけた私の幕を下ろすための死神なのかもしれない。
「ラストさん、ごめんなさい……」
私に優しくしてくれたラストさんに本当は直接謝りたかったけど、もうその機会もなさそうなので、気持ちだけでも謝って目を瞑り、終わりを待つ。
―フワリッ
しかし、そこで何か不自然な風が私の前に吹いた。それと同時にモンスターとは違う気配が私の目の前に現れる。
私はどうしても気になって閉じた瞳をゆっくりと開いた。
視線の先にあったのは見覚えのある背中。
大きくて優しいあの人の背中。
見間違いかと思って目をこすってみたけど、確かにその背中は私の知っているあの人のものに間違いなかった。
「ラ、ラストさん!?」
思わず私はその人の名前を叫んでいた。
手を振り払ったはずなのにどうしてここに!?
一体どうやって私のことを知ったの!?
どうやってこの場所に来ることが出来たの!?
様々な疑問が私の頭の中を埋め尽くす。
しかし、彼は私の考えをよそに視界の端で私を捉えてこう言った。
「よう。助けに来たぞ」
と。
その時、私は涙で視界が埋め尽くされて何も見えなくなってしまった。
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