Evol.046 新装備

 俺は依頼を受けてそこまでのダンジョン内の情報を仕入れた後、そろそろかと思い、ドワーフの爺さんの鍛冶屋にやってきた。


「爺さん!! 居るか!!」


 いつものように声を張って爺さんを呼ぶ。


「おう。よく来たな小僧。出来ておるぞ」

「おお。本当か」

「ああ。ついてこい」


 爺さんはすぐに表にやってきた。すでに頼んでいた装備は出来ているらしく、奥に来るように顎をクイッと振って促した。


 その仕草に俺の期待値が上がる。


「おお、アレが……」


 俺が通された先には、鎧ではなく、胸当てと各部のプロテクター、そしてブーツがマネキンに取り付けられている。


 黒い魔鉄が淡く紫色に発光し、今まで装備していたくたびれた皮鎧とは一線を画す装備だとすぐに分かった。


 俺は憧れだった魔鉄装備に感動で体が震える。


「どうだ? 中々いい出来だろう?」

「ああ。想像以上だ」


 俺の方を向き直ってドヤ顔をする爺さんに、俺は呆然と答えた。


「早速身に着けてくれ。おかしなところがあればするからよ」

「分かった」


 爺さんに勧められるままに俺専用の魔鉄装備に付け替える。


 皮鎧を着ていたので、胸当てに変わったことに多少の違和感はあったものの、どれも俺の体にぴったりとフィットしていて動きを全く阻害しない。


 体を軽く動かしてみるが、皮鎧よりも動きやすくて全く問題なさそうだ。流石爺さん。腕利きの鍛冶屋だけある。


「大丈夫そうだ」

「それなら良かった。少し見せてくれ」

「了解」


 俺としては問題ないと思うが、職人から見ると完璧じゃない場合もある。俺から許可を得た爺さんは、俺が身に着けた状態の防具の様子を確認しつつ微調整してくれた。


「これで大丈夫だろう」

「ありがとう」

「おいおい、まだ終わっちゃいねぇだろうが」


 調整を終えたようなので俺が満足げに感謝すれば、何言ってんだお前はって顔をされた。


「ん?」


 他に何かあったかと思い、不思議そうに爺さんの顔を見る。


「剣だよ、剣」

「あぁ!! すっかりこの剣が自分の武器だと勘違いしていた」


 爺さんに言われて俺は腰に佩いている剣に手を当てた。


 完全に忘れていた。

 今では借りていた剣が手に馴染んでいたからな。


「それもまぁ悪くはねぇ品ではあるが、お前にゃこっちの方が似合いだ」

「おっとっ!?」


 俺が苦笑いしていたら、爺さんが鞘事剣を投げ渡してくる。俺は危なげなくその剣を受け取り、鞘から少し引き抜いた。


 魔鉄特有の黒い剣で、防具同様に表面が淡く紫色に発光していて、反射で俺の顔を映している。


「おお。手にぴったりくるな」


 完全に引き抜いて軽く構えてみると、借りていた武器よりもさらにしっくりくる感覚があった。


「ったりめぇだろ。お前専用に作ったんだからな」


 自慢げに答える爺さん。


「ちょっと振ってもいいか?」

「ああ。裏庭でやってみろ」

「了解」


 年甲斐もなくワクワクしている俺は、裏庭に移動して剣を振ってみる。


 それは今までの武器とは比べ物にならないくらい振りやすく、重さも余り感じさせないほどに自由自在に振る事ができた。


 まるで体の一部になったような感覚だった。


「どうだ?」

「こりゃあいいな」


 ひと汗かいた後に問われた爺さんの質問にニッコリと笑って答える。


「これからよろしくな」


 俺は剣を立てて語り掛けた。


 新しい相棒は太陽に照らされ、その反射で俺の声に答えた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る