Evol.045 おかしくなってしまった金銭感覚
「それでご紹介する依頼ですが、貴族からの依頼になります」
「え……」
俺はステラさんからの依頼を聞いた瞬間、体が硬直する。
会ったことはないが、貴族に良い噂は聞かない。
やれ傲慢だの、やれ横暴だの、やれ平民の命をなんとも思っていない悪魔だの。俺達探索者にとってあまり関わり合いになりたくない存在。それが貴族だ。
だから彼女から勧められたのが貴族からの依頼だと聞いて体が強張ってしまった。
「あ、いや、大丈夫ですよ。この依頼の依頼者は噂のような貴族ではありませんので。むしろ貴族としてはかなりフランクな家柄ですね」
「それなら問題ないか……」
俺の反応を見たステラさんは、きちんと説明してくれる。どうやら思っていたような相手ではないようなので俺は心から安堵した。
「ええ。別に報酬を出し渋ったりしませんし、直接会うわけでもないので問題ないかと思います。それに繊細な物なのでアイテムバッグを持っているラストさんに非常にちょうどいい依頼です」
「へぇ。どんな依頼なんだ?」
挑発的な笑みを浮かべるステラさんに、俺も興味が出てきてその具体的な内容を聞く。
「龍臨花と呼ばれる花の採取依頼です。これは二一階から二五階の砂漠エリアに咲く珍しい花なんですが、依頼者のラブロス家はこの花をプロポーズの際に相手に送る風習があり、この度次男の方が相手に求婚するために必要だということで依頼が入ってきた形になります」
「面白い風習だな」
そんな風習は聞いたことがない。
「はい。この龍臨花は珍しいわりに何か特別な効果がある訳でもないので、普段は採取しても二束三文にしかなりませんし、繊細なので普通のバッグでは持ち運びが困難なため、普通の探索者はまず取りに行かないんですよね」
「そこで俺のアイテムバッグの出番って訳か」
「そういうことです」
話を聞いて俺が受ける理由もわかったので依頼を受けるのは問題ない。
ただ、気になるのは、
「それで報酬は?」
報酬だった。
稼げる依頼だというから期待してしまう。
「報酬は金貨二〇〇枚ですね」
「……」
うーん、それほどでもなかった。
まぁアイアンタートルと比べれば二〇倍もあるし、行って取ってくるだけならそれほど時間もかからないことも考えれば悪くないかもしれない。
いや、分かっている。分かってはいるんだが、ガマグッチと比べてしまうとどうしても見劣りしてしまい、拍子抜けして黙ってしまった。
「ラストさんの気持ちも分からなくはないですが、これでもラストさんが受けられる依頼であるCランクの依頼の中では一番割高で高額なんですからね? ガマグッチがありえないだけなんですからね?」
「わ、分かってるよ。そうだよな。ガマグッチがおかしいんだよな……」
少し不機嫌そうなステラさんの忠告を聞いて自分が改めておかしくなっていることを実感できたので、ガマグッチのことはゴミ箱に投げ捨ててしまうことにした。
「そうです。それでどうしますか? 受けます? 受けません?」
少し不貞腐れ気味になって投げやりに俺に尋ねるステラさん。
ちょっとこれはマズいな。
「ああ。勿論受けさせてもらうさ。折角ステラさんが見繕ってくれた依頼だ。受ける以外に選択肢はないよ」
俺はすぐに機嫌を取るように彼女をヨイショしつつ返事をする。
「そ、そうですか。それは良かった。それではアイアンタートルの依頼と合わせて受領処理をさせていただきますね」
「分かった」
すっかり機嫌が戻ったステラさんは喜々として作業を始めた。俺はこうして竜臨花の採取依頼を受けることになった。
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