Evol.042 追いかけっこ
―ドドドドドドドッ
先ほどの花火みたいなものが打ちあがった後、地鳴りと共に何かがこちらに近づいてくる。
「こっちだ!!」
『おう!!』
何やら野太い話声も一緒に聞こえきた。どうやら多数の人間がこちらに向かってきているようだ。
「あれって……」
「衛兵ですね」
「もしかしてさっきの魔道具は?」
「そうです。救難信号を送る道具ですね」
どうやらそういうことらしい。
つまり、ここに向かっているのは衛兵でステラさんを助けるために来ているということだ。
「えっと……この状況って俺大丈夫ですかね」
「ああ~……そこは何とかしてください」
恐る恐る尋ねれば、ステラさんは苦笑しながら言う。
近くに積み重なった不審者の山。そしてステラさんの傍には怪しい男。どう見てもヤバい予感しかしない。
「うおおおおおおおおっ!! 居たぞ!! 不審者だ!! 彼女を助けろ!!」
『おう!!』
地鳴りがかなり近くまでやってきたと思えば、路地の先から鎧を着た人物が顔を出し、俺達を見つけるなり嫌な予感の通りに俺を不審者だと勘違いしてくれた。
俺の方に突撃してくる衛兵たち。
「お、おい!! ちょっと待て!! 俺は何もしてねぇ!! ステラさんもなんとか言ってくれ!!」
俺は必死に言い訳をするが、全く止まりそうにないのでステラさんにも援護を頼む。
「その人の言う通りです!! 止まってください!!」
俺の言葉に従ってステラさんが衛兵たちに声を掛ける。
これで彼らも止まってくれるだろう。
「お前達!! 耳を貸すな!! あれは犯人に言わされているだけだ!! あの男を捕らえろ!!」
『はっ』
しかし、俺の予想も虚しく、彼らはステラさんの言葉に聞く耳も持たずに俺に迫ってきた。
えぇぇええええ!?
確かに俺がお願いしたけどさぁ!!
その解釈はないんじゃないか!?
心の中で悪態をつくが、どうしようもなさそうなのですぐに逃げることにした。
「くっそ……こうなったら逃げるしかないか!! それじゃあステラさん今日はありがとう。色々助かった」
しかし、ステラさんに何も言わないのも失礼だと思い、その場で走るポーズを取って足踏みしながら今日の礼を伝える。
「いえ、こちらこそありがとうございました。楽しかったです」
「それはよかった。それじゃあまた明日!!」
「はい。また明日」
ステラさんがニッコリと笑ってくれたのを見届けた俺は挨拶をしてその場を去った。
「おい!! 逃げたぞ!! 皆の者!! 追え!! 追えぇええええええ!!」
俺がステラさんの許から離れたら衛兵たちがさらに躍起になって追いかけてくる。
しかし、そのスピードは進化してレベルの上がった俺の敵ではなく、ゆっくり走っても追いつかれることはなさそうだ。
今日のステラさんはとても綺麗だったな……。
ドレス姿のステラさんが脳裏に思い浮かぶ。
着飾ることで、ただでさえ美しい花が、まるでライトアップでもされたように輝いていた。彼女がエルフというのも相まってその美しさはまるで天使みたいだった。
いや、いかんいかん。
俺は首を振ってその姿を振り払う。
俺が好きなのはリフィルだ。断じてステラさんではない。
俺は憧れの存在の姿を思い浮かべる。今日はアイテムバッグと治癒魔導書を手に入れた。これでまた彼女の背に少しは近づいたはずだ。
明日からは少し違ったダンジョン生活が待っているだろう。
俺は新しい生活に思いを馳せながら衛兵たちから逃げ続ける。彼らが諦めたのは日が昇ったころだった。
『はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……』
その頃には衛兵たちは全員道の真ん中で座り込み、全員動けなくなっていた。
一方で俺は未だに疲れる気配はない。
疲労困憊になった彼らを尻目に、宿に戻って食べそこなった夕食兼朝食を食べ、眠りにつくのであった。
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