Evol.041 色眼鏡を外さないと見えない現実

「誰だ?」


 実はさっきから近づいてくる気配には気づいてはいたけど、何もして来なかったので無視していた。


 どうやら人気ひとけがなくなるのを待っていたらしい。


 今俺達の周りにはこいつ以外の気配がない。それは高められた俺のステータスが教えてくれている。


「名乗るほどの者じゃない」

「へぇ。それでその名乗るほど者でもないあんたは俺に何の用だ?」


 現れたのは一人の男。


 まぁ簡単に名乗ったりはしないか。


「悪いことは言わん。潔く命を差し出せ」

「まるで自分の方が格上みたいな言い草だな」


 相手の言い方に腹が立つが、それは今までも同じような事を言われたことがあるのでもう慣れている。


「実際そうだからな。お前のことは調べさせてもらった。Eランク探索者ラスト・シークレット。まさかお前があの万年最低ランク探索者の"雑魚"だったとはな。以前とは見かけが変わっていたから初めは分からなかったぞ。"雑魚"のお前がどうやってあれだけの大金を用意できたのかは知らないが、もう逃げられないぞ?」

「はぁ……お前らみたいなのはいつもそうだ。弱い相手が自分よりずっと弱いままだと勘違いしている」


 不審者は俺を見下すように以前の俺の情報をひけらかすが、その態度に俺は呆れてため息を吐いてしまった。


 こいつらは情報を集めておいて一体何をしていたのだろうか。


 俺を雑魚だという色眼鏡で見ていなければ気づけたであろう事実がいくつか含まれている。


 万年最低ランク探索者の俺がEランクになっていること、俺の見た目に変化が現れていること、そして今日あれだけの大金を用意できたという事実。


 それなのにこいつらは俺が"雑魚"だから大した情報じゃないと切り捨てた。


 全くこいつらは何を調べていたのか分からない。


 大方Cランク探索者を倒したとか、アイアンタートルを倒したとかいう噂も勘違いだとか思いこんだのだろう。


「お前こそ何を言っている? 雑魚がいくら強くなったところでたかが知れてるだろ。おしゃべりはもういい。お前ら出てこい」


 俺との会話はこれ以上無意味だと判断したらしく、周りに潜んでいた男の仲間たちがぞろぞろと現れてきた。


「そっちのお嬢さんには悪いが、一緒に死んでもらうとしよう」


 どうやら俺だけじゃなくステラさんも殺そうというらしい。


 俺に良くしてくれた彼女を狙う相手と、彼女を巻き込んでしまったという自分に怒りが溢れ出す。


 許さない。


 俺は目の前に居る暗殺者達にむかって殺気を放つ。


『~~!?』


 その直後、暗殺者達は突然硬直して動かなくなった。その顔には脂汗が噴き出している。


 一体何事かと思っていたら、


「ラストさん、威圧スキルが発動していますよ」


 隣で涼しい顔で立っているステラさんが指摘した。


 ああ……そういえばそんなスキルを持っていたな。


「さて、お前ら、覚悟はいいな?」


 俺は動けなくなっている男達に向かって指を鳴らしながら、ニッコリと笑みを浮かべてゆっくりと近づいていく。


「や、止めてくれ……!!」

「問答無用!!」


―バキッボキッベキッ


『ぐぎゃあああああっ!!』


 俺は全員をもの数分で叩きのめした。


「すまん、巻き込んでしまったみたいで……」


 全員を積み重ねた後で、ステラさんに頭を下げる。


「いえいえ、怪我も何もしてませんし、大丈夫ですよ」

「はぁ……本当にすまん。こいつらはどうしたらいいですかね?」


 ステラさんはとても素敵な笑みを浮かべる。それがなんだか俺の罪悪感を刺激して再度謝ってしまった。


 命の危険にさらされたのに全く動じていないステラさんって一体何者なのだろうか。思えば俺はステラさんの事をエルフの受付嬢って事以外何も知らないんだよな。


 しかし、今はそんなことを考えている場合でもない。襲い掛かってきた奴らをどうにかしなければならなかった。


 ステラさんに良い案はないか尋ねる。


「そうですねぇ。衛兵に付き出そうにもここから離れている間に回収されかねませんし……あ、あれを使いましょう」

「なんですか?」


 ステラさんは顎に手を当てて考えた後、ポンと手を叩いて持ってきていた小さなカバンをゴソゴソとし始める。


「これです!!」


 ステラさんは何やら小さな筒状の物を取り出した。


「それは?」

「使ってみてのお楽しみです♪ えい!!」


 取り出した物に対して尋ねたが、可愛らしくウインクをしてから空に筒を掲げて魔力を込める。


―バシュッ、ピュ~~~~、バァアアンッ


 その途端、筒の先から光の玉が飛び出し、空を上昇して数秒に爆発してピンク色の光の花を咲かせた。

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